テーマ:糖尿病

糖尿病は肝硬変や肝臓がんになるリスクが高い?研究結果と基準値とは

糖尿病と肝臓に関する基礎知識

弊社の商品開発チームの医師監修
Q. 糖尿病になると肝臓も悪くなりやすいのですか?
A. はい、健康な人に比べて肝硬変や肝臓がんのリスクが高くなります。

この記事の監修ドクター
自然療法医 ヴェロニカ・スコッツ先生
アメリカ、カナダ、ブラジルの3カ国で認定された国際免許を取得している自然療法専門医。
スコッツ先生のプロフィール
https://gluco-help.com/media/lose-weight-diabetes27/

 

糖尿病と肝臓の関係

糖尿病の関連している臓器は「膵臓」と思われがちですが、さまざまな臓器ともつながっています。
肝臓もそのひとつ。肝臓が悪くても糖尿病になりやすく、逆に糖尿病になっても肝臓がんなどの深刻な病気を引き起こしやすくなるのです。
ここでは、肝臓の糖尿病との関連性や糖尿病と肝臓疾患が併発するとどうなるのか、肝臓数値の基準、食事療法などを詳しく解説していきます。

肝臓の働き

肝臓は、膵臓でインスリンを生成するための栄養を供給しています。
さらに、食事から摂取したブドウ糖(グルコース)を貯蔵する働きと必要な時に放出する働きもあります。

たんぱく質や糖分を摂取した時、膵臓からインスリンが分泌されて、グリコーゲンを合成し肝臓へ貯蔵するよう促しています。
そして、血液中の糖分が減った時には、肝臓は2つの方法で糖を作ります。

【肝臓が糖を作る2つの方法】
1.蓄えていたグリコーゲンを分解して糖を作る
2.アミノ酸や脂質などさまざまな成分からブドウ糖を作る(糖新生)

糖新生とは、食べ物から糖質が摂取できない時や少ない時に、体内のいろいろな成分を組み合わせて、肝臓でブドウ糖を作り出す働きです。
また、肝臓はグリコーゲンを30g~40g程度貯蔵する働きを持っていますが、肝機能が低下すると血液中の糖分を蓄えられないため、血糖値が上昇してしまうのです。

そして、膵臓から分泌されるインスリンは、肝臓から無限に糖を放出してしまうのを抑制する働きもあります。糖尿病では、インスリンの働きが悪い、または生成できない状態。
空腹時に糖新生が起こり、空腹時血糖値を上昇させてしまう要因となります。

以上のことから糖尿病と肝臓は、血糖や肝臓機能に深い関係があるとわかります。
どちらの機能が低下しても、深刻な病状へ進みやすくなるのです。

糖尿病は肝臓がんになりやすい

糖尿病とがんの関係に注目した調査が行われています。
日本糖尿病学会と日本癌学会によって実施された10年間の追跡調査では、以下のような結果が出ました。

【糖尿病(主に2型糖尿病)でがんになるリスクの割合】
・大腸がん…1.4倍
・肝臓がん…1.97倍
・すい臓がん…1.85倍
糖尿病ではない人に比べて、約1.5倍~2倍も高くなります。

なぜ、糖尿病になるとがんのリスクが高くなるのでしょうか?
実際には、明確な原因は分かっていませんが、さまざまな説が考えられています。

1つは、糖尿病になると、インスリンの効き目が悪くなるため、膵臓はさらにたくさんのインスリンを分泌しようとします。
インスリンは、細胞を成長・増殖させる働きがあることから、過剰な分泌ががんの要因となるのではないかと考えられています。
もう1つは、高血糖による慢性的な炎症もがん化を起こしやすくするという説もあるのです。

がんのリスクが高くなるのは、約95%が2型糖尿病の場合といわれています。
ですが、糖尿病の方が必ずがんになるという訳ではありません。
遺伝による体質の他に、食生活の偏り、運動不足、不規則な生活など生活習慣による要素が大きくあります。
このような要素は糖尿病のみならず、がんの原因とも共通しているので正しい生活習慣を送ることが大切です。

肝臓がんの症状

がんの大きさが小さいと症状はなく、X線CTやMRI、超音波検査で見つかるケースが多くあります。

【小さいがんでも腹腔内で破裂すると】
・大量の出血を起こす。
・腹部に激痛が走る
・血圧低下
命の危険に陥る場合があります。

【直径5cm~10cm】
・腹部の張り
・腹痛
などが起こる場合がある

がんが大きくなるにつれて、肝機能の低下や黄疸、腹水が表れます。

脂肪肝と糖尿病

これまでは、肝臓がんにかかる人の多くは、アルコール性肝炎やB型・C型肝炎ウイルスによるものでした。
脂肪肝の3大原因は「肥満」「日常的なアルコール摂取」「糖尿病」といわれています。
ですが、近年増えてきているのは「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」や「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」から始まる、肝硬変や肝臓がんです。

カナダの研究によると、2型糖尿病では、そうでない人に比べてNAFLDになる確率は49%~62%、そのうち12.2%がNASHだったと報告されました。

そもそも、糖尿病に直接関係のあるインスリンは、肥満ではなくても肝臓や筋肉(骨格筋)に脂肪が溜まると「インスリン抵抗性」を起こしやすくなります。
さらに、インスリンの作用が効きにくくなると肝臓へ脂肪が溜まりやすく脂肪肝へなりやすい悪循環に陥りやすくなるのです。

NAFLD(ナッフルディー)・NASH(ナッシュ)とは?

肝臓に、脂肪が30%以上溜まると脂肪肝となります。
「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」とは、アルコール以外を原因とする脂肪肝の状態です。

NAFLDの80%~90%は、脂肪肝のままで悪化しませんが、10%~20%は肝硬変や肝臓がんへ進行する場合があります。
この、脂肪肝から壊死性炎症性変化や肝線維化へ進行した場合の症状を「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」と呼びます。
NASHへ進行すると、肝硬変や肝臓がんへのリスクが高まると考えられているのです。

放置しておくと、肝臓は『沈黙の臓器』と言われるほど自覚症状はほとんどありませんので、発覚した時には深刻な状態になってしまうのです。

イギリスのクイーンメアリー大学とグラスゴー大学による調査では、8,200万人の成人を対象にNAFLDとNASHの実態を調べました。結果が以下の通りです。

【2型糖尿病や肥満、高血圧を患っている人とそうでない人の差】
・肝硬変…4.73倍
・肝臓がん…3.51倍

結果から、約4倍~5倍のリスクを抱えていることが分かります。
肝臓は自覚症状がほとんどないため、上記の調査でも多くの方が見逃されていて調査により発見されました。

脂肪肝は、運動不足や食べ過ぎによるもの。また肥満の方に多くあります。
脂肪肝の予防と改善には、正しい食生活や生活習慣を心がけることが不可欠です。

肝性糖尿病

「肝性糖尿病」は、「肝性脳症」「食道静脈瘤」と並ぶ肝臓疾患の三大合併症のひとつです。
肝硬変や急性・慢性肝炎、アルコール性肝障害などの肝臓疾患から肝性糖尿病に進みやすくなるといわれています。
肝硬変と糖尿病を合併した場合は、肝不全死に陥るリスクが高くなるため、肝臓と糖尿病の両方の治療が必要となります。

肝硬変になると、肝臓で行われていた糖代謝が低下し、グリコーゲンへの合成・貯蔵が不十分になり食後高血糖を起こし、糖尿病になりやすくなります。
一方、肝機能が低下しているため、糖新生は不活発になり、空腹時血糖値は正常値になる傾向が強くなるため、空腹時血糖の検査だけでは糖尿病を見逃してしまう可能性があります。
そのため、先に糖尿病があった場合は、肝性糖尿病との見分けが困難です。

肝臓の検査と数値

どのような状態になると、肝臓疾患が疑われるのでしょうか?
肝臓の検査は、血液検査で行います。
肝臓細胞が壊れると血液中に流れていくので、その細胞の量によって調べられるのです。
肝機能を調べる検査で、最も多く行われている検査項目は「AST(GOT)」「ALT(GPT)」「γ-GTP」の3つ。

種類は以下の通りです。
・肝細胞が壊れた際に出る酵素…AST(GOT)、ALT(GPT)
・胆管で生成される酵素…γ-GTP

AST(GOT)、ALT(GPT)の数値が高いほど肝細胞が破壊されている状態を示しています。
さらに、2つの数値を比較し、高い方によって疑わしい病状を把握することも可能です。
・AST<ALTの場合…慢性肝炎
・AST>ALTの場合…肝硬変、肝臓がん

また、γ-GTPの数値は、アルコール性肝臓障害を確認できます。

AST(GOT) (アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)

肝臓だけでなく、赤血球中や腎臓、心筋、骨格筋などにも多く存在する酵素です。
アミノ酸の代謝やエネルギー代謝に欠かせない働きを持ちます。
異常をきたすと、血液中に酵素が漏れていきますが、他の臓器にもあるため肝臓だけの異常とは限りません。
ASTの数値だけが高い場合は、肝臓以外の病気の疑いもあります。

ALT(GPT) (アラニンアミノトランスフェラーゼ)

主に肝細胞に多く存在している酵素です。
ASTと同じく、アミノ酸の代謝・エネルギー代謝に欠かせません。
血液中にはなく、細胞が壊れた際に放出されるため、数値が高いほど肝臓の障害の強さが分かります。

γ-GTP(ガンマジーティーピー)

たんぱく質の分解や合成をする酵素です。
肝臓や胆管細胞、胆汁、腎臓、膵臓などに存在しています。
お酒をたくさん飲む人や、肥満、服用している薬によっても数値が高くなります。
数値が高いと、γ-GTPがたくさん生成されて、血中に漏れてしまっている状態です。
また、肝臓内の胆汁の流れが悪くなる「胆汁うっ滞」や胆石が胆管に詰まったり、胆管細胞の破壊によっても数値が上がります。

肝臓数値の基準値と疑われる病名

血液検査で、次の数値を超えると肝臓の機能障害・病気の疑いがあります。

検診検査項目の検診判定値
項目 保健指導判定値
AST(GOT) 31 IU/L
ALT(GPT) 31 IU/L
γ-GTP 51 IU/L

(参考:厚生労働省 標準的な健診・保健指導プログラム 新旧対照表)

次に疑われる病気を見てみます。

【AST(GOT)・ALT(GPT)の数値が高い場合】
劇症肝炎、アルコール性肝炎、急性肝炎、慢性肝炎、脂肪肝、肝硬変、肝臓がんなど

【γ-GTPの数値が高い場合】
急性肝炎、慢性肝炎、アルコール性肝炎、非アルコール性肝炎、肝硬変、肝臓がん、薬剤性肝障害、胆道系疾患など

このような深刻な病状にならないためには、日頃からの食生活が大切です。次項では、どのように気を付けていくとよいかをご紹介していきます。

糖尿病と肝臓によい食事は何?

NAFLDやNASHは、今のところまだ解明されていない部分が多くあります。
そのため、治療法も決まっていません。
ですが、糖尿病や肥満などをより良い数値に安定させていくと、NAFLDやNASHも改善できることがわかっています。
一番効果的なのは、正しい生活習慣と食事です。

糖尿病と肝臓によい食事は何?

NAFLDやNASHは、今のところまだ解明されていない部分が多くあります。
そのため、治療法も決まっていません。
ですが、糖尿病や肥満などをより良い数値に安定させていくと、NAFLDやNASHも改善できることがわかっています。
一番効果的なのは、正しい生活習慣と食事です。

バランスの良い食事が正解!

脂肪肝だからといって、脂質をカットしてしまう食事が良い訳ではありません。
糖やアルコールからでも、脂肪を作ることができてしまうからです。
バランスの良い食事を摂り、脂肪肝を改善していきましょう。

脂肪肝の改善には、以下のような点に気を付ける必要があります。

【エネルギーの制限】
肥満の場合は、1日の摂取エネルギー量を目安量の範囲にしましょう。
肥満に当てはまるかは、以下の計算で分かります。

・BMI(肥満判定の指標)
体重(kg)÷{身長m×身長m}=数値

数値 肥満度
18.5未満 痩せ
18.5以上25.0未満 痩せ
25.0以上 肥満

標準体重と1日の摂取カロリーの目安は、以下のように計算します。

・標準体重と目安摂取カロリーの計算
標準体重(身長m×身長m×22)×25kcal
例えば、身長165cmの場合
(1.65×1.65×22)×25=1,497kcal

【甘いものは控える】
糖尿病でも、甘いものは制限する必要があります。
そして、ショ糖や果糖は、中性脂肪が肝臓に溜まりやすいです。
砂糖を含む食べ物や果物も控えましょう。

糖類とは、以下の通りです。
・ショ糖…ブドウ糖と果糖の結合したもの。お菓子などに多く含まれる
・果糖…果物に多く含まれる
・でんぷん…穀物に多く含まれるブドウ糖が結合したもの

【脂質を控える】
極端に脂質を制限すると、必須脂肪酸が不足してしまいますので、1日大さじ1~2程度までに抑えて摂取します。
植物油であるオリーブオイルや、魚の油を摂取するようにしましょう。
動物性の油は避け、肉を食べる時は脂身を取り除くと良いです。

【たんぱく質も適度に摂る】
たんぱく質は摂り過ぎても、少なすぎても肝脂肪に良くありません。
良質なたんぱく質を、適量摂るようにしましょう。

たんぱく質の適量は以下の計算です。
標準体重(kg)×1.1~1.2g
例えば、体重65kgの人なら、71g~78g必要です。

1日の目安量
量(g) たんぱく質(g)
絹ごし豆腐(1/2) 150 7.5
納豆(1パック) 40 4.0
豚もも肉 100 3.5
牛肩肉(赤身) 100 20.2
鶏むね肉(皮なし) 100 23.3
さけ1切れ 80 6.7
さば1切れ 80 13.2
まぐろ赤身 80 5.6
卵(M玉1個) 80 5.6

【野菜と食物繊維を豊富に食べる】
ビタミンやミネラル、食物繊維は積極的に摂りましょう。
毎日、野菜は350g以上食べるようにし、きのこや海藻も毎食食べるようにしてください。
食物繊維は、糖質や脂質の吸収を遅らせる働きがありますので、脂肪肝と糖尿病に効果的です。

【アルコールは控える・禁酒する】
アルコールは、中性脂肪の合成を促進し、分解を抑制します。
つまり、脂肪肝が進みやすくなってしまうのです。
肝臓のためには禁酒をおすすめしますが、どうしてもお酒を楽しみたい時もあるもの。
そんな時は、ゆっくり少量ずつ飲んだり、日本酒なら1合までと節酒して飲んでください。

糖尿病では、糖質を制限する代わりに脂質やたんぱく質を増やして、満足度を上げる食事療法が有効とされています。
ですが、肝臓病を併発している場合は、脂質は抑え、たんぱく質も摂り過ぎは良くありません。とはいえ、先ほどの体重65kgの人を例にすると、牛赤身肉なら200g食べても1日摂取量の範囲内です。たんぱく質単体だけではなく、脂質の摂り過ぎにも注意が必要ですが、食事を楽しめる量ではないでしょうか。
よく食べる食品のたんぱく質や脂質、カロリーを把握し楽しみながら食事ができるよう、工夫していきましょう。

まとめ

2型糖尿病の方は、脂肪肝になりやすく糖尿病と合併していると肝硬変や肝臓がんのリスクは約4~5倍に高くなります。
もし、2型糖尿病を患った場合は、いかに脂肪肝にならないようにするかが大切です。
生活習慣や食生活を正しくし、日頃から体に良い生活ができているかを見直してみましょう。

糖尿病と熱の関係について前のページ

糖尿病研究の先駆け、日本糖尿病学会とは?次のページ

ピックアップ記事

  1. HbA1c【 ヘモグロビンA1c 】の数値を下げる実践的な方法とは
  2. 自己測定器での血糖値の測り方は意外と簡単です
  3. 1型糖尿病は遺伝するのか?1型糖尿病について詳しく調べてみた

関連記事

  1. テーマ:糖尿病

    糖尿病の症状としての指の状態に注意する

    糖尿病と指に関する基礎知識弊社の商品開発チームの医師監修Q. …

  2. テーマ:糖尿病

    若い人の糖尿病が急増中

    若い人の糖尿病に関する基礎知識弊社の商品開発チームの医師監修Q…

  3. メディア

    糖尿病と熱の関係について

    糖尿病と熱に関する基礎知識弊社の商品開発チームの医師監修Q. …

  4. テーマ:糖尿病

    糖尿病のメカニズムについて

    糖尿病のメカニズムに関する基礎知識弊社の商品開発チームの医師監修…

  5. メディア

    血糖値を下げるのに欠かせない運動を効率良く行うポイント

    血糖値を運動で下げる血糖値を下げるには運動が欠かせません。「血糖値…

  6. メディア

    糖尿病と動悸には深い関係があった

    糖尿病と動悸に関する基礎知識弊社の商品開発チームの医師監修Q.…

おすすめ記事

最近の記事

  1. ヘモグロビンA1cが7.2なのに急遽手術をしなくてはならない…
  2. 【医師監修】ドライマウス、歯周病、歯肉炎も糖尿病の合併症です…
  3. ヘモグロビンA1cとはいったい何のこと【 HBA1c】は【 …
  4. 糖尿病から狭心症を発症、心臓の手術後サプリメントと食事改善で…
  5. ヘモグロビンA1cを下げるには「食事終了後5分以内」の運動が…
  1. メディア

    多尿になると糖尿病?気になる症状と放置しておくことの危険性
  2. テーマ:糖尿病

    妊娠糖尿病についてよく分かるリスクや治療方法は?
  3. テーマ:糖尿病

    ヘモグロビンA1cを下げるには「食事終了後5分以内」の運動が効果的です
  4. メディア

    糖尿病と動脈硬化の関係性とは
  5. 特集ページ

    ヘモグロビンA1cとはいったい何のこと【 HBA1c】は【 糖尿病 】の重要な判…
PAGE TOP