目次
糖尿病専門医に関する基礎知識
弊社の商品開発チームの医師監修
Q. 糖尿病の治療は、かかりつけの内科より専門医を選ぶ方が良いですか?
A. 糖尿病が重度である患者さんや、合併症が出ている場合には糖尿病専門医を受診することをおすすめします。血糖値やヘモグロビンA1cの数値が安定していれば、通いやすい近所の内科でも問題はありません。
糖尿病専門医とは?
糖尿病の治療を行うときに、「糖尿病専門医を選ぶべき?」「糖尿病専門医って、そもそもどんな資格を持っているドクターなの?」と疑問に感じる方も多いでしょう。
糖尿病専門医とは、日本糖尿病学会が養成・認定している医師のことです。糖尿病の治療はもちろんのこと、糖尿病予防に関しても広い知識を持っています。
糖尿病専門医になるためには、まずは内科や小児科において定められた研修を終えて、それぞれの専門医や認定医の資格を取得しなければなりません。
これらの資格を持った医師が、糖尿病に関する専門的な研修を3年以上受け、経験症例のレポートを提出したのち、筆記と面接による「専門医試験」に合格すると糖尿病専門医になることができます。
研修期間の3年間は、日本糖尿病学会が認定した施設で指導医のもと、実際の糖尿病患者さんの診療や指導を行いながら、必要な知識・経験を得ていきます。
また、糖尿病治療に関する研究や情報は、年々新しいものが発表されているため、5年ごとに更新を行わなければなりません。
糖尿病専門医の資格更新時には、これまでの糖尿病患者さんへの診療内容・指導内容の報告、糖尿病に関する学会への出席、教育講演の受講などが義務付けられています。
厚生労働省の統計によると、日本には約30万人もの医師がいますが、診療項目に「内科」と明記している医師の6万人のうち、内科専門医の資格を持っているのはおよそ2万人程度だといいます。さらに、日本糖尿病学会の糖尿病専門医の認定を受けている医師は、約5,300人しかいません。
糖尿病の治療をするにあたって、「糖尿病専門医の診察を受けたい」と考えている方は、病院や医師選びを慎重に行う必要があります。
糖尿病専門医を受診するメリット
糖尿病検査や治療を行う際に、専門医を受診するメリットはどのようなものがあるのでしょうか。内科専門医との大きな違いは、前述した通り「糖尿病に関する豊富な知識と経験を持っている」という点です。
日本糖尿病学会の認定医になるためには、さまざまな指導や学会への参加、教育講習の受講が必須です。その中で多くの糖尿病患者さんと接し、その経過や改善例、症例、指導例を経験として身につけていきます。
そのため、糖尿病専門医は高い専門知識をもとに、適確かつ質の高い診療や指導を行うことができるといえるでしょう。
糖尿病専門医は、糖尿病患者さんの症状や数値をみながら、最適な食事療法や運動療法、薬物療法のアドバイスを行います。いわば、糖尿病治療のスペシャリストといっても過言ではありません。
また、糖尿病専門医がいる医療施設では、看護師、薬剤師、理学療法士、栄養士、検査技師など、あらゆるスタッフとチームを組んで糖尿病患者さんの治療にあたります。
チームの全員が専門医の指導のもと動いているため、一貫した糖尿病治療を受けられるのも大きな安心につながるでしょう。
糖尿病の初期段階である「境界型」と血糖値の患者さんは、「まだ自分は大丈夫だろう」と油断して、糖尿病専門医の診察を積極的に受けない傾向があります。
しかし、初期の糖尿病や境界型の患者さんほど、専門医を受診することをおすすめします。
血糖降下薬やインスリン注射での治療を開始していない段階から、専門的な視点でのアドバイスをもとに食事療法や運動療法を行って、「糖尿病を発症する前の状態に戻れた」という患者さんも珍しくありません。
また、適切なカロリー制限・脂質制限によるダイエットや、禁煙、禁酒、血圧の管理などを初期のうちに開始することで、糖尿病合併症である急性心筋梗塞や動脈硬化の予防にもなります。
あらゆるリスクを考慮して的確な指導をしてくれる医師と出会えるか否かで、5年後、10年後の未来が変わってくることを忘れてはいけません。
糖尿病専門医がいる病院を検索するには?
糖尿病専門医がいる病院を探すときには、自宅や職場から近い場所を希望される患者さんがほとんどです。定期的な検査や通院、治療相談などを継続するには、無理のない範囲で通える医療機関を見つけることが大切でしょう。
いくら「糖尿病の名医」として有名な医師がいる病院でも、通院のたびに片道3時間もかけて通うのは、身体的にも精神的にも大きな負担となってしまいます。
近隣地域の「糖尿病専門医がいる病院」を検索するには、日本糖尿病学会のホームページが便利です。支部名や都道府県名、市町村名、医師名などを指定して検索すれば、病院名や住所が一覧となって表示されます。
東京、神奈川、大阪、福岡などの大都市はもちろんのこと、日本全国各地の糖尿病専門医を短時間で検索できるので、パソコンやスマートフォンから利用してみてください。
一般社団法人「日本糖尿病学会」専門医の検索は、こちらから行えます。
(http://www.jds.or.jp/modules/senmoni/)
また、糖尿病専門医は「糖尿病内科」「糖尿病科」「内分泌代謝内科」と掲げて、診療を行っていることがほとんどです。
グーグルやヤフーなどで検索するときには、探したい地域名とこれらのキーワードを合わせて探すと、スムーズに見つけることもできます。例えば、東京の糖尿病専門医を探す際医には「糖尿病内科 東京」といった形で検索窓に打ち込みましょう。
普段からかかりつけの病院がある方は、そちらの医療機関で相談してみるのもおすすめです。「お世話になっている先生だから、他の病院のことを尋ねるのは申し訳ない」などと思う必要はありません。
信頼できるかかりつけの医師に紹介してもらった「糖尿病専門医」であれば、安心して受診できるはずです。ぜひ、迷わずに相談してみましょう。
いい糖尿病専門医・名医を選ぶ方法は?
糖尿病専門医は、全国に5,300人程度いるといわれていますが、その中でも「できるだけ、いい糖尿病専門医を選びたい」と思っている方も多いでしょう。
糖尿病専門医を選ぶ際に、ひとつの目安としていえるのは「待ち時間が長く、いつも混んでいる病院には名医がいる」という点です。レストランなどの飲食店と同様、いつ行っても混んでいるのはリピーターが多く人気がある証拠といえます。
もちろん、専門医との相性もあるため「絶対間違いない」とは言い切れませんが、評判のいい病院は幅広いネットワークを持っていることがほとんどです。
糖尿病の合併症が出てきたときには、それぞれの専門分野である医師を適切に紹介してくれます。糖尿病網膜症であれば眼科医、心臓疾患系なら循環器科など、「専門医」への架け橋をスムーズに行ってくれる医師は、往々にして評判が良いものです。
しかし、このようなネットワークを持っている糖尿病専門医や名医を、検索だけで探すのは至難の業です。前述した「日本糖尿病学会」のホームページから検索しても、そこまでの細かい情報は明記されていません。
そこで重要となってくるのが、口コミ評判です。最近では、病院や医師の口コミ投稿ができるサイトも増加しています。
実際の診療内容、かかった料金、待ち時間、病院の雰囲気などが「星の数」で表示されていたり、リアルな感想・評判をチェックしたりすることができます。医療機関や病院のホームページには書かれていないような、患者さんからの実際の評価を見れば「この病院の先生にしよう」「ここは評判が悪そうだからやめておこう」など、医師選びの参考となるでしょう。
糖尿病の治療は近所の内科より専門医を選ぶべき?
糖尿病の治療を開始している患者さんの中には、「近所の内科で診てもらっているけれど、糖尿病専門医を受診した方が良いのか?」と悩む方も少なくありません。
現在の血糖値やヘモグロビンA1cの数値が良好であれば、お住まい近くの内科で糖尿病治療を継続しても問題はないでしょう。
しかし、重度の糖尿病で合併症を発症していたり、数値がなかなか改善されないときには糖尿病専門医に診察・指導をしてもらう方が良いかもしれません。
糖尿病専門医がいる病院では、教育入院と呼ばれるシステムを導入している場合があります。
糖尿病教育入院は、患者さん自身やそのご家族に「糖尿病」を正しく理解してもらうことを主な目的としており、専門医をはじめ看護師、栄養士、薬剤師、理学療法士、糖尿病療育指導士などのもと行われるものです。
病状や患者さんによって日数は異なりますが、2泊3日から2週間程度の入院で食事療法や運動療法の正しい実践方法・知識を学びます。また、教育入院時には血液検査はもちろんのこと、尿検査、心電図、心エコー、頸動脈エコー、腹部エコーなどさまざまな検査を受けられることも大きなメリットです。
血糖値やヘモグロビンA1cの数値が悪く、かなり重篤な糖尿病患者さんでも「教育入院」を終える頃には、再び正常値まで戻っていることも多いといいます。
糖尿病患者さんが健康な人と同じような生活を送っていくためには、専門医がいる病院でこういったシステムを利用することも必要です。特に、「食事療法が難しくてうまく実践できない」「運動療法の正しい方法がわからない」といった患者さんにはおすすめです。
糖尿病専門医が糖質制限に否定的なのはなぜ?
「糖尿病専門医から糖質制限食を反対された」という患者さんの話を、時々耳にします。これは、2007年まで「アメリカの糖尿病学会」が糖質制限の有効性に否定的だったことが大きな要因といわれています。
糖尿病の食事療法では、もともと「カロリー制限食」が基本とされていました。それまでは、糖質60%にもなるようなカロリー制限食を指導する専門医もいたほどです。
これは、カロリーの過剰摂取が糖尿病などの生活習慣病をもたらしている、といった考え方がもとになって生まれた食事療法です。当時は、まだ糖質についての研究や調査が進んでいなかったため、このような食事指導が「正しい」とされていました。
しかし、さまざまな研究や調査が進められていく中で、糖尿病悪化や合併症の発症には「糖質摂取量」が大きく関わっていると判明しました。血糖値を直接上昇させるものは糖質だけであり、「食後血糖値の急上昇」や「平均血糖変動幅の増大」の引き金となることがわかったのです。
そこで注目されたのが、糖質制限食です。2型糖尿病患者さんが、糖質制限食による食事療法を開始すると、ほとんどの人の食後血糖値と空腹時血糖値が下がるといいます。
特に、普段から摂取糖質量が多い患者さんの場合には効果が顕著です。1~2週間程度継続すると、食後血糖値も空腹時血糖値も正常値になるといったデータも報告されています。
2型糖尿病患者さんでは、糖質制限食を開始すると約半数が薬物療法の必要がなくなるともいわれており、1~2割の人ではインスリン注射も不要になるというので驚きです。
さらに、糖質制限食は肥満体質・内臓脂肪の改善にもつながります。
「摂取目安のカロリー内であれば、好きな食品を食べても良い」とする糖尿病治療の考え方は、もうかなり古いものだといえるでしょう。実際のところ、従来のカロリー制限食で糖尿病を改善した人は、少ないといわれています。
最近では、糖質制限を否定的に捉える医師はごく少数となっていますが、それでもまだ存在するのが現状です。もし、あなたの担当医が「糖質制限よりカロリー制限が正しい」と指導してくる場合には、別の専門医を探した方が良いかもしれません。
糖尿病専門医と相性が合わないときはどうする?
糖尿病の治療を行っている患者さんの中には、専門医との相性が悪いことや、専門医の発言や言葉の選び方にストレスを感じている方も少なくないでしょう。
糖尿病専門医との相性が悪い場合には、思い切って転院するのもひとつの方法だということを覚えておいてください。
もちろん、糖尿病は患者さん自身の意志の弱さや、甘えなどで悪化していくことも多いです。そのため、あまりにも数値が改善されない場合や、食事内容や間食の有無を明らかに偽って申告しているときには、医師から厳しい言葉を浴びせられるケースもあります。
よく耳にするのは「このままだと死にますよ」「失明して足を切断することになりますよ」といった脅し文句のような言葉です。
こういった厳しい言葉を聞いて「頑張らなきゃ」と思える患者さんもいますが、逆に通院することが憂鬱になってしまい、糖尿病治療を自己判断で中断してしまう人もいるのが現状です。
しかし、糖尿病治療は勝手に中断してはいけません。特に、血糖降下薬やインスリン注射での薬物療法を行っている人は、投薬を中止することで極端な高血糖となり「合併症」のリスクが跳ね上がる結果となってしまうため、絶対にやめましょう。
また、転院時には医師からの紹介状が必要となるケースが多いです。「紹介状を書いてください」とお願いすることに対して、ためらいを感じてしまう患者さんもいますが、遠慮することはありません。10年後、15年後も健康な人と同じような生活を送るためにも、勇気を出して転院することをおすすめします。
まとめ
日本糖尿病学会が育成・認定している「糖尿病専門医」は、糖尿病の幅広い知識と豊富な経験から、それぞれの患者さんに適した治療を指導します。
食事療法や運動療法、そして薬の組み合わせなどを的確に行い、看護師や栄養士、薬剤師、理学療法士などと連携をとりながら、糖尿病の改善をサポートしてくれるのです。
初期段階である境界型糖尿病患者さんはもちろんのこと、網膜症・腎症・神経障害などの重篤な合併症を発症してしまった患者さんまで、安心して診察を受けられるのも大きな特徴です。
糖尿病の診断や治療を行っている病院、診療所、クリニックは全国に数多く存在しますが、糖尿病専門医は約5,300人しかいません。より専門的な指導やアドバイスを受けたいと考えている患者さんは一度、専門医に診てもらうのも良いでしょう。