糖尿病

糖尿病足病変の症状と予防的フットケア

糖尿病足病変の症状と予防的フットケアに関する基礎知識

弊社の商品開発チームの医師監修
Q. 糖尿病足病変で下肢切断にならないためにはどうすればいい?
A. 患者自身による予防的フットケアが有効です!

この記事の監修ドクター
自然療法医 ヴェロニカ・スコッツ先生
アメリカ、カナダ、ブラジルの3カ国で認定された国際免許を取得している自然療法専門医。
スコッツ先生のプロフィール

糖尿病足病変とは?

糖尿病足病変は、糖尿病を患っている方に起きる「足のトラブル」の総称です。糖尿病の合併症である神経障害や動脈硬化が引き金となり、足に潰瘍(かいよう)や壊疽(えそ)が発生している状態をさします。主に、神経障害・動脈硬化・細菌感染の組み合わせ、またはどれかひとつが原因となって起きる疾患です。

潰瘍とは、皮膚の一部が欠損した状態のことを指し、見た目では凹んでいるように感じられることから「穴が開いている」と訴える糖尿病患者も少なくありません。適切な治療を行わずにいると、炎症が悪化して膿がたまり、腫れを伴うことも多いです。

壊疽は、糖尿病の合併症である動脈硬化によって足先の血管が細くなり、血流障害や細菌感染が原因で起こります。皮膚の色が黒色になるのが特徴で、重症化すると下肢を切断する必要が出てくる恐ろしい病気です。

動脈硬化などの血行障害が引き起こす糖尿病足病変の場合には、足の末端から症状が始まり徐々に足上部へ広がっていきますが、神経性の場合は足関節部位に症状が現れることが一般的になっています。

初期の段階で足の異変に気付くことができれば潰瘍や壊疽を防ぐこともできます。そのため糖尿病足病変は、「足に怪我を負わない」「足を火傷しない」「足の異変を見つけたらすぐに診察を受ける」ということが大切になってきます。

糖尿病足病変の症状

糖尿病足病変の主な症状は、目で見て判断できるほどの壊疽や潰瘍です。重症化して壊疽した部分は元に戻らないため、足を切断する選択を迫られることもあります。

糖尿病足病変は早期発見・早期治療が予後を左右するので、自分の足を定期的に観察することが大切です。

壊疽や潰瘍になる前の早期の糖尿病足病変では、

  • 指先のしびれ
  • 指や爪の変形
  • 足裏の違和感
  • たこのような異常
  • 足先の変色や発赤
  • こむら返り
  • 足先の乾燥

といった症状が出ることがありますので注意深くチェックしましょう。

また、糖尿病患者は末端の血管が細くなる傾向があるため、白癬菌(水虫)や細菌への抵抗力が落ちて感染症にかかりやすくなっています。感染症を放置していると、膿がたまる・穴があくなどの異常が起きて潰瘍や壊疽に進行するのです。

糖尿病患者には神経障害が出ることも多いのが特徴です。足の痛覚が鈍るせいで「自分の足に傷ができている」「炎症が起きている」という現実に気付かないまま、糖尿病足病変をさらに悪化させてしまうケースも少なくありません。

さらに、糖尿病による視力低下で糖尿病足病変の初期症状を見逃すこともありますので、定期的に医師の診察を受けるようにしましょう。

糖尿病足病変が起こる原因は何?

糖尿病足病変が起こる原因は、高血糖による免疫機能の低下、そして糖尿病合併症である動脈硬化と末端神経障害によるものです。

①免疫力の低下
糖尿病で血糖値が高い状態が続くと、身体の免疫機能が低下して感染症にかかりやすくなります。治りも遅くなるので、酷い炎症や化膿が起きることも珍しくありません。足は靴で蒸れることによって細菌が繁殖しやすいため、手よりも病変の発生率が格段に高くなっています。

②動脈硬化
また、糖尿病の三大合併症に分類される「動脈硬化」が起きると、身体の末端である足先の血流を悪化させるので、傷や炎症を治すために必要な酸素や栄養がしっかりと届かなくなります。そのため、ちょっとした切り傷や靴擦れから炎症を起こし、壊疽や潰瘍に進行しやすくなるのです。

③末端神経障害
糖尿病の神経障害により足先の感覚が鈍くなる患者も多く、小さな怪我や傷を見逃しがちになることも糖尿病足病変が発生する原因です。冬場には、就寝中の湯たんぽ使用による低温やけどから糖尿病足病変につながることも珍しくありません。

糖尿病足病変のリスクは自己チェックできる

AAAスコアは、「一生自分の足で歩こう」をコンセプトとして2014年に発足した一般社団法人AAA(Act Against Amputation)が公開しているチェックリストです。東京済生会中央病院糖尿病内分泌内科の富田益臣先生が考案したもので、今も多くの現場で活用されています。
AAAスコアダウンロード先はこちら

AAAスコアは、これまでの糖尿病足病患者の下肢切断リスク因子研究をもとに導き出されており、たった5つの質問に答えていくだけで患者自身の状態がわかります。合計点数によって、リスクの最も少ない「グループ0」から、リスクの高い「グループ3b」に分類され、3年後の糖尿病足病変発症率や神経障害、足の変形、切断の可能性が可視化されます。また、グループごとに「適正な診察間隔」を明記してあるので、受診目安や計画を立てやすいのも大きなメリットでしょう。

糖尿病足病変で壊疽する前兆は自分でわかる?

糖尿病で足の組織が腐っていく症状「壊疽」の前兆は、注意深く観察していれば自分で気づくことができます。壊疽のイメージでは指先が黒く変色していくものを思い浮かべる人も多いかもしれませんが、黒色以外でも他の皮膚との色が明らかに使う場合には「壊疽の前兆」のこともあるため注意が必要です。

しかし、多くの糖尿病患者の場合には日々のチェックを怠ったり、しびれや違和感、タコや発赤といった初期段階の足の異常を見逃して、そのまま潰瘍や壊疽を起こすまで放置してしまうことが少なくありません。少しでも「おかしいな」と感じることがあれば、迷わず受診・相談することをおすすめします。

特に、糖尿病の神経障害は足先から始まり足の上部へ少しずつ進行していく例がとても多くなっています。神経障害が出ていると、足先にやけどや傷ができても感覚的に気付くのが難しくなるものです。

痛みや熱さなどの“違和感”がなくても、定期的に自分の足裏や足先を肉眼でチェックするように心がけましょう。糖尿病足病変で壊疽・壊死に至る患者の多くは、「発見・治療開始の遅れ」が下肢切断という辛い現実を招く原因となっています。

糖尿病足病変の重症化を防ぐなら予防的フットケアが効果的

最近では糖尿病足病変の重症化を防ぐために、「予防的フットケア」が重要視されるようになってきました。

予防的フットケアとは、主に足の洗い方、爪のお手入れ方法、靴下や靴の履き方の見直し、乾燥予防のための保湿ケア指導などが挙げられます。

また、運動療法時に足を怪我しないために注意することや、足浴の推奨も含まれています。

医師の診察を受けるとき以外にも、自分の足を細かくセルフチェックするのも「予防的フットケア」に分類されます。チェック内容は、発赤、乾燥、足水虫、爪水虫、爪剥離、外傷、湿疹、水泡の有無など多岐に渡ります。「こんなに多くの項目を自分で確認するなんて大変」と思われるかもしれませんが、医療機関で作成された“糖尿病足病変フットケアシート”が用意されているため、細かい部分までチェックできるようになっているので安心してください。

糖尿病外来や入院患者に対しても、専門医が指導・確認を行うことが増えていますので、不安に感じていることや疑問点は躊躇せずに相談するようにしましょう。数年前の日本では、糖尿病患者に対する「足のケア」をおろそかにする傾向がありました。しかし、足切断リスクの高い糖尿病入院患者を対象として、爪切り、足洗浄や角質ケアといったスキンケアを医療従事者が適切に指示したところ、糖尿病足病変の重症化が抑制されることがわかったのです。

糖尿病は血糖値コントロールばかりに目がいきがちですが、正直それだけでは糖尿病足病変の進行を予防することは難しいのが現状です。予防的フットケアを正しく行い、いつまでも自分の足で歩くことができるように日々努力しましょう。

糖尿病足病変は足浴で悪化しないのか不安?

糖尿病足病変には足浴が効果的とされていますが、よく「足浴で悪化することはないのか?」といった不安を抱く糖尿病患者がいます。恐らく、実際に足浴後に糖尿病足病変が悪化した例をどこかで見聞きしたからでしょう。

足浴によって糖尿病足病変が悪化するケースでは、足浴後に水気をしっかり拭き取らないことが主な原因となっています。足の湿度が高いまま靴下や靴を履いてしまうと、蒸れて細菌が繁殖しやすくなるためです。また、足浴をした直後の皮膚は柔らかくなっているので、摩擦刺激に弱く傷ができやすいのも糖尿病足病変が悪化する原因のひとつとなっています。

しかし、糖尿病足病変の予防には足浴が効果的なのも事実です。

足浴は足の汚れや細菌を洗浄して清潔に保つことや、皮膚や爪を柔らかくする目的で行われます。血流を促進する効果も期待できるので、血流障害による足病変の予防にもなります。また、足浴中は足先や足裏の状態を細かくチェックすることができるため、糖尿病足病変の初期症状を見つけるには最適です。

足浴自体には糖尿病足病変を悪化させるリスクはありません。足浴後には足についた水気を優しく拭き取り、細菌感染や怪我に注意していれば大丈夫です。特に足指の間は拭き残しやすい場所なので気をつけましょう。また、皮膚がふやけすぎると些細な刺激でも傷をつくりやすくなってしまいますので、足浴は短時間で済ませるのも大事なポイントです。

糖尿病足病変のフットケア以外の予防方法

糖尿病足病変を予防するためには、フットケア以外にも下記のポイントに注意してください。

①血糖コントロール
基本的には、やはり血糖値コントロールが重要になってきますので、薬の服用やインスリン注射は時間通りに行ってください。食事間隔を一定に保つのも大切です。

②禁煙
喫煙は、たばこに含まれるニコチンが血管を収縮させる作用があるため、糖尿病三大合併症のひとつである「動脈硬化症」を引き起こしやすくなります。可能であれば完全に禁煙するのが一番ですが、どうしても難しい場合には徐々に本数を減らすなどの自己コントロールを行うようにしましょう。

③禁酒
飲酒はお酒に含まれるアルコールが代謝される際、血糖値に大きな影響を与えます。また、大量飲酒によって肝機能障害を起こすと血糖コントロールが難しい糖尿病へ進行してしまう可能性もあります。糖尿病患者のアルコール摂取はインスリンの効きを悪くしたり、逆に低血糖を起こす危険性も高まるため注意が必要です。特に経口血糖降下剤を服用している場合には、食事を摂らずに飲酒をすると低血糖が起こりやすくなります。血糖値の乱高下は血管にも大きなダメージを与えるので、糖尿病足病変を予防するためには飲酒量を減らすなどの心がけが大事です。

④運動不足解消
寝たきりなどの運動不足は血流を悪くするため適度な運動も大切となります。ただし激しい運動による靴擦れなどには十分気を付けましょう。

糖尿病足病変の治療方法

糖尿病足病変は、その重症度によって治療方法が異なります。

①軽傷(皮膚感染症)
細菌や水虫(白癬菌)に感染したときには抗生物質や真菌薬を用いて、感染症が進行しないように治療を行っていくのが一般的です。糖尿病患者の場合、高血糖によって免疫力が低下していることや、末端の血管が細くなっていることが多いため治療に時間がかかることも珍しくありません。しかし、途中で投げ出さずに根気よく薬を塗布して治療にあたりましょう。

②中傷(潰瘍)
糖尿病足病変が重症化すると、潰瘍や膿をもった炎症を起こします。この場合には、患部に体重をかけないように注意しながら生活をすることが大切です。潰瘍の一部が壊死したり細胞が死んでいるのが確認されたときには、傷の治りを促すためにデブリドマン(幹部の一部を削る処置)を行うケースもあります。

③重症(壊疽初期段階)
糖尿病足病変がさらに進行していくと、下肢虚血によって潰瘍の悪化、壊疽がみられるようになります。従来の治療法では「足の切断」しか選択肢がなかったのですが、最近はカテーテルを用いて細くなった血管を広げる治療も積極的に行われるようになりました。これにより、末端まで血液や栄養が供給されるなどの改善を認められる症例も出てきており、下肢切断を免れる糖尿病患者も増えているのが現状です。

④末期(壊死)
足先が完全に壊死すると細胞が次々に腐り始めてしまうこともあります。
広範囲にわたって壊疽・壊死が拡大しているときや、これ以上の治癒が見込めない場合にはやむを得ず下肢切断という処置を行う必要があります。足の切断は、糖尿病患者の生命を守るための最終手段です。

繰り返しお伝えしている通り、糖尿病足病変は初期段階で発見して早期治療を行えば、再び運動できるようになったり普段通りの生活を送れるまで回復した例もあります。少しでも自分の足先や足裏に異変を感じたら、迷わず医師の診察を受けるようにしましょう。

まとめ

糖尿病足病変は、糖尿病の合併症である神経障害・動脈硬化が引き金となり、細菌感染によって潰瘍や壊疽を発症する足の疾患です。最悪の場合には、下肢を切断することもあるため多くの糖尿病患者から恐れられていますが、早期に発見をして正しい治療を行えば重症化を免れることも少なくありません。

また、糖尿病足病変を予防するためには日々のフットケアや丁寧な観察、定期的な診察を受けることが何よりも重要です。「入浴後には足の水気を丁寧に拭く」「毎日自分の足をチェックする習慣をつける」など、日常生活の中の些細なことで糖尿病足病変は防ぐことができます。

この先もご自身の足で歩いて行けるように、しっかり予防・早期治療をしていきましょう。

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