目次
糖尿病と乳製品に関する基礎知識
弊社の商品開発チームの医師監修
Q. 糖尿病でも牛乳やヨーグルトなどの乳製品は食べていいですか?
A. 食べても問題はありません。ただし、1日の摂取目安量を必ず守るようにしてください。
糖尿病食事療法と乳製品の関係とは?
糖尿病を治療していくにあたっては、食事療法と運動療法を大きな柱として血糖コントロールを行うのが主流です。
運動療法の場合には、20~30分のウォーキングをするなど「やるべきこと」が明確なので、強い意志さえ持っていれば実践しやすいといえるでしょう。
しかし、食事療法ではさまざまな食品を組み合わせながら毎日の摂取カロリー・栄養素を計算しなければならないため、戸惑う糖尿病患者さんが多いのが現実です。
数ある食品の中でも、糖尿病治療中の方が悩みがちなのは「乳製品」の摂取についてではないでしょうか。乳製品という大きなグループの中には、牛乳、ヨーグルト、チーズなどが含まれます。高たんぱく食材として親しまれている乳製品ですが、同時に高脂肪でもあるのです。
糖尿病を患っている方が栄養管理をしていくときには、肥満や高血圧、高脂血症、カロリーオーバーを防ぐために、脂肪分の高い食事は避けるべきだといわれています。
また、高脂肪食は糖尿病の悪化や心臓血管系疾患の発症リスクを上昇させるので、「糖尿病だから乳製品を控えた方がいいのかな?」と悩むのも無理はないでしょう。
しかし、糖尿病患者が食事療法を行う中では、あらゆる食品をバランスよく取り入れるのがベストです。牛乳やヨーグルト、チーズなどの乳製品は、カルシウムやたんぱく質を効率よく摂取するために欠かすことができません。
糖尿病を治療している方は、乳製品の飲み方、食べ方、タイミング、選び方に注意するようにしましょう。
詳しい内容はこの記事で後述させていただきますので、ぜひ参考にしてみてください。
糖尿病だと牛乳は飲まない方がいい?
糖尿病患者から多く聞かれる悩みのひとつとして、「糖尿病だと牛乳は飲まない方が良いですか?」という疑問があります。牛乳に含まれている乳脂肪分やカロリーが気になっているのかもしれませんね。
結論からお話しすると、糖尿病治療中の方が牛乳を飲むことについては全く問題ありません。ただし、毎日500ml以上の牛乳を飲んでいる場合には飲み過ぎとなります。
牛乳を1日500ml飲むことが推奨されているのは、栄養をたくさん必要とする妊娠中の女性くらいです。
糖尿病患者の1日あたりの摂取目安量は、200ml(コップ1杯程度)といわれています。
朝食時と夜のお風呂あがりに各1杯ずつ飲んでいる場合には200mlをオーバーしてしまいますので、どちらか1回にするか低脂肪牛乳に変更すると良いでしょう。
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糖尿病患者が牛乳を飲むと血糖値が下がるって本当?
糖尿病治療中の方が牛乳を飲むと、「血糖値が下がる」といった話を耳にしたことはありませんか。実はこれ、少し間違った認識なのです。
まず、牛乳自体に血糖値を下げる効果はありません。
ですから、「牛乳を飲めば飲むほど血糖値が下がる」と勘違いして多量摂取することはやめましょう。前述した通り、1日の摂取目安量はコップ1杯程度(200ml)です。
しかし、食事の際に牛乳などの乳製品を一緒に摂ると、食後血糖値が上がりにくくなることがわかっています。
特に、朝食時に牛乳を飲むと昼食後の血糖コントロールも良好になるというから見逃せません。これは、セカンドミール効果と呼ばれており、たんぱく質と脂肪分の多い牛乳を摂取することで糖の吸収を穏やかにし、血糖値を上がりにくくする働きによるものだといわれています。
この研究は、カナダのゲルフ大学「人間・機能性食品ユニット」のダグラスゴフ教授がトロント大学と共同で行ったものです。
朝食にシリアルと牛乳を摂取したチームと、シリアルと水を摂取したチームでは食後血糖値に大きな変化が出ました。牛乳を飲んだチームに限っては、血糖値の上昇が抑えられていたのです。
牛乳自体が血糖値を下げる作用を持つわけではありませんが、食事と一緒に飲むことで2型糖尿病の血糖コントロールを改善する事実が判明しています。
糖尿病治療中にはヨーグルトの食べ方を工夫しよう
糖尿病の方がヨーグルトを食べる際には、食べ方を工夫するのも大切です。特に、食前にヨーグルトを摂取すると高血糖を抑える効果が期待できます。
食事療法でも指導されることが多い「ベジファースト」は、野菜を先に食べることによって食後血糖値の急上昇を予防する効果がありますが、実はヨーグルトにも同様の作用があるという研究結果が出ているのです。
ヨーグルトヨーグルトを食前に摂取した場合、食後15分、30分、45分、90分における血糖値の上昇が抑えられることが明らかとなっています。これは、ヨーグルトに含まれている「乳ホエイ」のアミノ酸や乳酸が働き、高血糖抑制作用を発揮するためです。
また、ヨーグルトを習慣的に食べるようにすると、インスリン受容性が改善する可能性が高いともいわれています。インスリンの効きが良くなると「血糖」をスムーズに下げられるため、糖尿病患者に多くみられる血管系の炎症を抑制することにも直結します。
ただし、ヨーグルトにも牛乳同様に乳脂肪分が含まれていますので、食べ過ぎには注意が必要です。1日あたり100gまでを目安にして、全体の食事量や栄養バランスを考慮しながら上手に取り入れていきましょう。
糖尿病におすすめのヨーグルトの種類は?
たんぱく質摂取や血糖コントロールにも効果的なヨーグルトですが、糖尿病治療中にはどのような種類を選べば良いのか悩んでいる方も少なくないでしょう。
糖尿病患者さんにおすすめのヨーグルトは、生乳を発酵させただけの「プレーンヨーグルト」です。100gあたりの糖質量は約5g、カロリーは60kcal程度となっています。
砂糖や果実などは一切混ぜていないため、余分な糖質を摂取する心配がありません。また、乳脂肪分の調整も行われていないので脂質が気になる方でも安心して食べることができるのは嬉しいポイントでしょう。
また、ヨーグルトを選ぶ際には注意して欲しい点があります。
スーパーやコンビニなどの棚には、さまざまな種類のヨーグルトが並んでいますが、中には「無糖」「低糖」と書かれたものがあります。
食事療法を行っている糖尿病患者にとって、これらのワードは魅力的に感じるかもしれませんが、プレーン以外のヨーグルトは選ぶべきではありません。
無糖ヨーグルトは、その名の通り「糖分を加えていないヨーグルト」のことです。一見、糖尿病に向いていそうな種類にも見えます、しかし、原料として生乳以外にも脱脂粉乳や生クリームが含まれていることも多いので注意しましょう。
低糖ヨーグルトは、摂取カロリーを気にする人に向けて加工された「糖分控えめのヨーグルト」です。ただし、低糖だからといってプレーンヨーグルトより糖質が抑えられている訳ではありません。
甘味が足されているため、プレーンヨーグルトより糖質量は多くなっています。
糖尿病治療中の方がヨーグルトを選ぶなら、無糖、低糖を避けるのが無難です。必ず、生乳100%のプレーンヨーグルトを選ぶようにしてください。
糖尿病治療中に間食でチーズを食べてもいい?
糖尿病で食事療法を行っていると、どうしてもお腹が空いて「間食」をしたくなることがあるでしょう。その際に、チーズを選ぶべきか迷う方も多いかもしれません。
チーズは、たんぱく質・脂質・糖質がバランスよく含まれているため、血糖値の上昇を穏やかにする食品なので、間食には適しているといわれています。
1日の摂取カロリーや脂質量、糖質量を超えない範囲であれば、おやつとして食べても問題はありません。
しかし、クリームチーズなどは脂質を多く含んでいるので、糖尿病患者の間食には不向きです。ナチュラルチーズを数種類混ぜて加工された「プロセスチーズ」を選ぶようにしましょう。
プロセスチーズは他のチーズと比較して脂質が少ないため、肥満や高脂血症に不安を抱えている患者さんでも安心して食べることができます。
例外として注意して欲しいのは、糖尿病合併症のひとつである「糖尿病腎症」と診断されている方です。チーズには多くのたんぱく質が含まれているので、腎臓機能が弱っている場合には大きな負担となります。
糖尿病腎症を発症している方は、自己判断でチーズを間食に取り入れることはやめましょう。必ず医師と相談のうえ、食べても良いのかを確認するようにしてください。
糖尿病でもチーズケーキなら食べても大丈夫?
糖尿病治療中は、厳しい食事療法を行う必要があります。しかし、たまには甘いものが食べたくなることも少なくないでしょう。「間食にチーズが良いならチーズケーキも大丈夫なのかな?」と悩んでいる方も結構いますよね。
そんなときにおすすめなのが、糖質を大幅にカットした「低糖質チーズケーキ」です。
低糖質チーズケーキは、血糖値の急上昇を抑える作用がある豆乳やヨーグルトを使って作られているため、通常のチーズケーキより血糖コントロールを乱すことなく楽しむことができるのです。
最近は、コンビニスイーツでも低糖質シリーズが多くみられるようになりました。
スティック型のチーズケーキなら、糖質6.5~8.4g程度でカロリーは100~120kcalほどです。「時々のご褒美程度」であれば、糖尿病治療中の方でも食べて構いません。
ただし、糖尿病の進行具合や合併症の有無によっては、低糖質のチーズケーキであっても禁止されることがあります。必ず医師と相談をしてから食べるようにしましょう。また、甘いものには依存性があるため、一度手を出すとやめられなくなってしまう糖尿病患者も珍しくありません。しっかりとした自制心を持って、上手に取り入れていくことが大切です。
糖尿病で禁止される乳製品はあるのか
牛乳、ヨーグルト、チーズなどの乳製品に限らず、糖尿病だからといって食べることを禁止されている食品はありません。全ての食品において、栄養素とカロリーに配慮しながらバランスよく食事を摂ることが重要です。
しかし、乳製品の中には脂質や糖質が多く含まれているものがあります。代表的なものは、バター、クリーム、練乳、アイスクリーム、乳酸菌飲料などです。
これらの乳製品を摂取する際には、1日あたりの脂質、糖質の摂取目安量を超えないようにコントロールしていきましょう。
さらに、食塩不使用以外のバターには10gあたり55mgのナトリウムも含まれています。
糖尿病腎症と診断されている方は塩分の過剰摂取につながる恐れもありますので、注意してください。
乳製品が糖尿病予防・リスク低下に効果的って本当?
糖尿病を予防したいと考えたとき、多くの人は「糖分や脂肪分の多い食事を避けよう」と思うものです。しかし、牛乳やヨーグルトなどの乳製品には脂肪分が豊富に含まれているにも関わらず、糖尿病の予防効果があるということが明らかになっています。
日頃から牛乳やヨーグルトといった乳製品を積極的に食べる人は、ほとんど摂取しない人に比べて23%も糖尿病にかかるリスクが減少したといいます。
この研究はスウェーデンで行われ、45~74歳の26,930人を対象に14年間にわたって調査されました。
脂肪分が多い食品は乳製品以外にもありますが、肉の摂取量が多い人では糖尿病のリスクが上昇することもわかっています。
肉に含まれる飽和脂肪酸やコレステロールを多量に摂取すると、2型糖尿病のリスクを上げてしまいますが、乳製品に含まれている脂肪分に限っては予防につながるという驚きの研究結果です。
ただし、糖尿病リスク低下や糖尿病悪化予防のために、乳製品ばかりを食べるのは肥満の原因となってしまいます。さまざまな食品を取り入れながら、全体のバランスを調整して健康的な食生活を送ることが重要です。
乳製品もバランスよく摂取して糖尿病を治療しよう
乳製品に限らず、あらゆる食品や栄養素をバランスよく摂取することが、糖尿病治療においては大切です。糖尿病の食事療法と聞くと「制限ばかりされて大変そう」「食べたいものを我慢しなければならないなんて辛い」と感じる人も多いでしょう。
しかし、糖尿病治療で指導される食事療法は、なにも特別なものではありません。身体のことを一番に考えた「栄養バランスの良い食事」を心がけるだけです。
牛乳やヨーグルトが、良好な血糖コントロールのサポートとなることは前述しましたが、「乳製品=糖尿病でも安心して食べていいもの」と勘違いして、大量に摂取してしまう人も少なくありません。
寝る前の空腹を紛らわすために、プレーンヨーグルトを400g全て食べてしまうという糖尿病患者さんも実際にいるようですが、絶対に真似しないようにしましょう。
プレーンヨーグルトが推奨されているのは、1日の摂取量を守ることが前提での話です。どんなに身体に良いものでも、過剰摂取すれば必ず問題が出てくるものです。
これは、健康な人にも同様のことがいえます。例えば、「便秘には食物繊維がいいって聞いたから、今日はこんにゃくしか食べない」と偏った食事をした場合には、食物繊維の過剰摂取によって便が固くなり、便秘を悪化させることも珍しくありません。
あくまでもバランスの良い食事の一環として、乳製品を取り入れるのが正解です。
牛乳は1日あたり200ml(コップ1杯)、ヨーグルトは100g、チーズは40gを目安にして、糖尿病の食事療法を正しく実践していくことが大事です。
まとめ
現代医療において糖尿病は、そもそも「完治しない病気」とされています。しかし、病状の進行や悪化、糖尿病合併症を予防することは可能です。
これから先も健康な方とほぼ同じような生活を送るためには、糖尿病の初期段階から正しい食事療法と運動療法を行い、良好な血糖コントロールを維持することが重要となってきます。
今回お話しした牛乳やヨーグルトなどの乳製品に限らず、さまざまな食品の食べ方や量、タイミングを意識しながら、血糖値の上昇を抑えて糖尿病と上手に付き合っていきましょう。