目次
糖尿病のしびれに関する基礎知識
弊社の商品開発チームの医師監修
Q. 両手足のしびれが起こったら糖尿病?
A. 糖尿病の可能性もありますが、別の病気が原因のこともあります。
両手足のしびれが起こったら糖尿病?
糖尿病には神経症という、しびれを伴う合併症がよく発症します。ですから、足の小指などのしびれが起こったとき、自分が糖尿病になってしまったのでは、と気になる人もいるでしょう。ですが、糖尿病以外にもしびれを起こす病気はありますので、それだけで判断はできません。
ほかの病気が原因で手足がしびれることもありますし、そのほかの病気と糖尿病神経症が同時に起こる場合もあります。神経症にどんな特徴があるのかを理解することは判断の参考になります。もし両手足のしびれが神経症だった場合、すでに糖尿病になっている可能性が高いです。糖尿病神経症は糖尿病になったことが原因で起こる合併症だからです。
ですから、糖尿病を発症した初期のころは神経症になる可能性は低いでしょう。では、具体的にどのようなしびれが糖尿病神経症なのでしょうか?また、糖尿病神経症とはどのような病気なのでしょうか?正しい知識を学んで病気の予防と通院の際の参考にしてください。
糖尿病神経症とは?
糖尿病神経症とは糖尿病の合併症として起こる病気で、糖尿病の人の3〜4割に発症が見られます。比較的起こる頻度が多いことから、三大糖尿病のひとつとされています。手先や足先からしびれや痛みを感じはじめ、そのままにしておくと内側に向かって次第に広がっていきます。しびれに関係しているのは主に感覚神経です。
神経は、血管と同じように全身にはりめぐらされています。そして、脳が発する命令を身体の各部に伝える機能や、逆に身体の各部で感知した情報を脳へ伝える機能を持っています。高血糖状態になると、この神経に対して直接的、あるいは間接的に障害を与えます。神経には次の3つの種類があります。
【自律神経】
自律神経は無意識の呼吸、体温調節、心臓の鼓動、発汗など身体の機能を調整するための神経です。この神経に障害が出ると、さまざまな部分に問題が出てきます。例えば、以下のようなものがあります。
- 便秘、下痢
- 偏頭痛、微熱
- 動悸
- 不眠
- 耳鳴り
- 頻尿、残尿
- だるさ、疲労感
- めまい、立ちくらみ
これだけではなく、糖尿病には致命的な血糖コントロールの乱れや、低血糖に気づきにくくなるという症状も出てきます。
【運動神経】
この神経に障害が出ると、運動機能に問題が生じ、障害が出ている部分を動かすことができなくなります。例えば顔に障害が出てしまうと、目が開かなかったり動かなかったりするという症状が出てきます。
【感覚神経】
手足にしびれや痛みが出たり、足がぶつかったりケガをしたりしても気づかないほど、感覚が鈍くなったりします。それに気づかないと、対処が遅れて潰瘍になり、その部位を切断しなければならないこともあります。
糖尿病神経症は糖尿病予備群の人には起こらず、糖尿病になって数年してから自覚症状が出はじめます。安静にしていてもしびれや痛みがあるため、悪化していくにつれて辛さが増していきます。
糖尿病神経症になると、なぜしびれたり痛みを感じたりするのかは、はっきりとは解明されていません。長い間高血糖が続いていると、ソルビトールという物質が神経細胞に溜まっていきます。そのソルビトールがダメージを与えるなどして、障害を起こす原因になっているという説があります。
また、高血糖になると細小血管(細い血管)の血流が滞り、神経細胞に十分な酸素や栄養が行き届かないため、それがしびれの原因にもなっています。
神経症はどんな感じのしびれがある?
手足のしびれはどのような感覚なのでしょうか?しびれといっても、正座で足がしびれたときとは違う感覚です。進行度合いによっても感じかたは変わりますが、実際になった人が感じる感覚には、以下のようなものがあります。なんとなく感じがわかっていただけるでしょう。自分の手足のしびれが気になるという人は、参考にしてみてください。
- 何かが足裏に貼りついている感じ
- 薄皮が1枚ある感じ
- 時間帯によってひどくなったり、軽くなったりする
- 虫が這っているような感じがする
- 手足の該当部位の感覚がなくなる
- 何かしらの違和感がある
- 薄手の靴下を履いているような感覚
- 灼熱感、やけどをしたように熱くなり皮膚も赤くなる
糖尿病神経症のしびれや痛みは手足の両方同じ部位に起こるのが特徴です。そうでなかったとしても、すでに糖尿病の場合は主治医に相談することをおすすめします。その状態で放置して進行していくと、最終的には壊疽(えそ)してしまい、切断せざるをえなくなります。手足のしびれだからと甘くみていると大変なことになるのです。
感覚が鈍くなることによってケガをしていることに気づかず、感染がひどくなり切断することになったというケースや、また、痛みを感じないことにより、命に関わるほどの病気に気づけなかったというケースもあり、決して侮れない病気だといえます。
糖尿病神経症のしびれ以外の症状
神経症によって起こる症状はしびれだけではありません。以下のようにさまざまな症状が起こる可能性があります。
- めまい、立ちくらみ
- 発汗異常
- 不整脈
- 下痢、便秘
- 感覚低下
- 動眼神経麻痺
- 顔面神経麻痺
- 胃腸障害
- 排尿障害
- ED(勃起障害)
さらに、神経症が進行すると、
- 無痛性心筋梗塞
- 無自覚性低血糖
- 壊疽
など、重大な病気に発展してしまうこともあります。
糖尿病神経症になったら治らない?
糖尿病は完治しないということもあり、神経症も治らないのではないかと思う人もいるでしょう。確かに発症時にすでにかなり進行していた場合や、発症しているのにもかかわらず治療をしなかった場合は治すのは難しいでしょう。ですが、通常は血糖コントロールを続けていくことで改善することができます。
糖尿病神経症の治療法
糖尿病神経症の治療は、基本的には血糖コントロールの改善を優先します。軽症の場合は生活習慣と合わせて見直すことで、改善することが多いのです。もともと糖尿病の合併症として発症しますので、糖尿病の治療をしていくことで神経症も改善していくのですね。ほかの治療は、薬物療法、神経の働きを助ける治療や、自覚症状を改善する対症療法などがあります。
【薬物療法】
薬物療法では、主に非ステロイド性消炎鎮痛薬・抗うつ薬・還元酵素阻害薬などがあります。感覚神経の障害による痛みは、今まで通常の痛み止めが効きませんでしたが、最近では以下のような効果的な薬が出てきています。
エパルレスタット | 手足のしびれや疼痛(とうつう)を改善する効果があります。 |
キネダック | しびれ、疼痛、振動覚異常、心拍変動異常を改善する効果があります。 |
メチコバール | 傷ついた末梢神経を修復する効果があり、しびれや痛みを軽減します。 |
芍薬甘草湯 | 神経症が原因で起こる有痛性腓腹筋痙攣 (こむらがえり)に対して、強い効果があります。 |
アルドース還元酵素阻害薬(ARI) | 原因となっているソルビトールが細胞内に溜まるのを防止する効果があります。 |
【運動療法】
運動療法には、糖尿病の血糖コントロールに推奨されているウォーキングなどの有酸素運動が適しています。準備体操をしっかり行い、30分程度の運動を週に5回以上行うのが理想です。できれば毎日やりましょう。
服装は動きやすい格好で問題ありません。足の負担を軽減する糖尿病用のソックスが発売されていますので、痛みやしびれが気になる人は使ってみてください。雨などでウォーキングができない場合は、仰向けになって上にあげた手足をブラブラさせる「ゴキブリ体操」も血行を良くしますので、おすすめです。
【治療後神経障害について】
神経症の治療中に、症状が一時的に悪化したように感じられることがあります。これは治療方法が悪いわけではなく、改善しているという証拠になります。マッサージでも一時的に痛くなる「揉み返し」と呼ばれる症状がありますが、それと似ています。
なぜそうなるかははっきりとわかっていませんが、衰えていた神経が治療で改善し、敏感になったことで症状が強くなったと感じられるのではないかと考えられています。治療後神経障害は、長い間血糖状態が悪かったのに急速に血糖コントロールが改善された場合に、比較的よく起こります。
この症状が出た場合でも、血糖コントロールが良ければいずれ改善していきますので、辛抱強く治療を続けることが大切です。
手足の片方だけのしびれや、舌などのしびれの場合は?
片方の足、または手がしびれるという場合は、神経症の可能性はあるのでしょうか?結論からいうとその可能性は低く、ほかの病気の可能性があります。例えば、舌の場合は「舌痛症」や「口腔内灼熱症候群(バーニングマウス症候群)」といった病気がしびれや痛みを伴います。
糖尿病初期のころは神経症はほとんど発症しません。発症しても手足から症状が出てくることが多いため、糖尿病神経症の可能性は考えにくいのです。ですが、以前から糖尿病予備群だったなら可能性もありますので、念のため受診することをおすすめします。
神経症の早期発見と発症後の予防
神経症は自覚症状がないため発見が遅くなりがちですが、糖尿病の三大合併症といわれているくらいですので、糖尿病になると起こりやすい病気です。すでに糖尿病の場合も、しびれが原因で糖尿病が発覚した場合も、すぐに治療を開始することが重要です。早ければ早いほど改善の可能性は高くなります。
感覚がなくなっている場合も多いため、ケガややけどをしていても気づかないことが多いです。感覚がないと、入浴時にやけどをする可能性もあります。それを防ぐために温度をよく確認して入りましょう。傷をそのまま放置しているとどんどん悪化していきますので、早めに気づくことが大切です。
そのために、自宅でできるセルフチェックを欠かさないようにしましょう。また、定期的に神経障害の検査を受けることも大切です。セルフチェックには以下のようなものがあります。手足両方の確認が大事ですが、足は特によく確認する必要があります。手は普段目に入りやすいため見つけやすいですが、足は目に入らないため気づきにくいからです。
- お風呂上がりに足をすみずみまでチェックする
- 触ってみて感覚があるか確認する
- 適切なサイズの靴を履き、靴ずれを防ぐ
- 家でも靴下をなるべく履くようにする
- 爪の切りすぎに注意する
- タコやウオノメを触らない
セルフチェックよりも大事なのは、ケガや出血をするような行動を避けることです。水虫、ウオノメ、まめ、乾燥によるひび割れなど、足のケガに気をつけましょう。神経症により足の関節が変形して、ウオノメやタコなどができやすくなることもありますので、そのあたりにも注意しておく必要があります。
病院の検査では以下のようなものがあります、簡単にできるものばかりですので、定期的に検査を受けることをおすすめします。
神経症検査の種類
振動覚検査 | 感覚の検査です。振動する音叉(おんさ)を当てて、振動を感じるか調べます。 |
モノフィラメント検査 | ナイロンの糸で足裏を突き、あたっている場所を答えてもらいます。感覚があるか確認できます。 |
心拍変動検査 | 心臓は普通規則正しく脈を打ちますが、健康な人でもときどき変動することがあります。心電図を使って心拍数の変動を測定することで、自律神経の機能が正常かどうか調べられます。自律神経に異常があると、神経症が疑われます。簡単にでき、自律神経の検査に有効です。 |
アキレス腱反射検査 | アキレス腱を叩くと、反射的に足の筋肉が収縮して動くことを利用した検査です。検査用のハンマーで叩いて検査します。神経症の疑いがある場合は、この反応が鈍くなるか、なくなります。 |
神経伝導検査 | 末梢神経付近の皮膚上に電気を流して、反応を見る検査です。電気を流すため、痛みが少しあります。刺激の伝わる速さを測ることで、障害があるかどうかを調べます。 |
まとめー糖尿病神経症は早期発見と根気良い治療が大事
糖尿病神経症についてまとめてみましょう。
- 糖尿病にはしびれや痛みを伴う糖尿病神経症という合併症がある
- 糖尿病神経症は、自律神経・運動神経・感覚神経に障害が出てさまざまな症状が現れる
- 糖尿病神経症は、正座でのしびれとは違う独特のしびれがある
- 糖尿病神経症は、しびれ以外の症状も数多くある
- 治療法は、血糖コントロールを主とし、薬物や運動などで行う
- 早期発見にはセルフチェックと検査が大事
- 血糖コントロールと生活習慣の改善でよくなる
治療後神経障害などもありますので、根気よく治療を続けることが大切です。糖尿病神経症は、初期の頃は大した症状ではないものの、進行するにつれて危険度が増していきます。悪化してしまうと人間の機能をどんどん失っていき、普通の生活が送れなくなる恐ろしい病気です。予防をしっかり行って、発症するのを防止していきましょう。