目次
糖尿病の運動療法に関する基礎知識
弊社の商品開発チームの医師監修
Q. 糖尿病の運動療法はなぜ必要なのですか?
A. 適切な運動療法を継続することで、インスリンが効きやすい体質へ導いたり、血糖値を下げるなど、糖尿病患者にとって大きなメリットを得ることができるからです。
糖尿病の運動療法とは?
糖尿病の治療において、運動療法は食事療法と並ぶ大事な柱です。糖尿病治療では、良好な血糖コントロールを行えるかどうかが一番のカギとなってきます。
適切な運動療法を継続すると、インスリンが効きやすい体質へ導いたり、血流の促進、体重の減少、血糖値を下げるなど、糖尿病患者にとって大きなメリットを得ることが可能です。
糖尿病の運動療法では、主に有酸素運動を中心に行います。強度は「ちょっときついな」と感じる程度のウォーキングや水泳、自転車、ラジオ体操などが推奨されています。
しかし、普段から全く運動をしない人が急に頑張り過ぎると、怪我や体調不良の原因になってしまうことがあるため注意しましょう。
十分な準備運動・整理運動を合わせて取り入れるのがおすすめです。
運動療法で予防できる糖尿病の症状・効果
有酸素運動をはじめとした「運動療法」には、血糖値を下げる効果が期待できます。
これは、筋肉への血流が増加することによって、体内のブドウ糖が細胞の中に取り込まれていくためです。
糖尿病で血糖値が高い状態が続くと、血管へのダメージが蓄積して心筋梗塞や脳内出血の原因となる「動脈硬化」を起こしやすくなります。さらに、慢性的な高血糖を放置していると、糖尿病三大合併症である「糖尿病網膜症」「糖尿病神経障害」「糖尿病腎症」などの症状が出てしまうことも少なくありません。
運動療法と食事療法、必要に応じた薬物療法を併用し、常に良好な血糖コントロールを実践できればこれらの合併症を予防することにもつながるので侮ってはいけません。
運動療法を継続して適度な筋肉・筋力をつけると、日常的にインスリンの効果が現れやすくなり血糖値が下がることもわかっています。
ただし、糖尿病運動療法では「日々の継続」が何よりも大切です。一般的に、3日程度運動をストップしてしまうと、その効果は消失していくといわれています。
また、運動療法には血糖値を下げる効果の他にも、肥満の防止、血液循環の促進、高血圧・高脂血症の予防、そして「インスリンが効きやすい体質」に改善する効果があるのです。
特に、食後に血糖値が高くなりやすい糖尿病患者は、食後1~2時間以内に20~40分程度の有酸素運動を行うことが推奨されています。
患者さんの中には「運動が苦手」「できるだけ疲れることはしたくない」といった方も多いかもしれませんが、糖尿病の悪化を防止するためには運動療法を取り入れるのは必須です。
最低でも週3回、もし可能であれば毎日少しずつでも続けるように心がけてください。
どうしても運動する時間がとれない場合には、仕事の帰りは1駅分歩いてみたり、できるだけ階段を使うような工夫も効果的です。
2型糖尿病の主な原因は、運動不足、肥満、エネルギーの摂り過ぎなどがあげられます。
運動療法によってエネルギーをしっかり消費し、血糖コントロールを上手に行っていきましょう。
糖尿病は運動療法だけで治療できる?
初期の糖尿病患者の場合には、薬物療法をスタートする前に運動療法と食事療法のみで血糖コントロールを実施することも珍しくありません。
しかし運動療法だけで治療するのは、ほぼ不可能でしょう。なぜなら糖尿病は、本来であれば脾臓から出るはずのインスリンが十分に働かないために起こる病気です。
インスリンが正常に働かないので、血液中のブドウ糖(血糖)がどんどん増えてしまいます。
健康な人でも、食事を摂った後には血糖値が上昇するものです。しかし、インスリンの働きによって血糖を正常範囲内に収めるので、大きな問題は出てきません。
糖尿病患者の場合にはインスリンが上手く作用しないため、高血糖状態が継続してしまうのです。特に、お米やパンなどの炭水化物は糖質が多い食品なので「食後血糖値」が急激に上がりやすいといわれています。
もちろん、暴飲暴食や不規則な食生活・食事時間も、血糖値の急上昇につながります。
どんなに運動療法に力を入れていても、食事管理を同時に行わなければ糖尿病の悪化を食い止められないということを常に忘れずに取り組んでいきましょう。
糖尿病の運動療法では有酸素運動と筋トレどちらが正解?
最近では、糖尿病患者の運動療法に関する情報が溢れており、実践方法を迷ってしまうこともあるでしょう。中でも、「運動療法は有酸素運動と筋力トレーニングのどちらが適しているのか?」といった内容はたびたび議論されています。
結論からお話しすると、糖尿病の運動療法においては有酸素運動をベースとして行い、軽い筋力トレーニングを適宜追加するのが正解です。
最近の研究結果では、有酸素運動と筋力トレーニングを組み合わせた運動療法を取り入れることで、治療効果が高まることもわかっています。
ただし、有酸素運動か筋力トレーニングのどちらか一方しか行えない場合には、ウォーキングや水泳などの有酸素運動を選択しましょう。
糖尿病患者が運動療法をする目的は、大きく分けて3つあります。
1つ目は、運動によってエネルギー消費を行い、血液中のブドウ糖を細胞に取り込ませて、血糖値を下げることです。
2つ目は、糖尿病患者に多い「肥満」や「高脂血症」の予防・改善です。
そして3つ目は、筋力トレーニングで筋肉を増やすことによって、インスリンの作用を高めることだといわれています。
エネルギー消費を行ったり、脂肪の燃焼を促すには「有酸素運動」が適しているため、特に食後1時間程度の運動療法では20~30分ほどのウォーキングが推奨されているのです。
運動療法に筋力トレーニングを追加する場合には、足や背中などの大きな筋肉を中心とした全身運動がおすすめです。自宅でもできる筋力トレーニングには、スクワット(屈伸運動)、足上げ運動、かかと上げ運動などがあります。
筋力トレーニングは、軽く行うのがポイントです。無理のない範囲で、1~2日おきに実践してみましょう。張り切り過ぎてしまうと、筋繊維がダメージを受けて炎症や痛みが起こる場合があります。
その際は、痛みや違和感が消失するまで筋力トレーニングをお休みするのが正解です。
糖尿病運動療法で目指す消費カロリーはどれくらい?
糖尿病治療を目的とした運動療法では、1日あたり160~240kcal程度が適切な消費カロリーとされています。ウォーキングならば、約1万歩が目標値です。
体重60㎏の人が100kcalを消費する場合、散歩やラジオ体操などの軽い運動であれば30分前後、速歩で行うウォーキングなら25分前後、ゴルフでは20分前後を目安に計算しましょう。
上り坂の自転車やジョギングなどの強い運動では、10分で100kcalの消費が可能です。
ただし、適切な運動療法はそれぞれの患者によって内容や強度が異なります。
「少しでも短時間でカロリーを消費したいから」といって、自己判断で強い運動をするのはやめましょう。
間違った運動療法を行うと、糖尿病の悪化をはじめ、低血糖発作、心筋梗塞の発症などの危険がともないます。糖尿病患者が運動療法を行う場合には、必ず医師や専門家の指導を受けてから実践するのが原則です。
最近では、歩数計(万歩計)だけではなく「活動量計」と呼ばれる製品がさまざまな大手メーカーから販売されています。活動量計は、消費カロリーをわかりやすく数値化してくれるため、糖尿病治療の運動療法において大変役立つアイテムです。
タニタ、テルモ、オムロン、パナソニックなどで取り扱っていますので、毎日の活動量管理を億劫に感じている方は、ぜひ活用してみてはいかがでしょうか。
糖尿病の高齢者が運動療法を行う目的と注意点
高齢者の糖尿病患者が運動療法をするときには、良好な血糖コントロールはもちろんのこと、体力維持や気分転換を通して「健康寿命」を伸ばす目的で行われるのが一般的です。
週に合計150分程度の軽いウォーキングや、自宅でできる屈伸運動などの筋力トレーニングを無理のない範囲で取り入れていくのが良いでしょう。
ただし、高齢者は膝や腰、心肺機能に悩みを抱えている方が少なくありません。そのため、やみくもに運動療法を行ってしまうと、膝の炎症、腰痛、心不全や狭心症といった新たな問題が起こる可能性もあります。
高齢者が運動療法を開始するときには、必ず医師の診察・メディカルチェックを受けてからスタートするようにしてください。
運動の強度や回数についても相談しておくと安心でしょう。
また、SU薬(スルフォニル尿素薬)を服用している糖尿病患者の場合には、高齢者に限らず運動療法中の低血糖に注意してください。
低血糖症状が出たときのために、ブドウ糖を携帯しておくことをおすすめします。
高齢者の運動療法では、ウォーミングアップ(準備体操)やクールダウン(整理体操)を毎回忘れずに行いましょう。そして、もし何かあったときに手助けしてくれる人がいる場所を選んで運動療法に取り組むことも大切です。
運動療法で糖尿病への効果を感じられない場合
糖尿病の運動療法を真面目に取り組んでいても、「良好な血糖コントロールができない」「インスリン抵抗性が改善しない」といった悩みを持つ方が稀にいます。
実は、2型糖尿病患者の5人に1人は、医師の指示のもと適切な運動療法を行っても「血糖コントロール」の効果が得られない可能性がある、という研究結果が発表されているのです。
ほとんどの糖尿病患者は、運動療法によって糖が細胞に取り込まれる作用を改善することができます。しかし、遺伝子(DNA)にコーディングされた情報が原因で代謝が悪くなり、通常の2倍以上の運動療法を行っても効果が現れない患者が存在するといわれています。
運動療法をある程度の期間しっかり行っても、血糖コントロールの改善が認められない場合には治療方針を変更する必要があります。
具体的には食事療法と薬物療法を中心に、より厳密な血糖コントロールを行うのが一般的です。
糖尿病運動療法での禁忌について
運動療法は正しく行うことで、血糖コントロールを改善したり、肥満の予防・改善にもつながる効果的な糖尿病治療法のひとつです。しかし、糖尿病患者の状態によっては運動療法が禁忌となることもあるので注意しましょう。
運動療法が制限・禁止される糖尿病患者は次のとおりです。
尿ケトン体が中程度以上の陽性である、血糖コントロールが異常に悪い、糖尿病腎症で腎不全を起こしている、増殖網膜症で眼底出血がみられる、糖尿病足病変による壊疽がある、重度の糖尿病自律神経障害、虚血性心疾患などの場合には、運動療法が禁忌になります。
また、関節や骨に異常がみられるときにも運動療法を制限されることが多いです。
運動療法を利用した糖尿病合併症の予防方法・注意点
糖尿病の運動療法では、主にインスリンの働きを高めて「高血糖」を改善するのが大きな目的です。高血糖が続くことで発症しやすい合併症の予防に役立ちます。
健康な人にもいえることですが、運動をすると脂肪の燃焼効果や肥満の改善にもつながるため、より快適で健康的な生活が送れるでしょう。
前述したとおり、糖尿病治療での運動療法は単独では十分な効果を発揮しません。必ず、食事療法や必要に応じて薬物療法を併用するようにしてください。
その際、自己流で食事療法や運動療法を行うと、予想外の危険がともなうので注意が必要です。
例えば、「ウォーキングよりジョギングの方がカロリー消費をするはずだ」と思い、毎日のように走り込んでいた肥満体型の糖尿病患者がいました。
しかし、体重が重い方が急にジョギングをすると膝に大きな負担がかかってしまいます。
糖尿病患者は、怪我や炎症に対する抵抗力が弱くなっているため、一度痛めてしまうと回復にも時間がかかります。
その間は思うような運動療法ができずに「運動不足」の状態となってしまうので、血糖コントロールが困難になる可能性も否定できません。
運動療法を行う際には、必ず医師と相談のうえ適切な有酸素運動からスタートするようにしましょう。膝や腰に不安を抱えている方は、水中ウォークなどもおすすめです。
急な激しい運動は、低血糖の原因になることもあるので、必ず準備運動を取り入れるようにしてください。運動療法中に低血糖を起こした場合に即時対処できるよう、ブドウ糖を携帯しておくのも大切です。
また、運動をするときには「糖尿病足病変」を予防するためにも、必ず自分の足に合った靴を履いて行うようにしましょう。糖尿病足病変とは、糖尿病患者の足に発生するさまざまなトラブルのことです。
主に、細菌感染、真菌(水虫)、足や爪の変形、タコなどが挙げられます。糖尿病患者は、足の血管が細くなっていることや、足先の神経感覚が低下するせいで重篤な足病変(潰瘍・壊疽)を起こすまで気が付かないケースも少なくありません。
最悪の場合には、糖尿病足病変の悪化で下肢を切断することもあるため、日頃からのフットケアと足のチェックを欠かさず行いましょう。
また、糖尿病足病変の治療中には運動療法の内容が制限されることも珍しくありませんので、必ず医師に報告・相談のうえ運動メニューを決定するようにしてください。
運動療法による糖尿病の正しい治療方法
糖尿病の運動療法は、1型糖尿病と2型糖尿病では治療方法が異なります。
1型糖尿病患者の場合には、食後1~3時間以内に運動を行うのがベストです。活動量が多くなりそうなときには、低血糖を予防するために運動前のインスリンを減らします。
運動前はもちろんのこと、運動中や運動後の補食として牛乳やクッキーを用意しておきましょう。
2型糖尿病患者で薬物療法を行っている場合には、できるだけ食後にウォーキングなどの運動をしてください。薬物療法を開始していない方は、食前に運動しても問題ありません。
運動前のインスリン注射は、3~5割程度に減量するのが一般的です。
しかし、運動量や状態によって減量する単位が異なりますので、必ず医師に指示された単位を守って調整してください。
まとめ
糖尿病の運動療法は良好な血糖コントロールを実現し、肥満や高脂血症などの改善にも効果的な治療法です。高血糖を改善していくことは、重度の糖尿病合併症を予防することにも直結します。
しかし、毎日決まった運動量をこなそうと思うと億劫に感じてしまう人も多いかもしれません。そんなときは、ほんの少しだけ意識をして日常の活動量を増やしてみましょう。
階段を使う、1つ先のバス停まで歩いてみる、自宅で軽い運動をするなどでも構いません。
運動療法で糖尿病治療をするうえでは、ちょっとした運動でも継続して行うことが大切なのです。