目次
糖尿病と水虫に関する基礎知識
弊社の商品開発チームの医師監修
Q. 糖尿病になると水虫になりやすいのですか?
A. 糖尿病になると水虫を発症しやすくなり、悪化すると危険な状態に陥る恐れがあります。
糖尿病と水虫の関係とは
糖尿病になると水虫になりやすいという話を聞いたことがありますか?
糖尿病と聞くと血液や神経、あるいは内蔵の合併症というイメージが強いかもしれませんが、実は水虫という足の皮膚の病気にも関係するのです。
今回は水虫の原因と糖尿病との関連性、そして対策に至るまで説明していきます。
足には多数の菌が生息している
水虫とは足に寄生するカビの一種である「真菌」によって起こる皮膚病です。これは真菌感染症と呼ばれ、その一つが水虫です。
米国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)のジュリーセグレ氏は、「人間の細胞は、多くの細菌や真菌と共生しており、体全体が生態系になっているといえます。真菌は体のさまざまな部位で生息しており、特に足には多く、健康な人の足にも80~100種類の真菌が生息しています」
と述べています。
この数が多いか少ないかといえば、他の部位と比較すると、背中や耳の後ろなどの部分では2〜10種類の真菌しかおらず、100種類にも及ぶ足にはいかにたくさんの真菌がいるかがおわかりになるはずです。
足水虫発生のメカニズムとは
水虫はこの真菌の一種である「白癬菌(はくせんきん)」によって引き起こされます。この白癬菌が足の皮膚で増殖すると、感染症としてさまざまな症状が出るようになります。
白癬菌は皮膚に付着しており、乾燥していれば入浴時などにそのまま剥がれ落ちてしまうのですが、湿度が高いと白癬菌が皮膚の角質層に入ってしまい水虫となります。
上記のセグレ氏はこうも述べています。
「足は靴や靴下を履いているため湿度が高くなっている。特に夏の靴の中は湿度が95%にも及び、足は体の一番下にあるため、体の他の部分に比べて温度が低い傾向があるので白癬菌の繁殖に適した環境をつくります」
これが、水虫のできるメカニズムです。
足水虫の症状とはどのようなものがあるのか
水虫の症状は、水虫ができる位置によって若干異なります。
足の指の間にできる水虫は「趾間型」と呼ばれ、指の間が赤く腫れ、皮膚がふやけたような状態になり「ジクジク」したような感じになるのが特徴です。
「小水疱型」の水虫は水ぶくれのようなものが足の裏、土踏まず、足指の付け根のあたりにでき、ひどいかゆみを伴う水虫で、水泡ができず皮がむけるだけの症状の場合もあります。
「角質増殖型」の水虫はかゆみや痛みがなく、足の裏、かかとの角質が普段よりも厚くなったり硬くなったりする水虫です。このタイプの水虫は角質が剥がれて、剥がれた角質を踏むことで感染しやすくなります。
「爪水虫」は爪の光沢がなくなり、白くにごったり、爪がもろくなったりする水虫です。白癬菌が爪に繁殖すると治りにくく、他の爪に感染しやすいため治療が面倒なタイプの水虫といえます。
以上が足にできる水虫の主な特徴と種類になるわけですが、この他に全身に広がったり、頭部の毛髪に白癬菌が増殖したりするタイプの水虫もあるのです。
このように水虫の主な症状は、足や足指に痛みやかゆみがあったり、皮膚(角質)が剥がれたりするのが特徴となりますので、このような症状に心当たりがあったら水虫を疑ってみましょう。
なぜ糖尿病は水虫に気をつけなければならないか
ではなぜ糖尿病になると水虫に気をつけなければならないのでしょうか。
糖尿病は、それ自体が何かの症状を引き起こすというよりは、数々の合併症を発症させる恐れのある、非常に危険な病気です。
そして数ある合併症のうちの一つが神経障害です。神経障害は具体的にいえば、血糖値が高くなることで神経の感覚が鈍くなり、感覚がなくなってしまう症状を引き起こします。
水虫というものは本来発症すると足がかゆくなるという自覚症状が出るのですが、糖尿病による神経障害によって感覚がなくなってしまうと、水虫の症状がわからず気がついたときには取り返しがつかない程度に水虫が進行してしまう可能性があるのです。
糖尿病の血管と神経の状態
糖尿病の代表的な状態である高血糖が続くと、血液中の白血球をはじめとする免疫の機能が低下し、菌を殺す機能が十分でなくなってしまいます。
基本的に白癬菌に感染してしまうのが水虫ですから、この菌を殺せなくなってしまうと健康な状態の人と比べ水虫になりやすいといえるのです。
足の感覚が悪くなると発症に気づかない
さらに神経障害により感覚が麻痺し、糖尿病の高血糖で血流が悪くなれば足の皮膚に栄養が行き渡らなくなり皮膚自体も弱ってしまっていますので、感染症のリスクはより大きくなります。
つまり、糖尿病になるとより水虫になりやすい状態であるといえます。
糖尿病の神経障害の一つに自律神経の問題があり、自律神経が正しく働かなくなると汗をかきにくくなり、そうなるとかゆみなどが起こり掻いた引っ掻き傷から水虫に感染しやすくなります。
免疫も落ちているので足指の菌が壊疽につながる
糖尿病の人は水虫になりやすいだけではなく、いったん水虫になってしまうと健康な状態の場合と比較して悪化しやすく、悪化してからの状態がさらにひどくなってしまう可能性があります。
糖尿病による神経障害は皮膚などの感覚がなくなることがあり、そうなると水虫に感染してもかゆさを感じにくくなってしまいます。そうなると水虫の発見が遅くなるどころか水虫が重傷になっても気づかないという状況にもなりかねません。
さらにひどい状況を想定すると、水虫に感染して皮膚が裂けてしまえば、裂けた部分に雑菌が入り最悪の場合足の組織が壊疽(えそ)を起こし、さらにひどくなると足を切断しなければないという恐れすらあるのです。
たかが水虫と考えず、糖尿病であるのならその考えを改めなければいけないということがおわかりになられたでしょうか。
糖尿病により足を切断という話は聞いたことがあるかもしれませんが、それは水虫をきっかけに起こり得るということを忘れないでください。
糖尿病になった時の水虫対処法
水虫にならないためには、普段からの足のケアが非常に重要になります。
では糖尿病になってしまった人、あるいはなりかけの人には水虫を防ぐためにどのような対処法があるのでしょうか。
帰宅したら足を洗う
水虫を防ぐために最も大切なことは、足を清潔に保つことです。
清潔にするためには何よりこまめに足を洗うことが大切といえます。
とはいっても外出先で足を洗うことはなかなか難しいと思いますので、仕事や出先から帰宅したら真っ先に足を洗う習慣をつけてください。
洗い方はただ水で洗うだけでなく、石鹸などを用いて殺菌できる方法が望ましいです。
水虫の菌は24時間以内に洗い落とせば水虫が発症しないといわれていますので、毎日定期的に足を洗えば基本的には大丈夫です。
入浴時に洗っても良いのですが、靴を履いたりして足が蒸れた状態のままでいることは望ましくありませんから、できれば帰宅時に洗うのがベストでしょう。
ドラッグストアでは抗菌作用のあるシャンプーや石鹸、ボディーソープも売られていますので、一般的なものでなくこのようなグッズを利用するのも水虫予防には効果的です。
通気性の良い靴下を履く
水虫を防ぐためには靴下の存在も重要です。水虫の原因となる白癬菌は、湿度の高い条件で繁殖します。そのため、靴の中の湿度を下げることが水虫防止のポイントとなるのです。
特に夏場は靴下なしで靴を履く方も多いものですが、革靴などを素足で着用すると非常に足が蒸れてしまいます。
たとえ靴下を履いていても油断は禁物です。ナイロン製の靴下では汗が吸収されず非常に蒸れた状態になってしまいます。できれば吸湿性の高い綿の靴下、さらに五本指のものがオススメです。
靴下とは直接関係ありませんが、オフィスなどの室内で靴を履き替えることができるのなら、スリッパなどの通気性の良い履物に履き替える方が良いでしょう。
そのほか足が蒸れやすい人なら、替えの靴下を持ち歩き、蒸れてきたなと思ったら靴下を履き替えるという対策もあります。
部屋の掃除をこまめにする
水虫の原因となる白癬菌は、皮膚が乾燥しているとはがれた皮膚とともに部屋などの床に落ちてしまいます。
このはがれた皮膚についている白癬菌は感染力が非常に強く、再度目に見えにくい剥がれた皮膚を踏んでしまうと水虫になりやすくなってしまうのです。
これは部屋を掃除することで防ぐことができますから、こまめに掃除機をかけるなどして部屋を常に清潔にしておきましょう。
素足のままで過ごす場所はできるだけ避ける
自宅だけでなく公共の場所でも素足で過ごす機会の多いところがあります。
例えばスーパー銭湯やサウナなどがそれにあたり、またこのような場所は湿度や温度が高く水虫の原因となる白癬菌が繁殖しやすい環境です。
このような場所で水虫を持っている人から白癬菌がついた皮膚が剥がれ落ち、それを踏んでしまったりすれば水虫になってしまう可能性が高くなります。
残念ながら白癬菌のついた皮膚が落ちていてもそれを目視で確認することはできませんので、このような場所はできるだけ避けた方が正解です。
もしどうしても利用したいのであれば、自分で用意した清潔なサンダルを利用するか、帰宅後にしっかり足を洗浄するなどの対策を欠かさずにしてください。
清潔で乾燥状態を保持する
白癬菌というのはカビの一種ですから、湿度や温度が大好きです。
日常生活で気をつけたいのは、できるだけ清潔な状態を保つこと、さらにできるだけ乾燥した状態でいることです。
特に身体的な乾燥というのは汗と密接な関係がありますから、汗をかいたらこまめに拭いたり、シャワーを浴びてしっかり水分を拭きとったりなどの習慣づけが大切といえます。
ハンドタオルだけでなく、ティッシュでこまめに清潔さを保つようにするのも一つの水虫の予防策です。
医師の診断を受ける
ここまで水虫予防、対策の方法について説明してきましたが、万一足がかゆくなったり水虫の症状が出てきたりしたのであれば、できるだけ早めに医師の診断を受けてください。
糖尿病でなくても他の病気が原因で免疫力が落ち、水虫になりやすくなるケースもありますので、たかが水虫と侮らずに医師の診断を受けることは非常に重要です。
糖尿病患者の水虫対策は
では糖尿病患者が水虫になってしまった場合、どのような対策をとればいいのでしょうか。
前述の通り糖尿病で神経障害になっているときには、かゆみなどの感覚がなく水虫の発見が遅れてしまうどころか、最悪の場合足の切断にまで至ってしまいます。
そのような事態を防ぐために、糖尿病の人はどのような水虫対策をすれば良いのでしょうか。
基礎的な水虫対策を
まずするべきなのは糖尿病かどうかに関わらず実施できる基礎的な水虫対策です。
足を清潔に保ち、できるだけ素足で公共の場所に踏み入れない、部屋を綺麗にする、靴下に気をつけるなどといった水虫対策をしっかり行い、水虫に感染しないように心がけることが大切といえます。
糖尿病によって免疫力が落ちると水虫になりやすいという事実を忘れてはいけません。
頻繁に足指をチェックする
糖尿病で神経障害を起こすと、水虫にかかっても自覚症状がなく気づかない可能性があります。
そのため水虫になっていないかを足指や指の間、爪などをこまめにチェックする習慣をつけましょう。
皮膚が裂けていたり、皮膚の表面などに異常があると感じたりしたらすぐに医師の診断を受けるのが賢明です。
足の爪にも気をつける
水虫は皮膚だけに異常を起こすものではありません。
爪に発症する爪水虫というものもありますから、爪の状態もきちんとチェックしておきましょう。
基本的に爪水虫は足の水虫が悪化した結果発症することが多いもので、爪が白っぽくなったり黄色っぽく濁っていたりするようであれば水虫を疑ってください。
フットケアを実施する
糖尿病の合併症を緩和するためにフットケアというケアの方法があります。
足を毎日観察し、清潔に保ち、爪をケアする、など、糖尿病には専用のフットケアの方法があります。
これをしっかりと実施することで水虫を防止できるだけでなく、糖尿病の合併症である足のトラブルを少しでも緩和できるのです。
また医療機関でも糖尿病のフットケア外来がありますので、糖尿病になり足の状態が気になるのであれば一度地元の医療機関をチェックしてみても良いでしょう。
まとめ
糖尿病になったときに気をつけなければいけないのが足の状態です。
足を切断しなければならない理由の多くが、糖尿病が原因になっているという事実を知っておいてください。
その中でも水虫になるというのは、足のトラブルの原因として見逃せない症状です。
健康であれば治療もしやすい水虫であっても、糖尿病で発症すると案外治療に手こずってしまったり、あるいは発見が遅れると取り返しのつかない事態になったりする恐れすらあります。
たかが水虫、と軽視しないでしっかりチェックし、いち早く治療することが大切です。