目次
糖尿病と吐き気に関する基礎知識
弊社の商品開発チームの医師監修
Q. 糖尿病と吐き気の関係とは?どんなときに吐き気は起こる?
A. 糖尿病が原因で吐き気が起こる原因はさまざまで、高血糖や低血糖、合併症、薬の副作用などで起こる可能性があります。
糖尿病と吐き気
糖尿病はその病気の特徴から、さまざまな病気を合併症として発症し、またそれによりさまざまな症状を引き起こします。その症状は頭痛、腹痛、吐き気などの一般的に馴染みのあるものから、人工透析、失明、壊疽(えそ)などの深刻なものまで多種多様です。
糖尿病の予備群の人や疑いのある人にとっては、たとえ軽度の症状でも糖尿病になってしまったのではないかと気になるものです。また、すでに糖尿病の人からしてみれば、それが普通の体調不良からきているものなのか、合併症を発症しているのかわからないため、不安になる要素でもあります。
糖尿病の人は特に、どういう病気になる可能性があるのかということをしっかり知識として持っておくと、実際にそうなってしまったときにも比較的冷静に対応できますし、病状が悪化するのを食い止めることもできます。
今回はそんな一般的な症状の中でも「吐き気」について取り上げてみたいと思います。糖尿病と吐き気はどんな関係があるのか、糖尿病の合併症で吐き気が起こることがあるのか、薬の副作用で吐き気を感じることがあるのか、吐き気を起こす合併症の予防はどうすればいいのかなどに焦点を当ててみていきましょう。
薬の副作用による吐き気
糖尿病の薬には副作用を引き起こすものがあり、その中に吐き気をもよおすものもあります。副作用は人によってまったく感じなかったり、他の人よりひどく感じたりと個人差があります。また、低血糖の症状が出やすかったり出にくかったりするものもありますので、そのことも覚えておきましょう。
ビグアナイド薬
ビグアナイド薬は、体がインスリンを効きやすくする効果や、肝臓から糖が放出されるのを抑制する効果があり、それによって血糖値を下げることができます。単独で使用した場合は、低血糖の可能性はあまりありません。おもな商品名はメトグルコ、ジベトス、グリコランなどがあります。
ビグアナイド薬はまれに「乳酸アシドーシス」という症状を起こすことがあります。これは乳酸が体内に蓄積されることで生じるアシドーシスです。腹痛、吐き気などの消化器系の症状、過呼吸、倦怠感などが現れた場合は、速やかに病院を受診しましょう。
テネリア
テネリアは、血糖値を調整しているインクレチンというホルモンを分解する酵素を阻害し、血糖値に応じてインスリンの分泌を促進させる効果があり、血糖コントロールの改善が期待できます。ほとんど2型の糖尿病患者に用いられます。
この薬は低血糖を起こす可能性がありますので、ブドウ糖などをすぐに摂れるようにしておく必要があります。ほかの副作用としては、吐き気、膨満感、便秘、腹痛、湿疹、かゆみなどがあります。
ここに紹介したもの以外にも、人によっては吐き気をもよおすものがあります。副作用が強い場合、薬が体に合っていない可能性がありますので、医師に伝えて変更してもらうほうがいいでしょう。
血糖値が高いことによる吐き気
単純に血糖値が高すぎることでも、嘔吐や吐き気などのさまざまな症状が現れます。
高すぎるというのはどのくらいかというと500mg/dL以上のかなり高い血糖値の場合です。
正常な血糖値は99mg/dL以下ですので、どのくらいの差があるかわかるかと思います。
ちなみに200mg/dLぐらいまで上がっても、ほとんど症状は出ません。
300〜400mg/dLくらいまで上がると、頻尿や倦怠感を感じたり、皮膚に発疹などが出たり、痩せてきたりという症状が出てきます。
500mg/dL以上だと、ほかに昏睡や意識が遠くなるなどの症状が現れたりと、危険な状態になることもあります。
しかしこれらの数字はあくまで目安にすぎませんので、実際はこれより低い数値でも症状が出る人もいます。
低血糖状態による吐き気
糖尿病は血糖値が高くなる病気ですので、基本的な治療としては血糖コントロールをすることにより正常な状態を保っていきます。
しかし、血糖値というものは1日の中で上下を繰り返しているものです。
そのため、インスリンの使用量やタイミングが合わないなどの理由で、血糖値が下がりすぎてしまうことがあります。
血糖値が下がりすぎた状態を低血糖といい、低血糖状態だとさまざまな症状が現れ始め、危険な状態になることもあります。個人差はあるものの、一般的には血糖値が70mg/dL以下になると、自律神経の血糖値を上げようとする反応が現れます。
具体的には吐き気、空腹感、悪心、悪寒、動悸、発汗、手の震え、不安感などです。
これらはまだ軽い症状で、血糖値が下がっていることを警告するためのものだといわれています。
これよりさらに血糖値が下がってしまうと(50mg/dL以下)、中枢神経にまで影響が現れて頭痛、眠くなる、目がかすむ、めまい、脱力感、集中力の欠如、意識が遠のくなどの症状が現れます。
これらの症状は、脳細胞のエネルギー源である糖分が不足していることにより起こります。そのため、なるべく早く血糖値を上げないと昏睡状態や意識障害になることもあります。こういった症状が現れることを事前に知っておくだけでも、低血糖の可能性があることを疑うことができますので、極度の低血糖状態を予防することができます。
低血糖の症状があると感じたら、砂糖やブドウ糖を摂取することで改善できますので、常に糖分を携帯しておくことですぐに対処できます。砂糖の場合は血糖値が上がるまで少し時間がかかりますので、できれば素早く血糖値を上げることができるブドウ糖がいいでしょう。
無自覚性低血糖とは?
低血糖時の対処方法は早急に糖分を摂取することですが、その対処が可能なのは低血糖の症状を自覚できているときだけです。実は人によってはその症状を自覚できずに、急に重度の症状である昏睡や意識障害などの症状が現れることがあります。これを「無自覚性低血糖」といいます。
無自覚性低血糖は夜寝ているときにも起こる場合があり、これを夜間低血糖と呼びます。こちらは正確には寝ているため症状に気づかないということですが、危険度は夜間低血糖のほうが高いといえるでしょう。その理由は、寝ているときに昏睡状態になっていても、他人から見れば寝ているようにしか見えず、対処が遅れてしまう可能性があるからです。
このように無自覚性低血糖は恐ろしいものですが、どういう人にこの現象が現れるのでしょうか。理由は大きく分けて2つあり、1つ目は神経障害の合併症が起きていることによるもので、2つ目は過去に中程度〜重度の低血糖を起こしたことがある場合です。また、夜間低血糖が起こる人もいくつかの特徴があります。
糖尿病神経症によるもの
糖尿病の3大合併症のひとつに糖尿病神経症というものがあります。これは高血糖のため神経にダメージを受けることにより、痛みなどの感覚を感じなくなったり、体の一部を動かすことができなくなったり、心拍や内臓の動きに異常が出てくるといった症状を引き起こすものです。
この合併症の症状のひとつである自律神経の障害が原因で、低血糖の初期の段階で起こるはずの自律神経系の症状が起きず、そのままどんどん血糖値が下がってゆき、いきなり昏睡などの重度の症状が出てしまうのです。また、自律神経障害により胃腸が正常に働かなくなり、食べたものの消化吸収のスピードが安定せず、食後でも血糖値が上がらないことがあります。
これが原因になって、血糖値を下げる薬の作用が血糖値の低いときに働いてしまうなどして、低血糖状態になってしまうこともあります。
過去に中程度〜重度の低血糖を経験している場合
もうひとつ、低血糖の初期症状が出ない理由としては、過去に中程度〜重度の低血糖を起こしたことがある場合です。中程度〜重度の低血糖を経験した場合、初期症状として起こる自律神経症状が現れにくくなってくるのです。
分かりやすくいえば、70mg/dL程度で起こっていた吐き気、空腹感、悪心などの症状が、40〜50mg/dLを下回っても発生しなくなり、いきなり意識障害などの症状が現れてしまうということです。
夜間低血糖の原因は?
では、一番恐ろしい夜間低血糖は何が原因となっているのでしょうか?夜間低血糖が起こる原因と考えられているのは、以下のようなものです。
・食事の量がいつもより少なかったり食事の時間が違ったりしたとき
・アルコールを摂取したとき
・インスリンの量が多かったり注射する部位を変えたとき
・遅くまで仕事をしたり運動量が多かったとき
基本的には、いつもの生活サイクルから外れてしまったときに起こりやすいとされています。また、夜間低血糖が疑われるポイントとしては、以下のようなものがあります。
・夜寝ているときに寝汗をよくかく
・寝ているときに嫌な夢をよくみる
・朝起きたときに頭痛がする
・朝食後の血糖値がとても高い
夜間低血糖は無自覚性低血糖の中でも、気づきにくいものです。そのため、対策も難しいところがありますが、規則正しい生活を心がけ上記のような症状が感じられたら速やかに検査を受けることが大事です。
無自覚性低血糖の予防方法
血糖値は普段から目に見えるものではありませんので、自分の感覚などでは今が高血糖の状態なのか低血糖の状態なのかわかりません。ですが、自宅で簡単に血糖値を測定できる「自己血糖測定器」などを使って、そのときの血糖値を知る方法はあります。
血を採取する必要があるため、多少の痛みをともなうことと血が苦手な人は大変ですが、一瞬で終わりますし簡単に血糖値を知ることができる良い方法です。1日の間で頻繁に血糖値を測定することで、自分の血糖値を把握でき、血糖コントロールもしやすくなります。
自己血糖測定器はインターネットの通販で買うこともできますし、薬局などでも購入可能です。針は大抵別売りですが、使い捨ての医療機器なので安全です。糖尿病の治療をしている人は保険が適用される場合がありますので、通院している病院や担当医師に問い合わせてみましょう。
ただし、夜間低血糖の場合は血糖自己測定はあまり効果的とはいえません。一般的には深夜2〜3時に血糖値が低くなるため、その時間帯に毎日測定するのは現実的ではないからです。
また、自分の低血糖が起きるパターンはどんなときかを記録しておくと、実際に低血糖になったときに素早く対処できます。血糖値の治療目標を少し高めに設定しておくことでも、低血糖の予防になりますので、気になる場合は担当医師に相談してみましょう。
中程度〜重度の低血糖を経験したことが原因で無自覚性低血糖になる場合は、数週間低血糖を起こさないように気をつけていれば、徐々に自律神経の症状を感じられるようになってきますので、しっかり血糖コントロールを行いましょう。
急性合併症(糖尿病ケトアシドーシス)による吐き気
糖尿病を患うと、糖をうまくエネルギーに変換できなくなります。その代わりに体は脂肪をエネルギーに変換することで対応しますが、その際にケトン体という物質が血中に多く増えることになります。ケトン体はもともと酸性ですので、それが血中に増えるとなると、血液も酸性になってしまいます。
これにより脱水状態になり、喉が急に異常に渇いたり、倦怠感、頻尿、腹痛などのさまざまな症状が現れますが、その中に吐き気も含まれています。症状がひどくなっていくと、頻脈、低血圧、昏睡、意識障害などの危険な状態にもなりますので、すぐに病院を受診する必要があります。
糖尿病ケトアシドーシスのおもな原因は、インスリン不足によるものですので、1型糖尿病患者に多い病気なのですが、まれに2型糖尿病患者にも起こることがあります。それは、糖分が多く含まれている清涼飲料水を大量に摂取した場合です。
大量の糖が体内に入ってくると、血糖値を下げるための器官であるすい臓は対応できず、血糖値が急上昇して昏睡状態にまでなることもあります。2型だからといって安心せずに、できるだけ大量の糖分摂取は控えるようにしなくてはなりません。
まとめ
糖尿病は、血糖値が高くても低くても吐き気を感じることがあります。また、病状が進行していくことで合併症を発症して、それが原因で吐き気をもよおすこともよくあります。これらの中には、場合によっては命に危険がおよぶものもあります。ただの吐き気だからと軽視せずに、すぐに病院に行けるようにしておくことも重要です。
あらゆる合併症の予防のためには多くの知識が必要ですが、基本は血糖コントロールになりますので、日々の良い生活習慣をしっかり守って早めに改善していきたいものです。