目次
糖尿病と腎不全に関する基礎知識
弊社の商品開発チームの医師監修
Q. 糖尿病になったら、腎不全になりやすいですか?
A. はい。糖尿病からの腎不全で人工透析に至る人数は、5人に2人といわれています。
糖尿病は腎不全になりやすい?
腎臓は腎不全になると、透析が必要です。
以下の透析についての調査から、糖尿病と腎不全の関わりが強いことが分かります。
2017年度に日本透析医学会が発表した『わが国の慢性透析療法の現況』の調査では、「糖尿病性腎症」が1位(39%)、続いて「慢性糸球体腎炎」が2位(27.8%)でした。
その割合と男女比は以下のようになります。
・糖尿病性腎症…男性42.7%、女性32%
・慢性糸球体腎炎…男性26%、女性31.3%
この2つの病状は、他の病気と比べて圧倒的に多く、糖尿病を患うと腎不全になるリスクが高くなることが分かります。
糖尿病の三大合併症には「神経障害」「網膜症」「腎症」があり、腎不全は腎症の末期段階にあたります。
腎不全は、血糖コントロールを良好に保っていけば予防できる病気です。ですが、糖尿病や腎臓疾患の初期段階では自覚症状がないため、放置して進行してしまう可能性も多くあります。
糖尿病患者さんが、腎症を患うと食事制限もさらに厳しい制限が必要になりますし、病状が進むと生活の質も低下するので、早期発見と予防が大切です。次項から、腎不全になるメカニズムや病状の段階、適切な食事方法などをご紹介していきます。
腎不全とは
腎臓には、顕微鏡を使わないと確認できないほど微細な「ボウマン嚢(のう)」という袋があります。その袋の中には、「糸球体(しきゅうたい)」と呼ばれる、糸のように細い血管が玉状になったものが、左右の腎臓に各100万個ずつあります。糸球体では、血液がろ過され、体に不要な成分や水分は老廃物として、尿と一緒に排泄しています。
腎不全とは、この糸球体の血管が詰まり、老廃物が排出できず、正常な状態から30%以上機能が低下した状態を指します。
腎不全に至ると、腎臓機能が回復することはありません。
糖尿病性腎症が腎不全に至る経緯
糖尿病の三大合併症のひとつである「糖尿病性腎症」は、血糖コントロールがうまくできていないと起こります。一般的に三大合併症の中で、腎症が表れる順番は3番目とされており、10年~20年かけて出現します。
早期段階ではゆっくり進行しますが、中期以降の進行度は速くなり2年~5年で腎不全に進み、透析が必要になってしまうのです。
糖尿病性腎症の診断基準
糖尿病性腎症は、尿検査と血液検査で分かります。
尿検査では「微量アルブミン尿」、血液検査では「クレアチニン値」が検出されるかを検査します。
・微量アルブミン尿…たんぱく質が尿に出ているか調べる
・クレアチニン値(eGFR)…腎臓がどれくらい機能しているかを調べる
※年齢・性別・クレアチニン値を調整し「eGFR(推算糸球体ろ過量)」として表す
通常ならたんぱく質は、体に必要な栄養なので尿に出ることはありません。病状が進行すると微量アルブミン尿から顕性アルブミン尿(タンパク質)が検出されるようになります。
また、クレアチニンは、エネルギーを消費すると発生する不要な物質です。血中のクレアチニンは、通常腎臓でろ過されて排出されるため、数値の上昇で腎臓の機能低下を発見できます。
糖尿病性腎症の基準は以下の通りです。
病期 | アルブミン値(mg/gCr) または 尿タンパク値(g/gCr) |
GFR(eGFR) (ml/分/1.73m²) |
1期(腎症前期) | 30未満 正常 |
30以上 |
2期(早期腎症期) | 30~299 (微量アルブミン尿) |
30以上 |
3期(顕性腎症期) | 300以上 (顕性アルブミン尿) または0.5以上 (持続性タンパク尿) |
30以上 |
4期(腎不全期) | アルブミン値は関係なく腎不全となる | 30未満 |
5期(透析療法期) | 透析療法 |
糖尿病と腎不全の併発症状
早期では特徴的な症状がみられないのが腎臓疾患です。
それでも、尿検査や血液検査では病状のサインが出ていますので、定期的な検査で早期発見できます。
糖尿病性腎症の症状は、以下の5段階のレベルに分けられています。
病期 | 症状 |
第1期(腎症前期) | ・腎症の判断不可。糖尿病の症状のみ |
第2期(早期腎症期) | ・微量アルブミン尿(タンパク質)が尿検査で検出される ・血圧が高くなる場合が多い |
第3期(顕性腎症期) | ・蛋白尿(たんぱくにょう) ・むくみが出る場合もある ・息切れ、満腹感、胸苦しさ、食欲不振など |
第4期(腎不全期) | ・尿毒症で貧血・体の怠さを感じる ・尿毒症性神経痛で夜間の手足の痛み、皮膚のかゆみ ・ネフローゼ症候群による慢性的なむくみ ・低血糖を起こしやすくなる |
第5期(透析療法期) | ・腎機能が正常の10%~15%にまで低下 ・むくみ、胸水(水が胸に溜まる) ・食欲不振、吐き気、嘔吐 ・息切れ、呼吸困難、心不全、高血圧 ・貧血、出血が止まりにくい ・目がかすむ ・しびれ、けいれん、意識混濁など |
① 第1期から第2期
早期の段階では、自覚症状がありませんが、この時期では「血糖コントロール」に加えて、「血圧コントロール」も厳しく行っていきましょう。
腎症は血圧が高いほど進行し、下げると進行が遅くなります。
この時期までは、正常な状態に戻せますので、いかに早期に見つけ改善するかが大切です。
② 第3期
第3期では、良好な状態に戻せなくなるため、進行を遅らせることを重視した治療になります。第3期は、A期とB期に分けられており、B期以降に入ると平均7年で約70%の人が透析に進みます。
食事管理も食塩やたんぱく質を制限し、腎症治療のための食事へと切り替えます。
③ 第4期
第4期になると、尿毒症や尿毒症性神経痛、ネフローゼ症候群などによる自覚症状が多くなっていきます。食事療法は第3期よりさらに腎症治療に重点を置いたものになり、場合によっては水分の制限も行われます。
④ 第5期
腎臓の機能が正常の10%~15%以下の状態です。透析や腎臓移植による治療をします。一般的な透析は、週3回通い、1回4時間~5時間かかります。
糖尿病の方が透析をすると「終末糖化産物(AGEs)」と呼ばれる、毒性の強い物質の発生が促進してしまい心血管疾患のリスクを高めます。
終末糖化産物とは、たんぱく質と糖質が熱によって反応してできる物質です。「焦げ」や「糖化」などとも呼ばれています。
また、腎臓移植を受けた人は、2016年では1,486人中、糖尿病患者さんは276人(約20%)いました。腎臓を移植した後も、免疫抑制剤によって糖尿病が進行する可能性があるため、食事制限や減量を怠ると再度腎不全に陥る場合もあります。
腎不全の治療法 透析治療と腎臓移植の寿命
5期では、腎臓の役割が果たせません。命を伸ばすために透析や移植が必要ですが、どれくらいの寿命になるのでしょうか?治療中の生活習慣や食事によって個人差がありますが、平均では次のようになります。
透析治療の寿命
2003年に日本透析医学会が行った統計調査では、50代と60代の方が透析治療を行った場合の平均余命が出ています。
男性(年) | 女性(年) | |
50代 | 14.6 | 16.7 |
60代 | 9.9 | 11.3 |
この寿命年数は、一般的な年齢と比べると半分近くとなります。ですが、調査は16年前のものですので、現在は医学も進歩しているため生存率は向上していると考えられます。
2017年度の『わが国の慢性透析療法の現況』では、最長透析歴が49年4か月の記録もあり、20年以上透析を行っている方は26,000人以上もいるため、実際に寿命は延びているといえるでしょう。
最近では、「オンラインHDF」という透析を自宅で行える機械も登場しています。
透析時間を1回6時間以上行うため、より老廃物を除去でき、透析による合併症のリスクも抑え、良好な生命予後が期待できると報告されています。
【6時間透析の有用性についてまとめ(1989年8月~2011年7月末日までの調査)】
・一定の条件をクリアした糖尿病性腎症の男女(男48人、女26人)を対象に調査
・透析の導入平均年齢62.1歳
・導入前に糖尿病を患っていた期間:平均18.4年
・インスリン:導入前45人がインスリン治療中で、
導入後も40人がインスリン治療の継続が必要だった
・透析:週3回、1回6時間
結果:糖尿病性腎症74人中、生存46人、死亡28人
累計生存率:5年(80.7%)、10年(46.3%)、15年(28.4%)で、2010年の日本透析医学会統計調査委員会報告と比べると明らかに良い成績だった
【生存率の比較】
生存年数 | 6時間透析(%) | 日本透析医学会統計調査委員会報告(%) |
5年 | 80.7 | 54.5 |
10年 | 46.3 | 26.9 |
15年 | 28.4 | 12.2 |
(参考:前田病院 前田 利朗 前田 篤宏 「糖尿病性腎症患者の6時間透析における生存率と合併症」―第 57回日本透析医学会ワークショップより)
腎臓移植の寿命
腎臓移植は、透析治療よりも生存率が高いといわれています。
また、透析では老廃物の除去は可能ですが、腎臓と同じ機能は果たせず、血圧調整や造血、骨代謝、内分泌作用の働きができません。
そのため、腎臓移植は腎不全の根治的治療とされ、新しい腎臓が正常に機能すれば免疫抑制剤を服用し続けることで、通常の生活が送れるようになり、患者さんの生活の質も向上すると考えられます。
日本移植学会で報告された2017年ファクトブックでは、生存率は年代とともに良好な成績を示していると報告されています。
腎臓移植には2つの方法があります。肉親や配偶者から2つある腎臓のうち1つを提供してもらう方法と、亡くなったドナーからいただく方法です。
・生体腎臓移植…肉親・配偶者などから移植する
・献腎臓移植 (死体腎臓移植)…亡くなったドナーから移植する
2017年ファクトブックによる、生存率の推移をまとめました。
【生体腎 生存率(%)】
年代 | 症例数 | 5年 | 10年 | 15年 |
1983~2000 | 7,365 | 93.4 | 88.6 | 84.1 |
2001~2009 | 6,820 | 96.0 | 92.7 | |
2010~2014 | 5,156 | 97.2 |
【献腎 生存率(%)】
年代 | 症例数 | 5年 | 10年 | 15年 |
1983~2000 | 2,796 | 85.6 | 78.5 | 70.6 |
2001~2009 | 1,323 | 89.2 | 80.8 | |
2010~2014 | 673 | 93.4 |
移植された腎臓が機能し、透析に再び戻らない確率を「生着率」と呼びますが、移植後の急性拒絶反応やウイルス感染、糖尿病などのリスクにより生存率・生着率が下がる場合があります。
免疫抑制療法の進歩により、5年・10年の生存率は高まりましたが、20年以上の長期の生存・生着には生体組織の問題もあり、今後の課題と考えられています。
糖尿病からの腎不全を予防するには
医療の進歩により、腎不全になっても寿命が延びる傾向にはなってきました。
ですが、糖尿病性腎症になると、生活の質は低下し、体と精神的な負担も厳しいものとなるでしょう。それを避けるには、糖尿病になった時から腎症のリスクについて考えた生活を送ることで予防できます。
糖尿病を進行させないために、何に気を付けるべきか、次項からご紹介していきます。
定期検査と血糖コントロールに気を付けよう
糖尿病の管理として、血糖コントロールを良好に保つことが必要ですが、それだけではベストとはいえません。
前途した通り、腎症は自覚症状がないため、中期段階で表れるむくみが出た頃には、腎症が進んでいて回復は望めない場合が多いのです。
検査で腎症の兆候を掴めますので、たとえ血糖コントロールに自信があっても定期的な検査は必ずいきましょう。
糖尿病と腎不全のリスクを考えた食事
腎症を発症すると、糖尿病の食事療法より厳しい食事制限が必要になります。制限が必要な段階では、個人によって異なるため、医師の指導を受けてください。
腎症に至っていない場合でも、日頃から糖尿病と腎臓に優しい食生活を心がけていきましょう。食塩を摂り過ぎない、加工食品は避ける、たんぱく質を過度に摂取しない、調味料もなるべく天然のものを使う、野菜をたくさん摂るなど気を付けます。
そして、香りやスパイスを利用して、素材の美味しさを楽しみ、バランスよく食生活を豊かにしてください。
まとめ
糖尿病は腎不全のリスクが高い病気です。早期に発見して治療しなければ透析や腎臓移植が必要になってしまいます。
多くの糖尿病合併症と同じように、初期段階では自覚症状がないので、定期検査によっていかに早期発見するかがリスクを避けるカギ。そして、糖尿病を悪化させないための血糖コントロールが不可欠です。
普段の食生活から、腎臓の負担を減らし、血糖を上昇させない食事を心がけていきましょう。