目次
糖尿病のかゆみに関する基礎知識
弊社の商品開発チームの医師監修
Q. 糖尿病が原因で起こるかゆみはある?
A. ありますが、ほかの病気が原因になっていることも。
糖尿病が原因で起こるかゆみはある?
糖尿病になると、合併症などさまざまな病気を併発します。その病気が原因となって起きる症状のひとつに”かゆみ”があります。かゆみ自体が命に危険を及ぼすことは少ないですが、常時つづく不快感は、QOL(生活の質)を下げてしまうことにもなりかねません。また、糖尿病自体もかゆみの原因になっている場合もありますので、注意が必要になります。
かゆみは糖尿病の人にとっても悩みですが、ひどいかゆみが続いていた場合「糖尿病になってしまったのではないか?」と気になってしまう人もいるでしょう。かゆみが起こる原因は多く、発汗や皮膚の乾燥など、病気になっていなくても起こるものがあります。そのため、そのかゆみがどこから来ているのかというのは、特定するのが難しいこともあります。
ですが、糖尿病とかゆみの関係について知っておくことで、実際にかゆみが出てきた場合に参考になります。手足のかゆみや陰部のかゆみなどのように特定の場所に症状が出ます。糖尿病が原因で特によく起こるかゆみをご紹介していきます。
糖尿病によるかゆみの原因
糖尿病に関するかゆみは、糖尿病が直接的な原因として起こっているもの、合併症などで間接的に発症した病気が原因でなるものがあります。例えば、糖尿病になると感染症になりやすく、それが原因で身体のいたるところにかゆみが生じてきます。また、高血糖によるかゆみというものがあり、これも全身にかゆみが出る可能性があるため、患者を苦しめるものになります。
かゆみは、肥満細胞から分泌されるヒスタミンという物質が神経に働き、脳にかゆみとして認知されることによって生じます。かゆみは、身体や内臓に異常が起こっていることを知らせるためのサインにもなりますので必ずしも悪いとはいえません。ですが、一日中かゆい状態で生活をしていくのはとても辛いものです。
かゆみは、さまざまなことが原因で起こります。一般的に、かゆみを生じさせる原因は以下のようなものがあります。
- 汗をかくことによるもの
- アレルギーによるもの
- 加齢による皮膚の乾燥
- 薬の副作用によるもの
- 虫さされによるもの
- 肌が弱く刺激に敏感
また、かゆみを引き起こす疾患も多種多様で、以下のようなものがあります。
- あせも
- アトピー性皮膚炎
- 乾癬(かんせん)
- じんましん
- 接触性皮膚炎
- 水虫・白癬(はくせん)
- 皮膚そう痒症(ひふそうようしょう)
一部でもこれだけの種類がありますので、かゆみがあるからといって糖尿病になったとは言えません。そのほかの症状も考慮してみる必要があります。このうち、糖尿病が原因として多いかゆみは、高血糖や感染症によるものです。くわしく見ていきましょう。
高血糖によるかゆみ
糖尿病になりインスリンの働きが低下していくと、食べものからのブドウ糖が利用できず、血液中にブドウ糖が残っている状態が続き、高血糖になります。糖分は粘度が高いため、血液中の糖分が増えると血はドロドロになります。そうすると、血管内と血管外に濃度の差が出てきて、その差を埋めるために細胞から水分を取り込むようになります。
そして今度は血管内の水分が増え、身体はそれを排泄しようとしますので、尿の量が増えます。これにより、どんどん体内の水分が奪われていくのです。細胞の水分が少ないと、肌は乾燥しますので、それがかゆみの原因となっているのですね。
感染症によるかゆみ
糖尿病になると、歯周病・胆道感染症・尿路感染症・皮膚感染症・呼吸器感染症など、さまざまな感染症にかかりやすくなります。その原因は、血糖値が高くなることで好中球の機能や免疫反応が低下してしまうからです。好中球の機能が低下すると、体内に侵入してきたウィルスや雑菌を食べることができません。
また免疫反応が低下すると、一度感染した病原体の抗体が作られず、何度も同じ病気を繰り返してしまうことになります。感染症の中でもかゆみにもっとも関係しているのが、「皮膚感染症」です。皮膚感染は、高血糖の乾燥などで起きたかゆみに対して、何度もかきむしって傷となった部分から感染します。
また、免疫機能の低下や血流の停滞で栄養が行き渡らなくなることにより、カンジダ菌や白癬菌(はくせんきん)などに感染しやすくなります。
白癬(はくせん)によるかゆみ
白癬という言葉は聞きなれないかもしれません。一般的には水虫・たむしという呼び方でなじみがあるのではないでしょうか。白癬菌(皮膚糸状菌)は40種類以上あり、そのうちトリコフィトン・ルブルム、トリコフィトン・メンタグロフィテスなどが、人に対してよく白癬を起こします。犬や猫に寄生していた白癬菌が人に感染することもあります。
白癬菌はケラチンというタンパク質を好みます。ケラチンが多い場所は、皮膚表面の角質層の部分ですので、皮膚のどの部分でもかゆみが起こるといえます。粘膜はケラチンが少ないため感染はしませんが、爪や毛などは角質層が硬くなったものですので、白癬菌が感染する可能性があります。
白癬のうち、足に発生する足白癬はかゆみも起こしますが、かゆいと感じない人もいるため、発症していても気づかない人もいます。そのため、家族の中に白癬になっている人がいても、それに気づいていないと、治療をされないままになります。そうすると、家中に白癬菌を撒き散らすことになり、家族がどんどん感染していきます。
こういうケースから、糖尿病で免疫力の落ちた人は特に何度も感染してしまうのです。反対に、健康な人が足にかゆみを感じるため病院に行ったものの、白癬ではなかったというケースもあります。ですから、これが糖尿病から来ているものなのか、白癬なのかという判断は難しい部分があるのです。
【爪白癬】
白癬のうち、爪に症状が出ているものを爪白癬といいます。爪には神経がないため、爪白癬になってもかゆくなることはありません。爪白癬は、最初は爪の先が白っぽくなるだけですが、徐々に黄色や黒色に変色していき、盛り上がったように厚くなります。そして、そこまで進行すると、爪先からボロボロと崩れてゆきます。
その破片はさらにほかの人に感染する原因にもなります。爪白癬になったことが原因で足白癬などになる可能性もありますので、放置してはいけません。爪を伸ばしすぎたり、ブーツなどで蒸れる状態が続くことで、衛生状態が悪くなり感染しやすくなります。治療には数ヶ月〜1年以上かかることもありますので、根気良く治療していく必要があります。
糖尿病女性の陰部のかゆみについて
糖尿病になったことによって起こるかゆみとして多いのは、陰部のかゆみです。女性の陰部のかゆみの原因としてもっとも多いのは、カンジダ膣外陰炎です。16〜59歳の女性の約2割が経験している病気です。カンジダ膣外陰炎は、カンジダ菌という菌が増えることにより、かゆみやおりものが多くなるといった症状を引き起こします。
カンジタ菌自体は感染などでうつるわけではなく、女性なら誰でも口の中・膣・皮膚などに持っており、それが経験者の多い理由でもあります。そして、免疫力の低下・ストレス・ホルモンの変化などが原因になって、膣の中で増えてゆき発症するのです。具体的な症状には以下のようなものがあります。
- 膣やその周りのかゆみ
- 白いヨーグルト状のおりものが出る
- 膣が熱い、刺激、ヒリヒリ感
- 膣の外陰部の赤みや発疹(ほっしん)
- 排尿時に痛みがある
- 性交渉のとき痛む
そして、発症する原因として以下のようなものがあります。
膣内の乳酸菌減少によるもの
抗生物質を服用すると、膣内でほかの病原菌の侵入を防いでいる乳酸菌も消えてしまいます。また、生理前には女性ホルモンの働きで膣内環境が変わることにより、乳酸菌は減少します。また、膣内を必要以上に洗浄してしまうことでも乳酸菌は減少します。その結果、カンジダ菌が繁殖しやすい環境になってしまうのです。
性交渉によるもの
刺激で炎症を起こしたり、膣に触れたときに菌が付着することによります。
免疫力の低下
寝不足だったり、風邪をひいたりしていると免疫力が落ちますので、それが原因で発症することがあります。
衛生的な問題によるもの
通気性が悪かったり、しめつけがきつい下着を着用すること、ナプキンの交換頻度が低いことによる衛生上の問題も原因になります。
上記の原因以外にも、カンジダ膣外陰炎は糖尿病が原因で発症することもあります。糖尿病の人は、尿に糖が混じっているため、カンジタ菌の繁殖がしやすい環境になってしまうのです。特に、糖尿病の治療に使われるSGLT2阻害薬という薬は、多量の糖分を尿を通して排出する効果があります。これが原因で、糖尿病からカンジダ膣外陰炎を引き起こしてしまうのです。
治療方法としては、膣錠の挿入や軟膏の塗布による治療があります。薬を使えば比較的早く、1週間程度で治りますので、早めに受診することです。こういった病気では清潔にすることが大事ですが、膣内を洗いすぎると逆効果ですので気をつけなければいけません。また、病気を発症している間の性交渉は、症状が悪化する原因にもなりますので、できるだけ控えましょう。
糖尿病男性の陰部のかゆみについて
カンジダ菌による病気は、女性に起こるものとして有名ですが、実は男性にも起こることがあります。基本的に症状や治療法は、女性のカンジダと同じです。ですが女性に比べると発症しづらいです。発症する原因としては、糖尿病・包茎・消耗性疾患・ステロイド剤投与などがあります。
症状は亀頭や包皮にかゆみや痛みが出たり、炎症を起こし赤くなったり、まれに尿道炎を起こすこともあります。陰部をよく洗い清潔に保つことと、抗真菌剤を患部に塗布することで治療します。
男女ともに、かゆい場合は性病の可能性もありますので、早急に受診することが重要です。
肝障害によるかゆみ
肝機能の障害は糖尿病の原因となることもありますが、逆に糖尿病が悪化すると肝臓に障害が出ることもあります。肝機能に障害が出ると、胆汁の流れが滞り血液中に排出されることがあります。これにより血中胆汁酸が上昇し、かゆみが起こることもあります。血液は身体中を巡っていますので、あらゆる部位にかゆみを感じます。
肝臓の障害により生じるかゆみは、オピオイドという物質がかゆみを起こしていると考えられています。そして、このかゆみは脳が感じているもので、ヒスタミンによって生じるかゆみとは別物になります。そのため、かゆみ止めとして一般的な抗ヒスタミン薬は効きません。
では、どんな薬が使われるかというと、ナルフラフィン塩酸塩という飲み薬です。この薬はオピオイドに対して働きかけて、活性化していた状態から元のバランスに戻します。もともとは、腎臓病で人工透析をしていた人のかゆみ止めとして使われていましたが、肝臓の病気にも効くことがわかり、導入されました。
全身がかゆくて眠れないという人に、とても効果的な薬になります。かゆみで眠れないとQOLが下がりますし、かきすぎて傷になるとそこからまた感染する場合もあります。全身がかゆい場合は肝臓の検査も視野に入れておくといいでしょう。
糖尿病治療薬の副作用によるかゆみ
糖尿病を治療している場合、その治療薬の副作用としてかゆみが出ることもあります。例えば以下の薬が原因となる可能性があります。
・アマリール
すい臓に作用し、インスリンの分泌を促す効果があります。副作用としてかゆみや発疹が現れることがあります。
・セイブル
炭水化物をブドウ糖に分解する酵素を阻害し、糖の消化吸収を遅らせることによって、食後に血糖値が上がるのを防ぐ薬です。副作用としてかゆみが出ることがあります。
・メトグルコ
筋肉での糖利用を促したり、肝臓で糖をつくるのを抑える効果があり、血糖値を下げることができます。皮膚が黄色くなったり、かゆみが出たりすることがあります。
副作用の出方には個人差があるため、必ずかゆくなるとはいえませんが、服用を開始してからかゆみがではじめた場合は、担当医に相談してみましょう。
・かゆみに対しての治療方法
かゆみの出ている部位に対しては、抗真菌薬を塗布するなどして対処します。ですが、糖尿病がかゆみの原因になっている場合は、高血糖状態を治さなければ病気に対抗することができません。ですから、同時に血糖コントロールを改善していくことも大事になってきます。
まとめーかゆみがある場合は早期受診を
糖尿病と眠気の関連性今回の内容をまとめてみます。
- かゆみにはさまざまな原因があり、糖尿病が原因のこともある
- 糖尿病だと感染症になりやすいため、白癬症にかかりやすい
- 肝障害でかゆくなることもある
- 高血糖が原因でかゆくなることもある
- 陰部のかゆみは糖尿病が原因であることも
- 糖尿病の薬の副作用でかゆくなることもある
かゆみというのは、日常的に誰でも経験しているため、それが重大な病気になるとは考えないものです。ですが、かゆみから糖尿病が見つかったという例もあり、バカにできない症状のひとつだといえます。かゆみがある場合、さらに糖尿病が気になる場合は、早期受診することをおすすめします。