目次
糖尿病とブドウ糖に関する基礎知識
弊社の商品開発チームの医師監修
Q. 糖尿病は血糖値が高くなる病気なのに、なぜブドウ糖が必要なんですか?
A. インスリン注射や経口血糖降下薬などの「糖尿病薬物療法」を開始すると、薬の効き過ぎなどによって低血糖を起こすことがあります。その際に、ブドウ糖を摂取することで重篤な意識障害や昏睡状態を回避することができるため、ブドウ糖の携帯が推奨されているのです。
糖尿病とブドウ糖の関係
糖尿病は、膵臓から分泌されるインスリンと呼ばれるホルモンが減少したり、効きが悪くなったりしてしまうことで、血糖値が高くなる病気です。糖尿病の「糖」というのは、ブドウ糖のことを指します。
もちろん、糖尿病を発症していない健康な人の血液中にもブドウ糖が含まれており、脳や筋肉、内臓を動かしたり、さまざまな細胞のエネルギー源として使われたりしています。ブドウ糖は、私たち人間が生命を維持するためには欠かすことができません。
食事から炭水化物や糖質を摂取すると体内で消化・吸収され、ブドウ糖となって血液にのって必要な臓器に送られます。余ったブドウ糖は、肝臓に運ばれて「グリコーゲン」として蓄えられていきます。
健康的な人の場合には、血液中のブドウ糖濃度(血糖)を一定に保つ機能が備わっており、食事を摂取した後にはインスリンが分泌されて、血糖を正常値まで戻す働きがあります。
しかし、糖尿病になるとインスリン自体の量や効きが低下するため、血液中のブドウ糖量が多いままになってしまうのです。この状態を「高血糖」といいます。
血液中の過剰なブドウ糖は、血管壁や神経に大きなダメージを与えてさまざまな合併症を起こすといわれています。なかでも、糖尿病の三大合併症である「糖尿病網膜症」「糖尿病神経障害」「糖尿病腎症」は耳にしたことがある方も多いでしょう。
網膜症は失明の恐れがあり、神経障害は悪化すると下肢切断になる可能性もある恐ろしい病気です。腎症の場合には、悪化させると人工透析を受ける必要が出てくるため初期段階での適切な治療が運命を分けるともいわれています。
その他にも、血液中のブドウ糖が過剰に増えると、動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞などの命に関わる病気を引き起こすことも珍しくありません。
ブドウ糖は、本来私たちの身体を動かすために必要不可欠なエネルギー源です。しかし、糖尿病を発症すると「ブドウ糖濃度」を制御しきれなくなって高血糖が続き、あらゆる臓器に障害をもたらしてしまうのです。
糖尿病の確定診断で用いるブドウ糖負荷試験とは?
糖尿病は、ほとんど自覚症状がない病気といわれています。そのため、血液検査や尿検査などを実施して診断することが一般的です。
なかでも、「ブドウ糖負荷試験」は糖尿病の確定診断を行う際に欠かすことができない検査です。ブドウ糖負荷試験は、「OGTT」や「75g経口ブドウ糖負荷試験」とも呼ばれ、ごく初期の糖尿病(境界型)も発見できます。
ブドウ糖負荷試験の検査方法は、原則的に10時間絶食した後に行います。最初に採血をして空腹時血糖値を計測し、ブドウ糖75gを溶かした水を飲みます。これが「ブドウ糖負荷」です。飲んだ後は、30分、1時間、2時間経過時に再び採血を行って血糖値の推移を測定します。
空腹時血糖値が110mg/dL以下で、ブドウ糖負荷試験2時間後の血糖値が140mg/dLであれば「正常型」に分類され、糖尿病ではないと診断されます。
しかし、空腹時血糖値が126mg/dL以上、ブドウ糖負荷試験2時間後の血糖値が200mg/dL以上、ヘモグロビンA1cの値が6.5%以上のいずれかに当てはまる場合には、「糖尿病型」とみなされ、必要に応じて再検査が行われるでしょう。
ブドウ糖負荷試験の再検査を行っても、再び糖尿病型に分類された際には医師から正式に「あなたは糖尿病です」といった確定診断がされ、治療を開始することになります。
ちなみに、空腹時血糖値が110~126mg/dL、ブドウ糖負荷試験2時間後の血糖値が140~200mg/dLの範囲内であったときには、糖尿病の前段階である「境界型」の可能性が非常に高いです。
境界型糖尿病の患者さんは、早期に適切な食事療法や運動療法、薬物療法を開始することによって、糖尿病への進行を予防できるともいわれています。
糖尿病患者にブドウ糖携帯が推奨されている理由
糖尿病は、前述した通り「血糖値が高くなる病気」です。膵臓からのインスリン分泌が不十分であることや、インスリンの効きが悪くなりインスリン抵抗性が起きることで、血液中のブドウ糖濃度が異常に高くなります。
糖尿病の治療は、基本的に「良好な血糖コントロール」を目的として行われます。食事療法や運動療法をはじめ、患者さんに合った糖尿病薬を使用して、強制的に血糖値を下げてあげることも少なくありません。
しかし、インスリン注射や経口血糖降下薬の中には、薬が効きすぎて「低血糖」を起こす可能性が高くなる薬剤も存在します。低血糖は、文字通り「高血糖の逆」です。血液中のブドウ糖濃度が著しく低下し、吐き気やめまい、けいれん、意識障害や昏睡に陥ることもあるため注意が必要です。
糖尿病患者さんは、インスリン分泌機能や血糖値を正常に保つ機能がうまく働きません。低血糖発作は糖尿病治療と隣り合わせであるともいえるのです。
糖尿病治療中に低血糖の兆候が見られた場合には、すぐに血糖値を上昇させるために「ブドウ糖」を摂取しなければなりません。そのため、糖尿病患者さんはいつでも低血糖への対処ができるよう、ブドウ糖を携帯することが推奨されています。
低血糖の症状を自覚したら、10~15gのブドウ糖を摂取して安静にしてください。ほとんどの場合には、15分程度すると血液中のブドウ糖が増加して低血糖症状が落ち着いてくるのを実感できるでしょう。もしも、15分経過して回復しないときには再び同量のブドウ糖を摂取します。
低血糖時にブドウ糖を携帯していない場合、砂糖でも代用ができます。コーヒーや紅茶に使用するスティックシュガーや角砂糖でも構いません。
糖尿病患者さんの低血糖は、いつどんな場所で起こるか予測できません。日頃から適量のブドウ糖を携帯するようにしましょう。ドラッグストアや薬局では、タブレット型やスティック型など、さまざまなタイプのブドウ糖が販売されていますが、効果に大きな差はありません。患者さん自身が持ち歩きやすく、摂取しやすいタイプのブドウ糖を用意するようにしてください。
ブドウ糖が必須な糖尿病処方薬があるって本当?
糖尿病処方薬には、さまざまなアプローチで血糖値を下げる薬がありますが、薬の効き過ぎによる低血糖に注意すべきというお話をしてきました。低血糖症状が出てしまったときには、ブドウ糖や砂糖での糖分補給が必須です。
なかでも、グルコバイ、セイブル、ベイスンなどの「α-グルコシダーゼ阻害薬」を服用している患者さんは、必ずブドウ糖を携帯する必要があります。
α-グルコシダーゼ阻害薬は、食事で摂取した炭水化物や砂糖などの多糖類を、時間をかけてゆっくりと分解させることで急激な血糖値の上昇を防ぐ薬です。そのため、低血糖が起きた際に砂糖を摂取しても、ブドウ糖に変換されるまでかなりの時間を要します。
その間に低血糖症状が悪化して、意識障害や昏睡状態へと進行してしまうことも少なくありません。「糖分を摂取すれば良い」と大まかに捉えるのは危険です。
α-グルコシダーゼ阻害薬だけでは、低血糖を引き起こす可能性は低いといわれていますが、インスリン注射やSU薬(スルホニル尿素薬)を併用していると、低血糖発作を起こすリスクが高まります。
ブドウ糖は「日医工」や「ヨシダ」といった製薬会社でも製造されており、病院で処方してもらうことも可能です。また、最近では薬局やドラッグストアでも手軽に購入できるため、カバンやポーチ、ジャケットの内ポケットなどに忍ばせて、常に携帯しておくようにしてください。
糖尿病低血糖はブドウ糖のかわりにジュースで対応できる?
糖尿病患者さんが低血糖発作を起こした場合には、原則的にブドウ糖の摂取が必要です。しかし、手元にブドウ糖がないときには砂糖やブドウ糖が多く含まれたジュース(清涼飲料水)で対応することもできます。
ジュースで血糖値を上げるためには、150~200mlを飲みましょう。ただし、最近よく見かける「ダイエット飲料」や「ゼロカロリー飲料」では効果がありません。必ず、ブドウ糖が入っているジュースを選ぶようにしてください。
ブドウ糖が多く含まれているジュースは、コカ・コーラやファンタなどの炭酸飲料です。コンビニや自動販売機でもすぐに購入できるため、いざというときにも役立つでしょう。
コカ・コーラは、一般的な赤いラベルのものを選びましょう。黒のラベルは、人工甘味料で甘みをつけている「コカ・コーラゼロ」なので、低血糖の対処には使えません。
また、金色のラベルがついているコカ・コーラはノンカフェイン・ノンシュガーとなっており、こちらもブドウ糖補給としては使用できないため注意してください。
350ml缶1本あたりのブドウ糖含有量は、コカ・コーラは12.95g、ファンタグレープで20g、ファンタオレンジは18.9gです。糖尿病の低血糖発作時には、10~15gのブドウ糖摂取が好ましいとされていますが、ジュースのブドウ糖は吸収が早いため150~200ml程度で十分です。
しかし、低血糖を起こしているときには多くの人が気分の悪さを訴えます。200mlのジュースを一気に飲むことは、現実的に難しいかもしれません。
ましてや、コーラやファンタなどの炭酸飲料の場合には、健康な人でも1缶の半分近くをゴクゴク飲むことは容易ではないでしょう。
理論的には、ブドウ糖を含むジュースで代用できるといわれていますが、やはり普段からブドウ糖タブレットなどを携帯しておくべきです。
低血糖発作時に自分でブドウ糖を摂れない場合
糖尿病患者さんが低血糖発作を起こした際、意識障害が出ると自分ではブドウ糖を摂取するなどの対処ができなくなります。そのため、普段から家族やまわりの人たちに協力を求めておくことが大切です。
特に、糖尿病の治療でインスリンや血糖降下薬を服用することになった場合には、あらかじめ自分が低血糖になったときの対処法を伝えておくべきでしょう。
低血糖で意識障害を起こしているときには、コップ半分程度の水にブドウ糖10~15gを溶かしたものを飲ませてもらうようにしてください。または、ブドウ糖を歯茎や口の中に塗りつけてもらうのも効果的です。
これらの処置を行っても回復しない場合や、患者さん自身が自分で飲みこめないほどの昏睡状態に陥っているときには、あらかじめ医師から処方してもらった「グルカゴン」を1バイアル注射してもらいます。家族や職場など、いつも近くにいる人にはグルカゴン注射の方法を教えておきましょう。
グルカゴン注射をしてから5分程度経過しても回復しない場合は、緊急事態です。すぐに救急車を呼んでもらってください。
また、グルカゴンによって一時的に意識が回復しても、これは応急処置にすぎません。再び低血糖発作が起こる可能性も非常に高いため、早急に主治医へ連絡するか、近くの医療機関を受診することをおすすめします。
糖尿病なら薬局でブドウ糖が無料でもらえる?
数年前までは、糖尿病の通院をした際に調剤薬局で「ブドウ糖をください」とお願いすれば、無料でもらうことができていました。しかし、現在はほとんどの薬局でブドウ糖を無料でもらうことはできなくなっています。
「以前は当たり前のように無料で手に入ったのに、どうして変わったのか」「国が医療費節減のために制度を変えたのか」と戸惑った方も多いでしょう。
実は、薬局で無料配布していたブドウ糖は、α-グルコシダーゼ阻害薬を処方されている患者さんのために、製薬会社が無償提供していたものだったのです。しかし、メーカー側が大量に出荷していたため、薬局にはいつでも豊富なブドウ糖の在庫がある状態でした。
そこで、薬局側がこれらの大量在庫を処分するために「希望する患者さんには、ブドウ糖を無料でお渡しする」という独自ルールを作ったといいます。
しかし、「薬局ではブドウ糖が無料でもらえる」と知った糖尿病患者さんがどんどん増加してしまい、製薬会社が必要以上のブドウ糖を出荷する必要が出てきてしまったのです。
これではメーカーの商売が成り立たなくなるため、本来の目的である「α-グルコシダーゼ阻害薬を処方されている糖尿病患者さんにのみ、ブドウ糖を無償提供する」といったルールで統一されるようになりました。
現在では、α-グルコシダーゼ阻害薬以外の糖尿病治療薬を処方されている患者さんは、薬局でブドウ糖を無料で手に入れることはできないので注意してください。
糖尿病患者のブドウ糖摂取はラムネでもいいの?
前述した通り、糖尿病患者さんの低血糖対策としてブドウ糖は欠かすことができません。最近では、森永製菓が販売している「ラムネ」が忙しいビジネスマンに注目されているのをご存知でしょうか。このラムネ菓子は、90%がブドウ糖で作られています。そのため、脳や身体の疲れに効果的だと話題になっているのです。
森永製菓のラムネ菓子は、小さなお子様から大人まで40年以上も愛されている「緑のボトル」が特徴的な定番のおやつです。おそらく、誰もが目にしたことがあるでしょう。
通常のブドウ糖と異なり、スーパーやコンビニでも手軽に購入ができるのも嬉しい特徴です。
このラムネは90%がブドウ糖なので、もちろん糖尿病患者さんの低血糖時にも使えます。ただし、ラムネなら何でも良いというわけではありません。
森永製菓のラムネ以外は、ブドウ糖ではなく砂糖が主原料になっていることがほとんどなので注意してください。
原則的には通常のブドウ糖を持ち歩くように心がけるべきですが、「低血糖発作が出てしまったけれど、ブドウ糖がすぐ手に入らない」といった緊急事態には、森永製菓のラムネを代用するのもひとつの方法として覚えておくと良いでしょう。
まとめ
糖尿病になると、膵臓からのインスリン分泌が正常に行われなくなることや、インスリンの効きが悪くなることによって、血液中のブドウ糖濃度が高くなってしまいます。
そのため、糖尿病患者さんは高糖質の食品を避けたり、食後の血糖値が急上昇しないような食事療法や運動療法を実践したりしながら治療を行うのが一般的です。
しかし、インスリン注射や経口血糖降下薬などの糖尿病薬物療法を開始すると、薬の効き過ぎなどによって血中のブドウ糖が著しく低下してしまうことも珍しくないといいます。
低血糖は、薬物療法を行っている患者さんにとって他人事ではありません。
日頃からブドウ糖の携帯を心がけ、適切な処置を行えるようにしっかりと準備をしておきましょう。