目次
糖尿病とうつ病に関する基礎知識
弊社の商品開発チームの医師監修
Q. 私は糖尿病ですが、うつ症状を感じています。これってうつ病でしょうか?
A. 糖尿病の調査では、約30%の方にうつ病の併発が確認されています。一時的でしたら大丈夫ですが、長引くうつ症状には早めの対処が必要です。
糖尿病だとうつ病にもなりやすい?
糖尿病で、こころや体が優れなくて、仕事や生活に支障が出てしまっている方。
- 夜眠れない、朝も起きられない
- だらしがないと思われるような生活態度になってしまっている
- いつも虚しさを感じている
「これって甘え?」などと自分を責めていませんか?
実は、糖尿病とうつ病は非常に関係が深いことが研究でわかっています。
うつ病のメカニズム
うつ病のメカニズムは、脳の中の神経伝達物質であるセロトニン・ノルアドレナリン・ドーパミン(総称「モノアミン」)が減少するため起こるとされてきました。
ですが、うつ病についてはまだ明確な解明はされていないのが現状です。
最近では、糖尿病をはじめバランスの悪い生活習慣やメタボリックシンドロームからも、うつ病を併発しやすいと分かってきました。
うつ病発症リスクは糖尿病だと50%高くなる
MESAの研究では、アメリカで6,000人以上の男女を対象に行われた3年間の調査によると、2型糖尿病患者はうつ病を発症する確率が50%高いと報告されました。
そして、日本の東京女子医科大学糖尿病センターでも、糖尿病とうつ病の関連調査が行われています。
1型糖尿病と2型糖尿病を持つ7,000人以上を対象とした実態調査(Diabetes Study from the Center of Tokyo Women’s Medical University,DIACET)では、2,349人33.4%の糖尿病患者からうつ症状を確認できました。
さらに、1型・2型の糖尿病にうつ病のなりやすさや症状の重さの差はないとも報告されています。
以上から、糖尿病はうつ病になりやすいと考えることができ、その関連性について注目されてきました。
うつ病を発症しやすくなる理由
しかし、糖尿病になると、どうしてうつ病になりやすくなるのでしょうか?
それは、糖尿病と診断されたことによるショックやライフスタイルの変化、自己管理の負担、合併症を発症した苦痛から、精神的なダメージの大きさがひとつの要因と考えられています。
今まで意識していなかった合併症のリスク、制限される食事、気を付けなければならない条件が増え、日常的に心理的悩みを抱えやすくなるからです。
さらに、近年では精神的な方面ばかりではなく、複雑な要因が関係しているのではないかとも考えられ研究されています。
糖尿病治療中にこんな症状を感じたら「うつ病」の可能性も
糖尿病と分かった時、誰もがショックを受けるでしょう。
しばらく落ち込んで、ボーっとしたり、塞ぎ込んだり…
ですが、このような状態が1日中、2週間以上続いていたら「うつ病」の併発に注意をしてください。
うつ病の症状
<心の症状>
- 気分がいつも沈んでいる
- 何をやっても楽しくない(好きだったことも)
- 興味がわかなくなる
- 自分は価値がない人間だと感じる
- 自分が悪いと思ってしまう
- 集中力がなくなる(話や本の内容を理解できない)
- やる気が起きない
- 落ち着きがない
- 焦る
- 死にたいと思ってしまう
<体の症状>
- 眠れない、途中で起きてしまう
- 食欲の減退または増加
- いつも疲れている
- 呼吸が息苦しい
- 頭痛や首の痛みなど、体のどこかに痛みがある
など
以前のあなたと違うと感じたら、それは、こころからのサインが出ているかもしれません。
うつ病を併発すると糖尿病が悪化しやすい
糖尿病とうつ病の併発の問題点は、大きく2つあります。
1つ目は、自律神経の働きが乱れ、ホルモン分泌の調整が悪くなり、糖尿病に関わるインスリンの作用が発揮されなくなること。
インスリンが十分出ているにも関わらず、その信号を筋肉や肝臓へ伝えられずに、糖が血中にあふれてしまいます。(インスリン抵抗性)
2つ目は、糖尿病治療に取り組む気力や意欲がわかなくなり、以下のような悪循環になる場合があります。
- 薬を飲まずに血糖コントロールを止めてしまう
- 減らしていたお酒の量が増える
- デザートを毎日食べてしまう
- 通院をおろそかにしてしまう
など
治療を怠ったり、乱れた生活習慣になって、症状を悪化させてしまうことです。
このように、うつ病は、こころと体の両方に悪影響を及ぼすため、糖尿病の症状が酷くなり、非常に重い合併症(失明・神経障害・腎症・動脈硬化など)を起こしやすくなるだけでなく、高額な治療費へと負担が大きくなるきっかけになりえます。
さらに、うつ病が重くなることで自殺願望へ進む危険性もあるのです。
糖尿病患者と自殺率の関係
糖尿病患者のこころの負担は、ときには自殺にまで追い込まれる場合もあります。
ヘルシンキ大学病(Leo Niskanen氏ら)で行われた研究では、糖尿病患者は糖尿病ではない人に比べて自殺の死亡率が高いと報告されています。(「European Journal of Endocrinology」11月号掲載)
糖尿病患者(20万人以上)と、条件を合わせた糖尿病ではないグループの計43万人以上を平均7.1年間、自殺や飲酒関連・事故による死亡率を追跡調査したところ、自殺件数は853件。
糖尿病患者の自殺件数は糖尿病ではないグループより多い結果となりました。(内インスリン投与男性2.10、経口血糖降下薬服用女性1.62)
また、インスリンを投与と、経口摂取による血糖降下薬の単独服用でも差があり、特にインスリンを投与している患者に自殺は多くみられています。
そして、日本の国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所や岡山大学病院精神科神経科らの研究チームによって、『糖尿病と自殺・事故死の関連性』を調べた研究では40代~50代で、糖尿病患者の自殺リスクが高いことが分かりました。
日本人40歳~69歳の男女10万人以上を約12年間にも渡って追跡調査した結果は、以下の通りです。
・調査した人数のうち糖尿病と診断されたと回答した人
⇒男性3,250人、女性1,648人
・期間中に亡くなった糖尿病患者
⇒自殺41人、事故72人
年齢別に分析してみると、働き盛りの40代~50代の糖尿病患者の自殺リスクは、糖尿病になっていない人たちに比べると高くなっていました。
【自殺のリスク】
・40代→1.5倍
・50代→1.2倍
糖尿病はこころのケアも大切
糖尿病ではない人と比べると、糖尿病を患っている方の方がなぜ自殺が多くなるのでしょうか?
うつ病は自殺のリスクを高める因子です。
40代~50代という若い世代では、糖尿病による規制の多い生活習慣やインスリン注射の治療、網膜症などの重度の合併症、まだまだお金が必要となる時期に働けなくなるなどから精神的なストレスが強いと考えられています。
実際に研究でも、60代以上では自殺のリスクは上がっていませんでした。
これによって、糖尿病とうつ病の併発は症状の悪化だけではなく、自殺率も高めてしまうことにつながりやすくなります。
ですので、糖尿病になってしまったら、一層自分のこころの変化に目を向けることが大切です。
うつ病から糖尿病になることもあるの?
うつ病から糖尿病になる確率は、うつ病ではない人に比べて60%も高いといわれています。
その理由として、以下の2つの要因があります。
1.インスリン抵抗性による血糖の上昇
2.ホルモンの分泌による血糖の上昇
再度の説明になりますが、うつ病によって「インスリン抵抗性」という筋肉や肝臓への信号が届かなくなるため、血中の糖分が上昇しやすいリスクが出てくるのです。
そして、ストレスに反応して分泌されるコルチゾール(ステロイド系抗炎症薬としても使用されている)というホルモンがあります。これが、血糖を上昇させる作用があるのです。
うつ病では常にストレスが多くかかるため、コルチゾールが慢性的に分泌されている状態ですので、うつ病の人が糖尿病になる要素は高いといえるでしょう。
糖尿病とうつ病を併発した場合の治療法は?
糖尿病の治療は負担を感じやすいですが、うつ病が酷くなってしまうとどちらの治療も困難になってしまいます。
うつ病は、なっていたとしてもすぐには自覚しにくい病気です。
「いつもとは違う」とは思いながらも、うつ病であると認識しにくいもの。
こころや体調からのサインに早く気が付くことが大切です。
抗うつ薬での治療は効果的
うつ症状に気づいたら、1人で抱え込まず、早めに担当医や心療内科で相談しましょう。
うつ症状が改善すれば、血糖コントロールも良好になり、糖尿病治療も順調に運ぶようになるのです。
2019年7月に報告された米国内分泌学会の研究では、薬を使ってのうつ症状の改善で、糖尿病患者の死亡するリスクを35%低下できることが明らかになっています。
ですが、薬による治療は効果的とされているのにもかかわらず、糖尿病やうつ病を抱えている人の半数は、医療機関を受診していないと確認されているのが実状です。
「認知行動療法」も効果的
うつ病の治療法には、薬を使わない方法もあります。
認知行動療法とは、「物事の考え方・とらえ方」をソフトに受け止め、楽な気持ちへと導く治療法です。
なにか出来事が起こった時に沸き起こる、考えやイメージを気分の軽いものにし、現状を少しでも楽にしていこうと働きかけていきます。
これは、医学分野でも世界標準とされている治療法なので、こころのケアにとても効果的な方法です。
2型糖尿病患者に対する認知行動療法を使用した研究では、以下のような結果がでました。
【うつ病になる割合】
・通常の糖尿病治療だけをしたグループ
⇒80%
・糖尿病治療に加え、認知行動療法を6ヶ月間受けたグループ
⇒35%
認知行動療法を受けた場合、糖尿病患者がうつ病を発症する割合は35%と低い結果が報告されているため、うつ病の治療に有効です。
このように、たとえうつ病を併発してしまっても、対処していけば改善の道はありますので、まずは、少しでもうつ症状を感じたら、診断を受けることからはじめてみてください。
周りのサポートも大切
糖尿病でもすべての人がうつ病になるわけではありません。
家族の支えがある方や一人暮らしでも経済的に安定している方は、比較的うつ症状になりにくいといわれています。
とはいえ、糖尿病は長く付き合っていく病気なので、時には疲れてしまったり、思ったような成果を感じられない時もあるでしょう。
そんな時、ご家族や周りからの理解や治療・通院、生活習慣のサポートがあると心強い支えとなります。
糖尿病の知識を高めよう!
「何をしたらいいか分からない」という人もいるのではないでしょうか。
本人をはじめ、ご家族皆で糖尿病について知り、日々どんな選択をすれば安心なのか知識を増やしていきましょう。
例えば、食事の取り方も工夫できます。
仕事で帰宅が遅い時間の人は、食事を摂った後すぐに寝てしまうと、血糖が上昇しやすいです。そのため、血糖値を上げるごはんは、おにぎりなどを夕飯の30分くらい前に食べておき、帰宅してからおかずだけを食べるようにすると、血糖の上昇を抑えられます。
また、これまでの糖尿病食はカロリー制限が主流でしたが、糖質制限を推奨する医師もいます。
そして、サプリメントを活用して、血糖コントロールするのもひとつの手です。
このように、糖尿病に関わる知識を増やせば、あなたの選択肢を広げていけます。
どれが自分に合う方法なのかを見つけるには、知識を豊富にしていて損はありません。
制限の多い自由のない生活に目を向けるのではなく、行動を取ることによって得られる「良い結果」に目を向けるとより糖尿病の改善にも近づけます。
まとめ
糖尿病とうつ病の関係は強く、また、うつ病も糖尿病になる確率が高い病気です。
併発すると糖尿病治療を続けるのが困難になり、症状を悪化させ重篤化へと進ませる可能性がありますので「うつ病かも?」と思ったら早く対処することをおすすめします。
また、きちんと血糖コントロールができている人と比較して、「自分はいつも不調で、気持ちも沈みがちだから甘えているのだろうか?」などと自分を責める必要はありませんよ。
うつ病を併発しているのかもしれませんし、まだ糖尿病との付き合い方を知らないだけという場合もあるのです。
ぜひ、ご自分にあった丁度良い方法を見つけてください。そして、このサイトでも糖尿病の知識を増やしていってくださいね。