目次
糖尿病と果物に関する基礎知識
弊社の商品開発チームの医師監修
Q. 甘い果物を食べると糖尿病になるって本当ですか?
A. 果物に含まれる甘み成分のほとんどは果糖です。果糖は腸管での吸収が遅い糖のひとつなので、糖尿病リスクを心配する必要はありません。ただし、食べ過ぎには注意です。
果物摂取による糖尿病への影響とは
果物には、フルクトースと呼ばれる果糖をはじめ、ブドウ糖やショ糖などの「糖質」が多く含まれています。
果物の糖質と聞くと「果糖」を真っ先に思い浮かべる方が多いかもしれませんが、果糖自体はブドウ糖やショ糖と比較すると、血糖上昇作用は低いといわれています。
なかでも注意したいのは「ショ糖」です。ショ糖は、小腸の酵素によってブドウ糖と果糖に分解されてから吸収される特徴があるため、果物を一気に大量摂取してしまうことは血糖値を急上昇させる原因になってしまいます。
糖尿病患者の場合、膵臓から分泌されるインスリンが十分に働かないので、果物の過剰摂取で増えすぎたブドウ糖を、正常値まで減少させることが困難となります。
血糖値が高いままの状態が続くと、糖尿病三大合併症といわれる「糖尿病網膜症」「糖尿病腎症」「糖尿病神経障害」などの重篤な状態へ進行することも少なくありません。
そのため、糖尿病治療においては食事療法と運動療法を大きな柱として、良好な血糖コントロールを行っていく必要があるのです。
果物自体にはビタミンやミネラルなどの栄養素が多く含まれているので、「栄養バランスを整える」という意味では、毎日の食生活に欠かすことはできません。
果物に限らず、「糖尿病だから食べてはいけない」という食品は存在しないのも事実です。
しかし、糖尿病患者がブドウ糖やショ糖の多い果物を食べ過ぎてしまうと、血糖コントロールを大きく乱す原因になるため、食べる量や選び方には十分な注意が必要です。
フルーツを食べ過ぎると糖尿病になるって本当?
多くのフルーツには強い甘みを感じるため、「果物を食べ過ぎると糖尿病になる」「太りやすくなる」と信じ込んでいる人は多いものです。しかし、フルーツの甘み成分のほとんどは果糖によるものなので、健康な人が糖尿病になる心配をする必要はありません。
果糖は、一般的な砂糖と比べて1.15~1.73倍の甘さを感じます。そのため、甘いものを欲したときには、砂糖たっぷりの甘いケーキやお菓子を食べるよりフルーツを食べた方が良いともいわれているほどです。
また、「フルーツに含まれている果糖が急激な血糖値の上昇を招く」という話を聞いたことがある方もいるかもしれませんが、これは誤解なので注意しましょう。果糖は、腸管での吸収が遅い糖のひとつです。
血糖値を上げやすい糖の代表である「ブドウ糖」を100としたGI値の指標で比較しても、果糖の数値は19しかありません。
GI値とは、血糖値の上がりやすさを数値化したもので「グリセミックインデックス」とも呼ばれ、数値が高いほど血糖値が上がりやすくなり、糖尿病リスクが上昇します。食パンはGI値が95、うどんは85、白米は84と、かなり高い数値です。フルーツ自体は、GI値が40程度といわれていますので、糖尿病になりにくい食品ともいえるでしょう。
さらに、フルーツに含まれている食物繊維は血糖値の急激な上昇を抑える働きがあるといわれています。
フルーツが含有する食物繊維は「水溶性食物繊維」と呼ばれており、胃や腸の中で粘度が高い物質に変わるのが特徴です。これにより、糖の消化や吸収が穏やかになって血糖値を上げにくくすると考えられています。
フルーツのGI値が低いからといっても、過剰摂取することはもちろん良くありません。
「糖尿病になりたくない」「初期の糖尿病を悪化させたくない」と考えている方は、1日1単位(80kcal程度)までを目安にしてフルーツを摂るようにしましょう。
摂取目安量の単位や量については、記事の後半で詳しく説明します。
りんごは身体にいいって聞くけど糖尿病でも大丈夫?
りんごは、ビタミン、ミネラルなどが豊富に含まれていることから、日本では「りんごが赤くなると医者が青くなる」ともいわれている栄養豊富な果物です。
一般的には「身体にいい」と知られていますが、糖尿病で食事療法を行っている場合には、りんごを積極的に食べてもいいのか迷うこともあるでしょう。
結論からお話すると、糖尿病で食事療法中であっても「りんご」を食べるのは全く問題ありません。むしろ、糖尿病だからこそ摂取してほしい果物のひとつです。
りんごには、ペクチンやセルロースなどの食物繊維が多く含まれているため、糖の吸収を抑えて血糖値の上昇を穏やかにする作用が期待できます。
ペクチンは、私たち人間が持っている酵素で消化・吸収されることがなく、ブドウ糖の吸収を穏やかにしたり、コレステロールの吸収を抑える作用があるのです。
アメリカのデラウエア大学で行われた研究では、炭水化物の摂取による食後血糖値の変化について調べたところ、りんごを多く食べる人の場合には血糖値が上がりにくいことが判明しています。
りんごをよく噛んで食べた後の満腹感は長時間続くこともわかっており、糖尿病で食事療法を行っている人の「間食防止」や「カロリー管理」にもつながるといわれています。
さらに、積極的なりんごの摂取と毎日の運動療法をあわせて行うと、食後血糖値の上昇が少なくなったという報告もあるため、糖尿病患者にとっては見逃せない果物といえるでしょう。
その他、りんごに含まれている「リンゴポリフェノール」は血中の中性脂肪濃度を減少させることもわかっています。また、りんごに多く含有されているビタミンCは高い抗酸化作用を持っているため、糖尿病患者の血管損傷を防止する働きも期待されているのです。
血糖値の上昇を抑える食物繊維や、中性脂肪の濃度を低下させるリンゴポリフェノールは、りんごの皮部分に多く含まれているので、可能であれば皮ごと食べるのがおすすめです。
濃縮還元の100%りんごジュースの場合には、食物繊維がほとんど取り除かれているため、糖尿病治療中の方には不向きです。果物ジュースはブドウ糖の吸収が早く、血糖値を急上昇させる可能性が高いので避けた方が良いでしょう。
糖尿病治療中でも食べていいおすすめの果物は?
繰り返しになりますが、「糖尿病だから食べてはいけない」という食品はありません。しかし、糖尿病の方が果物を摂取するときには、食物繊維が多めの種類を選ぶと良いでしょう。
食物繊維には糖の吸収を穏やかにする働きがあるため、食後血糖値の急上昇を抑えてくれます。
前述した「りんご」はもちろんのこと、キウイフルーツ、オレンジ、イチゴ、桃などは食物繊維が多く含まれています。また、比較的カロリーも少ないので糖尿病の治療で肥満防止の食事療法を行っている方におすすめしたい果物です。
なかでも、キウイフルーツは血糖値が上がりにくい果物として注目されています。
ニュージーランド産キウイを輸入販売する大手「ゼスプリインターナショナルジャパン」は、キウイフルーツが血糖値へ及ぼす影響を研究しました。
その結果、キウイフルーツを摂取することで食後血糖値の上昇が緩やかになる機能性を発見したのです。
ニュージーランドにある研究機関によると、同量の糖質(40g)を含む小麦シリアルを摂取した場合、シリアルだけ食べるよりもキウイフルーツを一緒に摂った方が血糖値の上昇が抑えられることが判明したといいます。
キウイフルーツには、1日摂取目安量のおよそ2倍ものビタミンCが含まれています。さらに、ビタミンE、銅、葉酸をはじめ、カリウムや食物繊維は1食分の必要量を満たすほどの栄養満点な果物です。
食後の血糖値上昇を抑えるだけでなく、栄養バランスに考慮した「糖尿病食事療法」を実践するうえでも、注目したい果物といえます。
糖尿病患者が果物の缶詰やドライフルーツを避けるべき理由
食物繊維が豊富で、食後の血糖値を上げにくいとされている果物ですが、糖尿病患者の場合は缶詰やドライフルーツの摂取には注意が必要です。
果物がシロップ漬けになっている缶詰は、長期保存や甘みをプラスする目的で多くの砂糖が添加されています。糖質だけでなく、カロリーも多くなってしまうため果物の代わりとして食べるのは好ましくありません。
また、ドライフルーツは乾燥させる工程によってビタミンが減少し、糖度が高くなっています。食品交換表で確認してみると、ドライフルーツは「嗜好品」に分類されているので食べ過ぎには注意しましょう。
しかし、毎日生の果物を食生活に取り入れるのは困難だという方も多いかもしれません。
その場合には、ドライフルーツの製法に注目して選ぶようにしてみてください。
ドライフルーツは、大きくわけて4つのタイプに分類されます。
1つ目は、「砂糖漬けのドライフルーツ」です。砂糖の浸透圧を利用して、果物から水分を取り除き乾燥させる製法なので、ドライフルーツの中でも一番多くの糖分が含まれています。糖尿病患者さんは、できるだけ避けたいタイプです。
2つ目は、油で揚げることによって乾燥させる「油脂使用のドライフルーツ」です。バナナチップスなどが、このタイプに分類されます。果物の糖分に加えて、油分が多く高カロリーなので注意しましょう。
3つ目は、油や砂糖を使わず天日干しによって乾燥させた「砂糖不使用の天日干しドライフルーツ」があげられます。自然のままの味わいなので、甘みは控えめになりますが、糖尿病治療中の方にはおすすめです。
4つ目は、「フリーズドライのドライフルーツ」です。フリーズドライは、マイナス30度ほどで急速に冷凍し、真空状態にすることで水分を気化させて乾燥する製法です。日本名では、「真空凍結乾燥技術」と呼ばれており、最近ではさまざまな食品加工でも使われるようになりました。食品が本来持っている栄養素を損なうことなく加工できるため、注目が集まっています。
糖尿病患者さんにおすすめなのは、砂糖不使用の天日干しドライフルーツ、またはフリーズドライのタイプです。ただし、通常の果物に比べると糖分が凝縮されているため、過剰摂取には注意してください。
また、ドライフルーツはカリウムを豊富に含んでいるので、腎臓疾患がある方は安易に食べてはいけません。糖尿病腎症などの合併症がある場合には、必ず医師と相談してからドライフルーツを取り入れるようにしましょう。
糖尿病治療中に気をつけたい高糖質の果物
柿、ブドウ、バナナをはじめ、日本の冬には欠かせない「温州みかん」などは、ブドウ糖の含有量が多いため血糖値を上昇させやすい果物です。
それぞれの糖質量をみてみると、柿は14.3g、ぶどうは15.2g、バナナは21.4g、みかんは11gとなっています。
これらの果物を食べたからといって、必ずしも糖尿病が悪化するわけではありませんが、血糖コントロールや肥満防止のためには、食べ過ぎに注意しましょう。
甘くて美味しい温州みかんは、ついつい手が伸びてしまいますが1個あたりのカロリーは54kcalです。中くらいの大きさの温州みかんを4個食べると、コンビニおにぎり1個分のカロリーに相当します。
また、干し柿は100gあたりの糖質量が53.7g、干しぶどうは76.6gと非常に高いため、糖尿病患者がむやみに食べるのは危険です。
グレープフルーツと薬の相互作用に注意
グレープフルーツは、100gあたりの糖質量が9.0gと比較的低糖質な果物です。しかし、さまざまな薬と相互作用を起こして、薬の効果や副作用に影響を及ぼすことがあるため注意しましょう。
糖尿病薬物療法で用いられる経口血糖降下薬や、インスリン注射などでは今のところ相互作用は認められていませんが、糖尿病患者さんの多くが服用することがある降圧薬や高脂血症薬との相性は悪いといわれています。
グレープフルーツには、小腸で薬が代謝されるのを妨害する成分が含まれているため、薬が効きすぎたり、副作用が多く出たりする可能性があるのです。
主に注意したい薬の種類は、高血圧や狭心症の治療で処方されることが多い「カルシウム拮抗薬」、高コレステロール血症治療薬の「HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン系)」、高血圧や心不全治療で用いられる「アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬」、閉塞性動脈硬化症治療薬「シロスタゾール」などがあげられます。
これらの薬を服用している場合には、グレープフルーツやグレープフルーツジュースの摂取を控えるよう、医師から指導されることがほとんどです。
糖尿病治療中には1日の果物摂取量を守ろう
日本糖尿病学会が発表している「糖尿病食事療法のための食事交換表」では、1日あたり1単位(80Kcal)前後の果物摂取が望ましいとされています。
みかんであれば中2個、リンゴは半分、キウイフルーツは小2個、桃は大1個、バナナなら1本程度が目安です。
時々「お腹が空いたので、バナナを1房全部食べてしまいました」という方に遭遇しますが、これは完全に食べ過ぎです。特にバナナは糖質が多い果物のひとつなので、血糖コントロールの面でもカロリー摂取の面でも良くありません。
糖尿病治療においては、食事療法と運動療法による血糖コントロールが重要視されています。できるだけ糖度の低い果物を選び、ドライフルーツや果物ジュースの過剰摂取には注意しながら、1日の摂取目安量を守るようにしましょう。
まとめ
果物には、豊富なビタミンやミネラルが含まれているため、糖尿病患者がさまざまな栄養素を摂取するためには欠かすことができない食品です。
果物に含まれる糖分の多くは、腸管での吸収が遅い「果糖」であることや、食物繊維が多く含有されていることなどから、食後の急激な血糖値上昇を抑える働きもあるといわれています。
その反面、バナナや柿、ブドウといった一部の果物にはカロリーやショ糖、ブドウ糖も多いので過剰摂取には十分注意しましょう。
糖尿病治療中の方が果物を食べる場合は、日本糖尿病学会の「糖尿病食事療法のための食事交換表」を参考にしながら、1日の摂取目安量を守って正しく取り入れることが大切です。
糖尿病で食事療法を行っていると、ときには甘いものが食べたくなることもあるかもしれません。
そんなときには、GI値の高いケーキやお菓子を選ぶより、血糖値上昇が穏やかな果物を選ぶようにするのがおすすめです。良好な血糖コントロールをしっかり行いながらも「甘いものを食べた」という満足感を得ることができるでしょう。
この記事の監修ドクター
アメリカ、カナダ、ブラジルの3カ国で認定された国際免許を取得している自然療法専門医。
スコッツ先生のプロフィール