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糖尿病は糖質制限で改善できるのか

糖尿病と糖質制限に関する基礎知識

弊社の商品開発チームの医師監修
Q. 糖尿病の人が糖質制限をするのは危険って本当ですか?
A. 最近の糖尿病治療では、糖質制限食が推奨されています。しかし、極端な糖質制限を自己流で行ってしまうと、ケトアシドーシスや低血糖発作などが現れることもあるため、危険です。必ず医師と相談のうえ行うようにしましょう。

この記事の監修ドクター
自然療法医 ヴェロニカ・スコッツ先生
アメリカ、カナダ、ブラジルの3カ国で認定された国際免許を取得している自然療法専門医。
スコッツ先生のプロフィール
https://gluco-help.com/media/lose-weight-diabetes27/

 

糖尿病の糖質制限とは

糖尿病の食事療法といえば、これまでは「摂取カロリー量の管理」が主流でした。糖尿病を発症する原因のひとつとして、肥満が大きく関わっていると考えられていたからです。
肥満を解消することによって、インスリンの効きがよくなり糖尿病の高血糖を改善できるといわれていました。

もちろん、肥満や内臓脂肪は糖尿病発症リスクを高める要因のひとつです。しかし、現代の食生活では糖質の摂り過ぎによる「痩せの糖尿病患者」も少なくありません。
これは、ペットボトルジュースやお菓子、スイーツ、菓子パン、ファーストフードなど、砂糖やブドウ糖、炭水化物を多く含む市販食品・飲料が手軽に入手できるようになったことも関係しています。

糖尿病は、血糖値を下げる働きがあるインスリンというホルモンが、膵臓からスムーズに分泌されなくなってしまう病気です。また、インスリンの効きが悪くなる「インスリン抵抗性」が高まることも原因となっています。そこで、糖尿病の食事療法として注目され始めたのが、糖質制限食です。
砂糖やブドウ糖をはじめ、白米やパン、麺類などの炭水化物摂取量を減らし、血糖値自体を上げないようにすることが目的とされています。

また、従来の糖尿病食事療法の「カロリー制限食」は、カロリーの計算が面倒なことや、摂取カロリーを気にしていると満足感を得られないといった問題点がありました。これにより糖尿病食事療法を継続しにくくなり、治療から離脱してしまう患者さんも多かったのも事実です。
食事で満足感を得られないことは、糖尿病治療を行っている患者さんにとっては大きなストレスとなってしまいます。

しかし、糖質制限食であれば「糖質摂取量さえ注意すれば、毎回の食事でお腹いっぱい食べられる」というメリットがあります。血糖値の上昇に直接関係する「糖質」を減らし、食後血糖値の大幅な変動を抑えることで、糖尿病を上手に管理していこうという食事療法が「糖質制限食」です。
国債肥満学会の発表では、糖尿病患者さんが糖質制限をすることによって「血糖値」だけではなく、肥満、中性脂肪、高血圧の改善にも効果があるといわれており、糖尿病合併症である動脈硬化や心疾患、脳卒中の予防にもつながると期待され、注目を集めています。

糖質制限食で糖尿病悪化を予防できる?

実際に、糖質制限食を実践すると糖尿病の悪化を予防することはできるのでしょうか。
糖質制限による糖尿病治療の権威であるアメリカのバーン・スタイン氏は、自身が発表した論文のなかで次のような効果を述べています。

まず、糖質制限を行うと、インスリン注射の使用量を減らすことができます。食事から摂取する糖質自体を制限すると、食後血糖値が上昇しにくくなり、良好な血糖コントロールを実現できるのです。

また、糖質制限食には「カロリー制限食」「脂質制限食」と同じレベルの肥満改善効果が期待できます。肥満は、内臓脂肪も増やしてインスリン抵抗性を高めることがわかっています。インスリンの効きが悪くなると、高血糖状態が長時間継続して、糖尿病を悪化させます。その結果、動脈硬化や心疾患をはじめ、網膜症、神経障害、腎症などの糖尿病合併症のリスクを高めるといわれているのです。

従来のカロリー制限食では、体重を減少させて肥満改善をすることによって、血糖コントロールをよくしようといった目的がありました。しかし、糖質制限食の場合には体重減少効果があらわれてくる前に、すみやかな血糖コントロールの実現が可能であることも大きなメリットといえるでしょう。
このような理由から、糖質制限には糖尿病の悪化や、重篤な糖尿病合併症の発症を予防する効果があるとされています。

糖尿病の食事療法で大切なのは、一時的な血糖改善ではなく「長期間にわたって良好な血糖コントロールを継続すること」です。現在の医療では、糖尿病は完治しない病気といわれているのは、ご存知の方も多いでしょう。
そのため、満足感を得られない「カロリー制限食」よりも、糖質の摂取量にさえ注意していればお腹いっぱい食べることができる糖質制限食の方が、無理なく糖尿病治療を続けやすく、患者さんが食事療法に感じるストレスの軽減にも役立つといえるのです。

糖尿病患者が自己流で糖質制限を行う危険性は?

前述した通り、糖質制限は糖尿病治療において有効だとされています。しかし、「糖質制限をすれば糖尿病が治る」などといった偏った情報だけを鵜呑みにして、患者さんが自己流で糖質制限を行ってしまうと、あらゆる危険性が伴うため注意が必要です。

特に、血糖降下薬やインスリン注射での薬物療法を行っている患者さんの場合には、極端な低糖質食に切り替えてしまうと、低血糖発作を起こす危険性があります。
糖尿病の糖質制限で推奨されているのは、ゆるやかな糖質カットです。「炭水化物を完全に除外する」「糖質を含む食品を一切摂取しない」など、自己判断で極端な糖質制限をスタートさせた場合には、薬とのバランスが悪くなって血糖コントロールが思わぬ形で乱れてしまうことも少なくありません。糖尿病で薬物療法を行っている患者さんは、糖質制限を実践するかどうかを必ず医師と相談してから決定するようにしてください。

また、糖質制限は高齢の糖尿病患者さんには不向きだと話す医師や専門家もいます。特に65歳以上の方は注意しましょう。
糖質制限食では、糖質を多く含んだ食品を減らす分、主食以外のおかずをしっかりと食べなければなりません。1日に摂取すべきカロリー量を、糖質以外から摂る必要があるためです。高齢者の場合、「1回の食事でたくさんの量が食べられない」といった方も多いでしょう。

このような方が、無理な糖質制限食を開始してしまうと、慢性的なエネルギー不足に陥ってしまうのです。そこで、身体の機能を維持するために筋肉のアミノ酸や脂肪のグリセロールを材料として糖を作り始めます。それでもエネルギーが足りなくなると、今度は身体の脂肪酸をエネルギーとして使用する働きにスイッチが入り、脂肪酸をどんどん分解します。

脂肪酸が分解される際には、副産物として「ケトン体」と呼ばれる物質が作られますが、このケトン体が血液中に急激に増加すると、高ケトン血症になって血液が酸性に傾いてしまうのです。これを、ケトアシドーシスといいます。
糖尿病でケトアシドーシスが起こると、嘔吐、悪心、腹痛、脱水などの症状があらわれ、低血圧や頻脈になってしまいます。
そのまま放置して重症化した場合には、昏睡や意識障害を起こして命に関わることもあるといわれているため、注意しましょう。

糖質制限食は、糖尿病の食事療法として非常に有効な方法のひとつですが、間違った制限の仕方や、患者さん自身に合わない方法で実践してしまうと、思わぬ危険が伴うこともあります。
最近では、ブログや本などでも「糖質制限」を推奨する情報が溢れており、それらの一部分だけを知った患者さんが、自己流で糖質制限を行って身体に負担をかけるケースも少なくありません。
糖尿病治療を開始している患者さんが糖質制限を始める際には、必ず主治医と相談してから適切な方法を探るようにしましょう。

糖尿病の糖質制限には問題点だらけ?

糖尿病の食事療法について調べていると、さまざまな意見や考え方に遭遇します。その中で多く見られるのは「糖尿病の人が糖質制限をしてもよくならない」「糖質制限には問題点だらけ」「糖質制限は危険だからやめるべき」といった、糖質制限食を批判するような内容です。
これらは事実なのでしょうか。そして、実際には糖尿病の糖質制限にどのような問題点があるのでしょうか。

糖質制限を片端から批判している人は、医師などの医療関係者ではなく「一般人」であることがほとんどです。極端な糖質制限や、間違った糖質制限を実践した結果、前述したようなケトアシドーシスを起こしたり、血糖降下薬やインスリン注射との兼ね合いが上手くいかずに、血糖コントロールを悪化させたりした経験がある患者さんなどが「糖質制限には問題点が多い」とあちらこちらに書き込みをしているのが現状です。
前述した通り、極端な糖質制限や自己判断での糖質制限は問題点のひとつに挙げられるでしょう。

しかし、Yahoo!知恵袋などの質問サイトでは、多くの場合に一般人が回答をつけています。糖質制限について、「他の人の意見を聞きたい」とネットでさまざまな検索や質問をする方も少なくないでしょう。ですが、ネット上に溢れている全ての情報が正しいとは言い切れません。
糖尿病治療においての糖質制限食は、10年ほど前にはまだ広く知られていませんでした。日本糖尿病学会のガイドラインにも、以前は糖質制限についてまったく触れられていなかったほどです。

しかし、糖尿病患者数が年々増加していることを受け、世界中のあらゆる専門家が糖質制限の有効性について研究や調査を行っています。そのなかで、糖質制限が糖尿病改善・予防に効果的だといったエビデンスが明らかとなっているのです。
古い情報に惑わされることなく、「本当に正しい情報は何なのか」という視点で、しっかりと見極める力も必要となってきます。
疑問に思う点があれば、かかりつけの医師に相談するなどして、問題点の確認、正しい実践方法を知ることがベストでしょう。

糖尿病で糖質制限を実践するデメリットとは?

糖尿病患者さんが糖質制限を行うときには、けっして自己流で実践してはいけないといったお話を繰り返してきました。
正しい糖質制限を実践できれば、血糖コントロールの改善、肥満予防、内臓脂肪の減少など、あらゆる効果が期待できます。しかし、自己判断での過度な糖質制限を行うと、確かに血糖値自体は低くなりますが、エネルギーや他の栄養素が不足するデメリットがあります。

糖質を含む食品として代表的なのは、日本人の主食である精白米です。また、芋類や麺類、豆類、かぼちゃやトウモロコシなどの野菜にも多くの糖質が含まれています。
これらの食品を完全にカットしてしまうと、食物繊維やビタミン、ミネラル、カルシウムといった栄養素が十分に摂取できなくなってしまうのです。

糖質制限を行う際には、食品が持つ栄養素をしっかりと把握しておく必要があります。糖質制限で炭水化物の摂取量を減らす場合には、不足した分の栄養素をその他の低糖質食品から補わなければなりません。

また、「糖質イコール炭水化物」と勘違いしている患者さんも多いですが、これは間違いなので注意しましょう。肉ならいくらでも食べていいと思い込んで、唐揚げやとんかつなどの高脂質食品ばかり摂取してしまうのは危険です。脂質の過剰摂取につながり、肥満を助長して糖尿病を悪化させてしまいます。
野菜や果物をはじめ、乳製品、大豆製品、きのこ類、魚などからバランスよく栄養素を摂取するように心がけてください。

糖質制限で糖尿病になるリスクが上昇するって本当?

糖質制限食を実践しようと思っている人のなかには、「糖尿病を予防したい」「ダイエットを成功させたい」といった目的の方も少なくないでしょう。
しかし、糖は私たち人間が生きていくうえで必要不可欠な栄養素のひとつです。脳が正常に働くためにも欠かすことができません。そのため、極端な糖質制限を行ってしまうと、生命維持に危機を感じた身体が「糖新生」と呼ばれる反応を起こして、筋肉や脂肪から糖を生み出そうと必死に動き出します。

糖新生は、糖不足によるストレスなどで分泌される「コルチゾール」というホルモンが作用して起こるといわれています。しかし、筋肉を分解してまで糖を作りだそうとする働きは、身体にとって異常事態ともいえるのです。

無理な糖質制限の結果、慢性的な低血糖状態になってしまうと、生命を守るためにコルチゾールを分泌して糖を生み出すと同時に、「インスリン」の効きを悪くして、できるだけ血糖値を下げないように働きだします。
これをインスリン抵抗性と呼びますが、このインスリン抵抗性が強くなるにつれて、みるみるうちに血糖値を下げられない体質へと変化し、糖尿病を発症させるリスクが高まるといわれています。

糖尿病は、糖の摂り過ぎが発症要因のひとつとして考えられていましたが、過剰な糖質制限によっても引き起こされる可能性が指摘されており、安易な糖質制限ダイエットには注意が必要です。

緩やかな糖質制限で糖尿病を改善しよう

糖尿病の食事療法で、糖質制限食を実践する際には「緩やかな糖質制限」を行うことが、無理なく継続するためのポイントです。
糖質制限と聞くと、「糖質をすべてカットしなければならない」「なんだか大変そう」と構えてしまう患者さんも少なくありません。しかし、糖質を含んだ食品を完全に除外する必要はないのです。

目安としては、1食あたりの糖質量を20~40gに抑えるところからスタートするとよいでしょう。糖質20gは、ご飯ならお茶碗半分、食パンなら6枚切り1枚の半分、ロールパンなら1個程度です。おかずは、芋類などの糖質が多い食品でなければ、お腹いっぱい食べてもかまいません。
むしろ、糖質を制限してカロリーの摂取量が減っている分は、肉や魚などのタンパク質、野菜やキノコ類などの食物繊維、ビタミン、ミネラルをはじめ、さまざまな食材のおかずを品数多く食べるよう心がけましょう。

また、糖質オフや糖質カットの食品を活用するのもおすすめです。最近では、糖質オフのパスタやうどんなども販売されています。間食で甘いものが食べたくなった場合には、糖質50%オフのアイスクリームやチーズケーキを選べば、糖質10g以下、カロリーは80~120kcal程度で抑えられるため丸々1個食べても大丈夫です。
ストレスをできるだけ感じない程度に、緩やかな糖質制限を行っていきましょう。

まとめ

糖尿病治療の基本は、正しい食事療法と適切な運動療法です。もちろん、必要に応じて薬物療法を併用することも少なくありませんが、患者さんに合った食事療法を見つけることができれば、糖尿病の悪化や合併症の発症を予防することができます。
しかし、これまでの「カロリー制限食事療法」では、摂取エネルギーの計算がうまくできずに、挫折したり糖尿病を悪化させたりしてしまう患者さんが後を絶ちませんでした。

糖質制限食の場合には、主食の量や糖質が多い食品をできるだけ減らすように心がけるだけなので、糖尿病患者さんのストレスや負担が非常に軽くなります。慣れてくると、誰でも続けやすい食事療法のため、血糖値改善や体重減少といった結果がおのずとついてくるでしょう。
ただし、極端な糖質制限や間違った方法での実践は、逆に体調を崩してしまう原因にもなります。必ず医師と相談のうえ、糖質制限食をスタートするようにしてください。

 

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