目次
糖尿病患者の爪切りに関する基礎知識
弊社の商品開発チームの医師監修
Q. 糖尿病で巻き爪です。爪切りはどうしたらいいでしょうか?
A. 糖尿病では皮膚にできた傷が治りにくく重症化しやすいため、爪切りは慎重に行う必要があります。無理をして自分で切ろうとせず、医療機関を受診することをおすすめします。
糖尿病で爪切りが重要視される理由
糖尿病の人は、適切な爪切りをすることが重要です。その理由は、糖尿病だと“皮膚が傷付きやすく治りにくい”状態になっているからです。糖尿病では、乾燥することで皮膚のバリア機能が低下するため、少しの刺激でも傷ができやすくなります。また、血管障害の影響で傷を治すために必要な栄養や酸素が行き渡らないことから、傷が治りにくくなります。そして、傷から侵入してきた病原体を殺す役割をもつ好中球の働きが低下しているために、感染症を起こしやすいのです。感染症を起こした傷は重症化しやすく、潰瘍(皮膚の組織が欠損して穴が開いた状態)や壊疽(皮膚の組織が死んで腐った状態)へと移行する場合があります。壊疽の範囲が大きく、菌が全身に回って敗血症になる可能性が高い場合には、命にかかわる恐れがあるためその部分の切断が検討されます。糖尿病で足を切断する人では、その始まりはほんの小さな傷であることも多いのです。
このように、糖尿病の人にとって皮膚の傷は大敵です。手の爪が伸びていると、皮膚を掻いたときに傷付きやすくなります。足では、爪切りの際に皮膚も切ってしまう・巻き爪のまま歩行して皮膚が傷付くなどのトラブルが考えられます。そのため糖尿病の人は、適切に爪切りをすることが求められるのです。
糖尿病の人の爪切りは医療行為?
爪切りが医療行為にあたるのかどうかということは、主に介護の現場で問題視されてきました。厚生労働省の通達によると、糖尿病の人の爪切りは医療行為にあたると考えられ、介護士やヘルパーではなく看護師が行うべきだといえます。これはもちろん介助する場合の話であって、患者さん自身が行うことには何の問題もありません。
健康な爪を切ることは医療行為とはみなされない
医療行為とは、医師・歯科医師・看護師など専門の資格をもつ人に限って許される、適切に行わなければ人体に危害を加える恐れのある行為のことをいいます。爪切りに関しては、介護士などが実施している実情がありましたが、その際に皮膚を傷付けるという事故も発生したことから、医療行為にあたるのかどうかという議論が生じました。厚生労働省は、爪切り以外にも同様に判断しにくい行為があることを受けて、2005年に“原則として医療行為とは考えられないもの”のリストを通達しました。この中に、「爪そのものに異常がなく、爪の周囲の皮膚にも化膿や炎症がなく、かつ、糖尿病等の疾患に伴う専門的な管理が必要でない場合に、その爪を爪切りで切ること及び爪ヤスリでやすりがけすること」が含まれています。
糖尿病の人の爪切りは医療行為であり医師・看護師が行うべき
前述の厚生労働省の通達から考えると、糖尿病の人の爪切りは医療行為にあたるといえます。これは、糖尿病の人の皮膚が傷付きやすく治りにくいことから、万一爪切りによって皮膚を損傷した場合の重大性が考慮されているためでしょう。そのため、介護士やヘルパーは糖尿病のある人の爪切りは行わず、看護師に依頼する・医療機関(皮膚科・フットケアを行う糖尿病内科)の受診をセッティングするなどの対応をとることが必要です。
糖尿病の人におすすめする爪切り方法
糖尿病の人が爪切りをするときには、道具で皮膚を傷付けないこと・切りすぎず滑らかに整えることが大切です。そして、皮膚を傷付けてしまいそうであれば無理をせず、医療機関(皮膚科・フットケアを行う糖尿病内科)を受診することも必要です。
爪の切り方
- 爪の状態にあった道具を準備します。爪切りの他、やすり、厚い爪であればニッパー、柔らかく細かい部分を切るなら子供
- 用の爪切りはさみなどがよいでしょう。
- お風呂上りは爪が柔らかくなっているので、切りやすくなります。
- 爪の真ん中から、カーブをつけずに真直ぐ切ります。何度かに分けて少しずつ切りましょう。
- 深爪にならないように、爪の先が皮膚から出る部分で切ります。
- 爪の角は深く切り落とさず、やすりで滑らかにします。
- 最後に爪を点検し、尖っている部分があればやすりをかけます。
爪切りをするときの注意点
- 皮膚を切らないように注意します。特にニッパーでは、深い傷ができやすくなります。力を入れる前に、刃が皮膚にかかっていないかをよく確認することをおすすめします。糖尿病の人は皮膚の感覚が鈍くなっている場合があります。刃が皮膚に当たる感覚ではなく、目で見て確認しましょう。
- 糖尿病の人は、視力が低下している場合があります。爪切りは明るい場所で行い、見えにくい場合には家族や医療機関に依頼しましょう。
- 巻き爪や厚くて切れない爪は自分で無理に切ろうとせず、医療機関で切ってもらいましょう。
- 感覚が鈍くなっていると、傷ができても気付かないことがあります。爪切りの後は、傷ができていないかを見て確認しましょう。
糖尿病で爪切りに失敗したときの処置
糖尿病で爪切りに失敗し、傷ができてしまったときは、しっかりと止血すること・清潔にすること、そして医療機関を受診することが大切です。糖尿病の人では、合併症である動脈硬化の影響で血液を固まりにくくする薬を使用している場合もあります。そのような場合は、より出血が止まりにくくなります。
出血を止めるためには、その部位を清潔な布で覆って圧迫します。数十分圧迫しても出血が止まらない、布が浸るほど出血して気分が悪い、などの場合には、速やかに医療機関を受診しましょう。出血が完全に止まったら、傷を水で洗い流します。消毒薬は、傷を治そうとする細胞の働きを阻害するため、使いません。その後、絆創膏などで傷を保護します。傷口を湿潤環境に保つパットは、傷が治りやすい環境を作ってくれますが、病原体が存在する状態で使用すると密閉された中で増殖してしまうため、注意が必要です。
出血が続かない場合には翌日以降で構いませんが、一度医療機関で診てもらうことをおすすめします。糖尿病の人は、小さな傷でも重症化しやすいためです。感染を起こすことなく早期に治癒するために、自己判断は禁物です。
糖尿病の人に多い爪・足のトラブル
糖尿病の人は、主に足の爪にトラブルが起きやすく、それが爪切りを困難にさせる要因にもなります。また、爪以外の皮膚にも様々なトラブルが起こります。
足の爪のトラブル
糖尿病の人は、傷から侵入してきた病原体を殺す役割をもつ好中球の働きが低下しているために、様々な感染症にかかりやすくなっています。そのため、爪白癬(爪の水虫)に罹患している人が多いといわれています。爪白癬では爪が分厚くなるため、爪切りが難しくなります。また、糖尿病の人は巻き爪にもなりやすいとされています。これは、合併症である神経障害のために足が変形し、正しい姿勢で歩けなくなることによります。爪は本来巻いた形になりやすいのですが、足を真直ぐに地面につけ、足全体にしっかりと体重をかけて歩くことで巻き爪が防がれるのです。糖尿病の人は、これが難しくなるため巻き爪になりやすく、爪切りがしにくいことにつながります。
足の皮膚のトラブル
糖尿病の人では、先にご紹介したように足が変形する場合があることから、特定の部分が圧迫されたこができやすくなります。また、神経障害によって皮膚が薄く硬くなり、発汗の減少によって乾燥しやすくなります。これによって、踵のひび割れが生じます。このどちらも、そこに感染症を起こすと潰瘍や壊疽に発展する危険性があります。
爪切りと併せて重要なスキンケア・フットケア
糖尿病の人にとって爪切りが重要な理由は、皮膚の傷とそこへの感染を防ぐためです。その目的を達成するためには、スキンケア・フットケアも併せて行うことが効果的です。
糖尿病の人におすすめのスキンケア
糖尿病の人は、皮膚が乾燥しバリア機能が低下しているため、しっかりと保湿をして刺激に耐えられる皮膚状態にすることが大切です。また、感染を防ぐためには、皮膚の清潔を保つことが効果的です。
- ケアをしても皮膚が乾燥するなどの理由がなければ、毎日洗います。
- 石鹸をよく泡立て、柔らかいタオルや手で優しく洗います。洗浄力が高すぎて乾燥する石鹸の使用やゴシゴシと強く洗うことはやめましょう。
- お湯の温度が高い(40℃以上)と、皮膚の保湿成分が流れ落ちてしまうため乾燥します。ぬるま湯を使用するようにしましょう。
- 洗った後は、擦らずにタオルで押さえるように水気を拭き取ります。
- 洗った後はもちろん、それ以外でも適宜保湿剤を塗りましょう。皮膚科で処方してもらうこともできます。
- 部屋に湿度計を設置し、必要であれば加湿器などで湿度を上げます。
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糖尿病では重要なフットケア
糖尿病の人では足のトラブルが起きやすく、それが重症化して足を切断することになってしまう場合も少なくないため、フットケアはとても重要視されています。毎日自分で行うことはもちろんですが、糖尿病内科でも対応してくれるため、受診の際に相談してみるとよいでしょう。また、何か異常を発見した場合には決して軽視せず、医療機関を受診することをおすすめします。
毎日足を観察する
- 明るい場所で足を見て、傷や乾燥・指の変形などの異常がないか確認します。
- 見えにくい部分は鏡を使う、視力が低下している場合には家族に見てもらうなどして、くまなく確認します。
- 白癬(水虫)の兆候として、皮膚の皮むけや爪の肥厚がないか確認します。
- 運動や長時間の歩行をした後は、特に念入りに観察しましょう。
- 神経障害があると痛みや違和感に気付きにくいということを念頭に置き、しっかりと目で見て確認しましょう。
- 足を清潔にする
- 皮膚を傷つけないように、石鹸をよく泡立て、柔らかいタオルや手で優しく洗います。
- 指の間までしっかりと洗い、十分に石鹸を流します。
- 洗った後は擦らずにタオルで押さえるようにして、しっかりと水気を拭き取ります。
- 湿った皮膚は傷つきやすく、細菌が増殖しやすくなります。
- 洗った後はクリームなどで保湿します。
- 足に合った靴を履く
- 靴擦れを防ぐために、足にフィットし、つま先に1cmほどゆとりのある靴を選びます。
- つま先が細い・ヒールが高いなどの靴は避けます。
- クッション性があり、内貼りが柔らかく、内側に縫い目のないものが最適です。
- 靴や靴下を履くときには、砂などの異物が入っていないことを確認しましょう。
- 靴下を着用する
- 傷や水虫の予防のために、いつも靴下を着用しましょう。
- 蒸れないように、通気性がよい素材の靴下を選びます。
- 締め付けの強い靴下は、血行を妨げてしまうので避けます。
- 皮膚が傷つくのを防ぐため、内側に縫い目がないものがよいです。
- 適切に爪切りをする
- 先にご紹介したような方法で、皮膚を傷つけたり深爪にならないように切りましょう。
- 火傷に注意する
- 神経障害があると熱さを感じにくくなるため、入浴のときには、手でお湯の温度を確認してから浸かります。
- 湯たんぽやホットカーペットによる低温火傷を防ぐため、なるべく使用しないようにすると安心です。やむを得ず使用する場合には、設定温度を低くする・就寝時には外すなどの対策をとりましょう。
- バスや電車の足元にある温風吹き出し口に足が当たらないようにします。
- 炎天下のプールサイドや砂浜を素足で歩かないようにします。
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まとめ
糖尿病の人では適切な爪切りが必要
糖尿病の人は、“皮膚が傷付きやすく治りにくい”状態になっています。そして、傷に感染を起こして重症化しやすく、潰瘍(皮膚の組織が欠損して穴が開いた状態)や壊疽(皮膚の組織が死んで腐った状態)へと移行する場合があります。手の爪が伸びていると、皮膚を掻いたときに傷付きやすくなります。足では、爪切りの際に皮膚も切ってしまう・巻き爪のまま歩行して皮膚が傷付くなどのトラブルが考えられます。そのため糖尿病の人は、適切に爪切りをすることが求められるのです。
このような背景から、糖尿病の人の爪切りは医療行為にあたると考えられています。そのため、患者さん自身では行えず介助が必要な場合には、介護士やヘルパーではなく看護師が行う必要があります。
糖尿病の人はどのように爪切りをするべきか
糖尿病の人の爪切りでは、爪の状態にあった道具を準備し、爪の真ん中からカーブをつけずに真直ぐ切ることが基本です。その際、深爪にならないように爪の先が皮膚から出る部分で切る・爪の角は深く切り落とさずやすりで滑らかにすることが重要です。また、爪切りによって皮膚を傷付けないように、明るい場所で、刃が皮膚にかかっていないかをよく確認しながら切りましょう。視力が低下していて見えにくい・巻き爪や厚い爪でうまく切れないという場合には、自分で無理に切ろうとせず家族や医療機関に依頼しましょう。そして、爪切りに失敗して傷ができてしまったときには、医療機関で診てもらうことをおすすめします。
傷と感染を予防するために、スキンケア・フットケアも
・スキンケア
毎日、ぬるま湯を使用し、石鹸をよく泡立て、柔らかいタオルや手で優しく洗います。洗った後は擦らずにタオルで押さえるように水気を拭き取り、保湿剤を塗りましょう。・フットケア
毎日、明るい場所で足を観察し、傷や乾燥・指の変形・皮むけ・爪の肥厚などの異常がないか確認します。足を清潔にするために、皮膚を傷つけないように優しく、指の間までしっかりと洗います。洗った後は、擦らずにタオルで押さえるようにしてしっかりと水気を拭き取り、クリームなどで保湿しましょう。そして、足を傷から守るために、足に合った靴を履く・靴下を着用する・適切に爪切りをする・火傷に注意する、などの対策を行います。
この記事の監修ドクター
アメリカ、カナダ、ブラジルの3カ国で認定された国際免許を取得している自然療法専門医。
スコッツ先生のプロフィール