目次
糖尿病の治療に関する基礎知識
弊社の商品開発チームの医師監修
Q. 糖尿病の治療方法にはどんなものがある?
A. 薬物療法、食事療法、運動療法の3つが主体となっています。
糖尿病の治療方法は?
糖尿病を発症してしまった場合、その患者の状態によって、治療方法も変わってきます。まずポイントとなるのは、発症したのが「1型糖尿病」なのか「2型糖尿病」なのかということです。1型糖尿病と2型糖尿病の違いを簡単に説明すると、インスリンを分泌できるかどうかということです。
インスリンは血糖値を下げる働きを持っていますが、2型糖尿病は量が少なかったり働きが十分ではないものの、インスリンの分泌はできています。対して1型糖尿病は、インスリンを分泌するすい臓のβ(ベータ)細胞という部分が何らかの理由で機能せず、インスリンをまったく分泌できないかごく少量しか分泌できません。
また、妊娠をしたことがきっかけで発症する「妊娠糖尿病」というものもあります。妊娠糖尿病は一時的な場合が多いですが、患者の症状や胎児のことを考慮しながら治療が進められます。1型糖尿病に関しては、不足しているインスリンを補う必要がありますので、インスリン注射による薬物療法は必須となります。
それ以外の糖尿病については、必要があればインスリン治療を行うこともあります。基本的にはどの糖尿病でも、共通しているのは血糖値をコントロールするということになります。そのために、「薬物療法」「食事療法」「運動療法」の3つで治療を行っていきます。
薬物療法
薬物療法は、もっとも簡単に血糖値をコントロールすることができる方法です。大きく分けて糖尿病の治療薬は「経口降下薬」と「注射薬」があります。そして、それらも作用の違いによりさらに細かく種類が分かれています。糖尿病の治療薬の効果には以下のようなものがあります。
- インスリンの分泌や効き目を高めるもの
- 肝臓から放出される糖をコントロールするもの
- 血糖値を上げるホルモンを抑制するもの
- インスリンを補充するもの
糖尿病の治療薬は、手軽に利用でき効果が高いものが多いため、糖尿病の治療には欠かせません。ですが、薬ばかりに頼って運動療法や食事療法をおろそかにするようでは、糖尿病はいつになってもよくなりません。薬物療法はあくまで運動療法と食事療法の補助と考えましょう。
食事療法
食事をすると血糖値が上がりますので、食事により血糖をコントロールすることはとても重要です。食事をすると血糖値が上がると聞いて、「じゃあ食事をしなければ血糖値は上がらないんだ」と考える人もいるかもしれませんが、食事を摂らないのはよくありません。大事なのは食べるか食べないかではなく、何をどういうふうに食べるかということです。
糖尿病の治療は、一般的に長い時間がかかります。そのため治療には「できるだけ健康な人と同じような生活が送れるようにする」という目的があります。その目的を果たすためには、食事を摂らなければなりません。糖尿病を患っていたとしても、人間なら必ずエネルギーが必要になるからです。
ですが、食事を普通の人と同じように摂っていたのでは、血糖値を改善するのは難しくなりますので、ある程度の制限は必要です。健康な人と同じ生活が送れるように食事もなるべく普通の食事を基準に、血糖コントロールができるように調整していくことが重要になります。
無理な食事制限をして血糖値を下げることができたとしても、それをこれから先ずっと続けていけるとは限りません。それに、栄養が偏ることでほかの病気を患ってしまっては元も子もありません。近年は食の欧米化の影響や、仕事のために食事時間がバラバラになるなどの理由で食生活が乱れてきており、それが生活習慣病が増加している原因にもなっています。
食事療法の基本として大事なことは以下のようなことです。
カロリーを適切な量摂取すること
適切な摂取カロリーは人によって変わり、身長、体重、年齢、1日の身体活動レベルなどから決まります。簡単な計算方法は以下の手順で行います。
身長(m)×身長(m)×22=理想体重
理想体重×25 or 35=1日の適切な摂取カロリー
22はもっとも病気の少ないBMIの数値といわれていますので、それを身長とかけることで理想的な標準体重が計算できます。次に、1日の身体活動量が少ない人は25をかけ、肉体労働をしているなど身体活動量が多い場合は35をかけます。どちらともいえない人は30をかけましょう。仮に身長175cmの人で、身体活動量が少ない人の適切な摂取カロリーは、1,684カロリーになります。
体に必要な栄養素をバランスよく摂ること
適切な摂取カロリーの計算ができたら、次はそのカロリーを栄養バランスを考えて配分していきます。一般的には主食の炭水化物が適切カロリーの半分以上を占めるようにします。次に魚や肉、卵、大豆類などのたんぱく質はカロリーの4分の1ぐらいで配分します。
それ以外は、果物、野菜、調理油などを入れます。野菜は1日350g、果物は1日2品、牛乳は1日1本飲むとよいでしょう。海藻やきのこはカロリーがないため、調味料に気をつけていれば、いくら食べても問題ありません。どの食材が何グラムで何カロリーになるかは、糖尿病学会の発行している「糖尿病食事療法のための食品交換表」が参考になります。
そのほかにも食事療法で実践できることは以下のようにたくさんあります。簡単に実践できることもありますので、できるだけ生活に取り入れて改善していきましょう。
- 食べ過ぎずに腹八分目でやめておく
- 血糖値の変動を大きくしないために朝食を抜かないこと
- 血糖値の上昇を防ぐため炭水化物以外から食べる
- 太るのを防止するため寝る3時間前までには食事を済ませる
- 塩分は高血圧による合併症の進行を早めるため摂りすぎに注意する
- アルコールはなるべく糖質の少ないものを選び飲みすぎないこと
運動療法
運動療法は、糖尿病を含むあらゆる病気に対して有効な治療法です。糖尿病にとってのメリットは以下のようになります。
血糖コントロールをしやすくなる
運動をすることで、インスリン抵抗性が減ってきてインスリンの効き目がよくなってきます。インスリンが効くということは、血糖値が下がりやすくなるということです。そのため、経口薬やインスリン注射の使用量を減らすことも可能になります。また、薬の影響で起こる低血糖状態になる可能性も減らせます。
運動をすると、食後に起こる血糖値の変動を緩やかにすることもできます。食後すぐに運動をすることで、血糖値の上昇を抑えることができるという報告もあります。
カロリーを消費でき、痩せる
運動をすることで、単純に糖を消費することができ、血糖値を下げるだけではなく痩せる効果もあります。ただし、糖尿病に有効なウォーキングやジョギングなどの軽度の運動では、そこまでカロリーを消費できないため、運動をしているからといってこれまでより多く食べすぎると、カロリーをオーバーしてしまいます。
血圧を下げ、血行がよくなる
運動をすると、血管が広がり血圧を下げることができます。また、血流がよくなり動脈硬化などを防ぐことができます。善玉コレステロールを増やす効果もあります。
ほかにも運動をするメリットはさまざまですが、では一体どのような運動をすればいいのでしょうか?糖尿病に適した運動は、ウォーキング、軽いジョギング、エアロビクス、サイクリング、水泳など酸素を取り込みながら行う「有酸素運動」です。もっとも手軽に行うことができるウォーキングがおすすめですが、長く続けるためには自分が楽しめる運動を選ぶのがポイントです。
ウォーキングの場合はゆっくり歩いても効果は低く、歩幅を大きくして心拍数が100〜120になるくらいの速さで歩くのが効果的だとされています。数字だとピンとこないかもしれませんが、軽く息が上がるくらいの速さだと覚えておきましょう。運動をする時間は20〜30分間くらいがいいといわれていますが、最初は短い時間から始めたり、何回かに分けて運動しても問題ありません。
有酸素運動以外にも、筋力トレーニングも効果的です。筋肉量を増やすことはインスリン抵抗性を減らすことになりますので、結果的に血糖値が下がりやすくなります。
運動療法を行う場合の注意事項としては、医師の指示にしたがって行うということです。特に合併症を発症している場合は、病気の種類によっては運動をすることで悪化してしまうこともあるからです。
糖尿病の治療費はいくらかかる?
糖尿病になってしまった場合、治療費はどのくらいかかるのでしょうか?糖尿病はほかの病気と比較しても、長い期間治療を続けなければいけないため、気になるところです。実際にどのくらいかかるかというのは、その患者の病状の程度、合併症の有無、薬物療法の有無、通院の頻度など一人ひとり違いますので、治療費も違うのが普通です。
以下に例をいくつかあげますが、さまざまな要素で変わりますので、あくまで目安として考えてください。表示の金額は概算で3割負担のものです。病状が軽いほど治療費も安くなります。
投薬がなく、食事療法と運動療法で治療する場合
・診察料・・・200円
・検査料金(採血など)・・・1,600円
投薬の必要がなく、食事療法と運動療法で治療をする場合は、月1回診察に行く程度で済みますので、月1,800円程度です。ほかに検査などが必要になった場合は、追加されていきます。
2種類の経口薬を処方されている場合
・診察料・・・200円
・処方箋料・・・200円
・検査料金(採血・尿検査など)・・・1,600円
・基本調剤料・・・100円
・経口薬1(30日分)・・・1,300円
・経口薬2(30日分)・・・1,300円
2種類の経口薬を処方されている場合は、月4,700円程度となります。薬が処方されると処方箋料や、薬局に払うための調剤料もかかるため少し多めになります。経口薬が増えるにつれて、薬代に加えて調剤料も少し増えます。3割負担であればそこまで大きな金額には感じません。
1種類の経口薬、インスリン療法、血糖自己測定をする場合
・診察料・・・200円
・在宅自己注射指導管理料(月28回以上)・・・2,300円
・血糖自己測定器加算(月60回以上)・・・2,500円
・処方箋料・・・200円
・検査料金(採血・尿検査など)・・・1,600円
・基本調剤料・・・100円
・服薬情報等提供料・・・100円
・内服薬調剤料・・・200円
・注射薬調剤料・・・100円
・薬剤服用歴管理指導料・・・100円
・経口薬1(30日分)・・・1,100円
・インスリン注射薬(1日4回)・・・3,100円
経口薬に加えてインスリンを自分で注射しなくてはならない場合、薬代だけではなく在宅自己注射指導管理料というものが加わりますので、月11,600円ほどになります。また、インスリン療法をするときにはその時の血糖値がいくらかが重要ですので、自己血糖測定も同時に必要になるケースが多いです。そのため、「血糖自己測定器加算」なども追加されることになります。
インスリン注射は病状に応じて量や回数が決められますので、それらが増えるほど料金も上がっていきます。血糖自己測定器も安全のために穿刺針(ランセット)は1回きりの使い捨てになっていますので、測定の回数が増えるほどその料金も上乗せされていきます。
1種類の経口薬、GLP-1受容体作動薬、血糖自己測定をする場合
・診察料・・・200円
・在宅自己注射指導管理料(月28回以上)・・・2,300円
・血糖自己測定器加算(月60回以上)・・・2,500円
・処方箋料・・・200円
・検査料金(採血・尿検査など)・・・1,600円
・基本調剤料・・・100円
・服薬情報等提供料・・・100円
・内服薬調剤料・・・200円
・注射薬調剤料・・・100円
・薬剤服用歴管理指導料・・・100円
・経口薬1(30日分)・・・1,100円
・GLP-1受容体作動薬・・・3,100円
GLP-1受容体作動薬は、すい臓にあるGLP-1というインスリンの分泌を促すホルモンの働きを助ける効果があり、糖尿病の治療に使われています。GLP-1受容体作動薬による治療もインスリン療法と同様注射により行いますので、在宅自己注射指導管理料や血糖自己測定器加算が必要になります。月の費用は上記のインスリン治療の場合とほぼ同じくらいになります。
以上は基本的な治療の概算になりますので、当然これよりも多く費用がかかる場合もあります。また、合併症などでその病気の投薬や検査、手術などの費用が発生することもありますので、はっきりとどのくらいかかるとはいえないところがあります。
ですが、上記の例を見るとわかるように、病状が軽いほど費用も少なくて済みますので、今よりも病状が改善できるように日々の生活習慣に気をつけ、悪化させないことが大事になってきます。
まとめ
糖尿病の3つの治療はどれも血糖値を下げるために重要です。薬は飲んだり注射をするだけですが、食事療法と運動療法は、患者の努力も必要になる治療法になります。そのため、人によっては実践ができずに病気が悪化し、薬が増えていくことにもなります。
インスリン注射が必要な人は、治療費もそれなりにかかりますが、2型の人は血糖値が改善していけば、薬も減り治療費はかからなくなってきます。ですから、食事療法と運動療法が糖尿病治療の要といっても間違いではありません。改善には日々の積み重ねが大切ですので、少しずつできることから始めていきましょう。