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糖尿病とは?
糖尿病とは、すい臓の機能低下により、血糖値が正常値よりも高い状態が続き、場合によってはさまざまな合併症を引き起こしてしまう病気です。食生活の乱れや運動不足などの要因で、すい臓でつくられる「インスリン」というホルモンが正しく機能しなくなった結果として、血糖値が高くなっていきます。
1型と2型があり、それぞれ発症する条件などが異なりますが、発症後の症状はほぼ同じです。どういう違いがあるのか見ていきましょう。
糖尿病1型
糖尿病の1型と診断された人は、すい臓でまったくインスリンを作れないか、作れてもほんの少しだけの人です。環境・ウイルス感染など、何らかの要因でβ(ベータ)細胞が破壊されてゆき、インスリンを作り出すことができなくなっていきます。
子供や青年など、比較的若い人が発症する傾向が強くなっていますが、どの年齢でも発症が確認されています。ただ、1型の発症数は2型に比べて非常に少なく、糖尿病患者全体の1〜5%程度となっています。1型の糖尿病の症状は、2型と違い突然あらわれます。
糖尿病2型
糖尿病2型はすい臓でインスリンを作ることはできるものの、分泌量が正常な人よりも少なくなっている状態です。また、インスリンが分泌されていても、作用が正常でない場合も2型糖尿病になります。40歳以降の中高年から発症することがほとんどですが、生活習慣によっては若い人でも発症する可能性があります。
2型では、なったばかりの頃は自覚症状がほとんどなく、症状はゆっくりとあらわれてくるため、気づきにくいのが特徴です。
糖尿病になる原因
糖尿病になる原因は、はっきりとわかっているわけではありません。ただし、なりやすい人は以下のような特徴がありますので、当てはまっている人は気をつけなければなりません。
- 肥満体である
- 家族に糖尿病になっている人がいる(遺伝)
- 運動不足である
- 年齢が40歳を超えている
糖尿病の症状
糖尿病によって起こる症状には下記のようなものがあり、身体のあらゆる部位にあらわれます。太る場合とやせる場合がありますが、増えすぎた余分なブドウ糖を吸収することで太る場合と、うまく吸収できずにやせる場合があるということです。
- 疲れやすい
- 頻尿になる
- イライラしやすい
- EDなどの性障害になる
- ケガが治りにくくなる
- 視力が落ちる・目がかすみやすくなる
- 空腹になりやすい・のどが渇きやすい
- いくら食べても太らずやせていく
- 肌が乾燥しやすく、かゆくなる
上記のように、糖尿病になるとさまざまな症状があらわれます。当てはまる症状がいくつかあらわれたら糖尿病を疑いましょう。とはいえ、2型の場合は症状が自覚できるまで時間がかかります。自覚できる頃には、かなり進んでいたという場合も少なくありません。ここで紹介したのは、初期や中期であらわれるものです。では次に、糖尿病が進行していったときに起こる症状について、みていきましょう。
糖尿病が原因で起こる合併症
糖尿病は、コントロールしていれば、それ自体はそこまで危険なものではありません。糖尿病が恐ろしいのは、さまざまな合併症を引き起こすところです。糖尿病が原因で起こる合併症は、死亡に至るほどのものも多く、発症しないようにしっかり血糖コントロールを行う必要があるのです。
糖尿病には代表として「3大合併症」と呼ばれるものがあり、「腎症」「網膜症」「神経障害」がこれにあたります。これらは、高血糖により全身にはりめぐらされている神経や、細い血管に障害が出ることで発症します。
【腎症】
高血糖状態が続くと、腎臓に密集している細い血管が次第に詰まっていき、機能が低下していきます。本来腎臓は、血液をろ過して老廃物を排出し、きれいにする役割があります。ですから、その機能が低下した場合には、顕性タンパク尿・尿毒症などを引き起こしてしまうのです。
それがさらに進行すると腎不全となり、透析治療をする必要が出てきます。透析療法をしている人の約4割が、糖尿病腎症によるものとなっているのです。ですから、腎臓の異常をできるだけ早い段階で見つけるためにも、定期的な検査が必要になります。
【網膜症】
目の網膜には非常に細い血管が網目のようにはりめぐらされています。長い間高血糖の状態が続いていると、その血管が詰まり網膜へ血液が流れなくなります。初期や中期だけでなく、終期まで自覚症状がない場合もあり、自覚が出る頃には手遅れということもあります。
網膜症が進行していくと、視力の低下・飛蚊症・眼底出血などが起こり、ひどいと失明することもあります。糖尿病の網膜症は、視覚障害の原因疾患では2割ほどにもなり、成人後の失明原因の第1位にもなっている病気なのです。
【神経障害】
神経障害は、その名のとおり高血糖により神経がむしばまれていく合併症です。神経障害による症状は多く、下記のようなものがあります。
- 手足の痛み、しびれが左右同じ場所に起こる
- 血圧の調整ができず、起立性低血圧(立ちくらみ)を起こす
- 神経が麻痺して痛みに鈍感になる
- 胃腸の働きが悪くなり、便秘・下痢・胃の不快感などが起こる
- ED(勃起障害)になる
- 汗の量が多くなったり、まったくかかなかったりという異常が出る
- 尿意を感じなかったり、排尿に時間がかかる
進行していくと、手や足先の組織が壊れてしまう「壊疽(えそ)」になることもあります。できるだけ早期に発見し、根気よく治療を続けることで手足のしびれや痛みは治ります。上記のような自覚症状が出た場合は、早めに医師に相談しましょう。
合併症の種類は他にも、
- 高血糖昏睡、低血糖昏睡
- 感染症
- 心臓病
- 脳卒中
- 動脈硬化症
- 白内障、緑内障
など数多くあります。以上のことから、糖尿病はあなどれない恐ろしい病気だということが、わかっていただけるでしょう。ですが、合併症は血糖コントロールを行うことで予防できます。そのためにはできるだけ早い段階からの治療が必要です。
糖尿病が治らないと言われている理由
「糖尿病は一度なったら治らない」
よく言われる言葉です。ですが、この表現は正確ではありません。治らないと聞くと、一生病気のリスクに晒されて過ごさなければならないというイメージを持ってしまいます。ですが、実際はそんなことはないのです。
確かに完治するとは言えません。ですが、症状がほぼおさまった状態である「寛解(かんかい)」まで持っていくことは十分可能なのです。ではなぜ治らないと言われているのでしょうか?それは、そもそも治るという言い方が正確ではないのです。
糖尿病は一度血糖値が正常に戻っても、また高血糖になっていく可能性が高い病気です。そのような状態は治ったとは言えず、「一時的に改善した」という方が正しいでしょう。そのため完治はできませんが、血糖値を下げることで今までと同じように過ごすことができるのです。
ところで、血糖値が正常に戻ったのに、また高血糖になってしまうとはどういうことなのでしょうか?本当に完治するのは難しいのでしょうか?これについて解説していきましょう。糖尿病にはインスリンというホルモンが深く関わっています。まずはそのインスリンのはたらきについて紹介していきます。
血糖値を調整してくれるインスリン
人は食事をすることで、エネルギーをつくり出します。ものを食べると、それに含まれていたブドウ糖が血液に吸収されて、全身に運ばれエネルギーになるのです。血液内のブドウ糖のことを血糖といいますが、通常は血糖が増えすぎないようにうまく調整される仕組みになっています。そしてそれを調整しているのが、インスリンというホルモンです。
インスリンというホルモンは、すい臓のβ(ベータ)細胞によりつくられています。β細胞は血糖が増える(血糖値が高くなる)と、インスリンを分泌します。インスリンはブドウ糖を全身の臓器に送り、血糖値を正常に戻す働きをします。
そのようにして血糖値を適正な状態に保っているのです。ですが、インスリンの分泌量が少なかったり、まったくない状態だと、血糖値が高いままになってしまいます。このインスリンの減少・作用不足の状態が糖尿病ということになるのです。
自己免疫疾患や生活習慣が原因でβ(ベータ)細胞の機能が低下
では、インスリンが減少したり、作用不足になってしまう原因は一体なんなのでしょうか?通常インスリンはすい臓でつくられます。ですが、もともとの自己免疫疾患や、食べ過ぎ・運動不足・肥満などの生活習慣が原因で、β細胞が破壊されて機能が低下し、結果としてインスリンの量や働きが低下していきます。
破壊されたβ細胞は基本的には復活しませんし、何もしなければ増えることはありません。近年では、β細胞を増殖させる研究は進められており、治療薬も開発されています。ですが、まだまだ実用段階まで至っていないのが現状です。ですから、インスリンがまったくつくれない人、少量しかつくれない人は、注射などで投与してその量を保つしかないのです。
つまり、慢性的なインスリン作用の低下により、血糖値が改善してきても治療を続けなければならず、それが「糖尿病は治らない」と言われている理由なのです。
糖尿病の予防方法
糖尿病の原因は前述のとおり、はっきりとはわかっていません。そのため、明確な予防手段はありません。ですが、糖尿病になりにくくする方法はあります。
ほとんどの糖尿病患者がなる2型は、
- 食生活の乱れ
- 運動不足
- 肥満
- ストレス
が原因と考えられています。ですから、これらのことに気をつけて生活していれば、糖尿病は予防できると言えます。特に食事療法は効果的で、カロリーを取りすぎないようにすることで、インスリンを分泌しているすい臓の負担を減らすことができます。さらに、間食を控えてバランス良く栄養を取ることで、糖尿病の予防になるでしょう。
1型の場合は突然発症するため、予防をするのが難しくなりますが、定期的な健康診断などで早期の発見ができ、合併症を予防できます。
糖尿病の治療方法
治療方法は1型か2型かによって、違いがあります。基本的にはどちらも薬物療法になりますが、使われる薬の種類などが変わります。
糖尿病1型の治療方法
1型の場合は、基本的にインスリンの分泌量が不足しています。ですから、自分でつくれない分を薬により補う必要があります。海外では経口のものや経皮のものがありますが、日本では現在注射による投与しかありません。また、インスリンは通常食後に分泌されるものですので、できるだけそのサイクルと同じになるように、食前に注射しなくてはいけません。
入院しているのであれば別ですが、患者の日常生活に、医師や看護師が付きそうわけにはいきませんので、注射は自分で行う必要があります。自分の状態や使う薬によって、投与する量を変えたりする必要があり、気を使わなくてはなりませんので大変です。インスリン製剤には、以下のようにいくつかの種類があります。
持効型溶解インスリン製剤
この薬はおもに、インスリンの基本的な分泌を補うためにつくられています。そのため、丸1日の血糖値を下げてくれる役割があります。注射してから1〜2時間で効果が出ますが、注射のタイミングは状況を考えて決めます。1日効果が続くため、摂取のストレスが少なく、また体重が増えにくいという特徴があります。
ただし、食後の血糖値を下げる効果は低いため、改善が見込めない場合は他の薬と併用しなければならないこともあります。
混合型インスリン製剤
この薬は中間型など、数種類を混合してつくられている薬になります。これにより、インスリンの基本の分泌と追加分泌を、両方できるようになっています。効果があらわれる時間も各製剤の特徴が合わさっています。効果が持続する時間は、中間型とほとんど同じとなっています。
中間型インスリン製剤
この薬はインスリンの不足を改善し、空腹時に血糖値が上がるのを抑えます。朝食の食前か30分前に注射して、1〜3時間で効果があらわれます。効果持続時間は長く、ほぼ1日です。そのため、1日1回の注射で済みますが、場合によっては分けることもあります。
また、効果が出る時間を考えながら、食事をしたり注射の時間を決めなければならないというデメリットもあります。
速効型インスリン製剤
正常な人のインスリン分泌サイクルに近づけるようにつくられており、食事をした後に高血糖になるのを抑えることができます。食前30分前に使用し、注射後30分から1時間で効果があらわれます。時間を計算するのが難しい場合もありますので、生活する上で合わなければ別の薬に変えることもあります。
超速効型インスリン製剤
その名のとおり、注射してから効果が出るまで10〜20分という速さの薬です。食事の直前に注射するようになっていますので、注射する時間を気にする必要がなくストレスになりません。この薬は、速効型よりもさらに、限りなく正常な人のインスリン分泌サイクルに合わせることができるのが特徴です。
また、インスリンの作用が3〜5時間程度で短いため、低血糖状態を緩和することができます。ただしそのデメリットとして、インスリンを投与する量や頻度を、増やさなければならないということもあります。
糖尿病2型の治療方法
2型の人が使う薬は、おもに血糖値を低下させたり、インスリンの作用を改善する飲み薬です。さまざまな種類の薬があり、患者の症状に応じて処方されます。血糖値を正常な値にするために、処方はその人に合った、適切な量やタイミングに決定されます。
ですから、他の薬を飲むときよりも気をつけて、飲み忘れがないようにしなければなりません。具体的には下記のようなものがあります。
- 余分な糖を排出する薬(SGLT2阻害薬など)
- インスリンの分泌量を上げる薬(スルホニル尿素薬、速効型インスリン分泌促進薬など)
- インスリンの作用不足を改善する薬(インスリン抵抗性改善薬、ビグアナイド薬など)
- 食べ物の消化・吸収を遅らせる薬(α(アルファ)-グルコシダーゼ阻害薬など)
上記のような薬を摂取しても血糖のコントロールが難しい場合や、薬の摂取ができない妊婦には、1型のようにインスリン注射による治療が行われます。
まとめ
よく言われている、「糖尿病は治らない」という言い方は間違いではありませんが、正確ではありません。確かに現段階では、低下したインスリン作用を治すことはできません。しかし、決して改善できないというわけではなく、寛解は十分に可能で、健常者と同等の生活を送ることもできます。
そのためには、食生活や運動などの生活習慣を直し、規則正しい生活を送っていくことが大切です。糖尿病になっていない人も、普段からこれを心がけ、予防に努めましょう。