目次
糖尿病と膀胱炎に関する基礎知識
弊社の商品開発チームの医師監修
Q. 糖尿病になると膀胱炎にもなりやすいのですか?
A. はい。糖尿病になると膀胱炎を含むさまざまな感染症にかかりやすくなります。
糖尿病と膀胱炎の違い
糖尿病と膀胱炎は全く別の病気です。しかし、共通の症状があること、どちらも尿検査がきっかけで病気が疑われること、糖尿病になると膀胱炎にもなりやすくなることなどから、二つの病気が似ていると思われることがあるようです。
以下、二つの病気を比べてみました。
初期の糖尿病 | 膀胱炎 | |
どのような病気か | インスリン※1が働かないために血液中の糖の割合が高くなる | 細菌やウイルスが膀胱内に侵入する |
病気の種類 | 代謝疾患 | 感染症 |
主な症状 | 頻尿、多尿、のどが渇く、尿が泡立つ | 頻尿、排尿時に痛み、残尿感、尿が濁る、発熱しない |
尿検査 | 尿から糖が出る※2 尿からタンパク質が出る 尿からケトン体※3が出る 尿pH4.7以下(酸性) |
尿から細菌が出る 尿に血液が混ざる 尿沈渣※4が陽性になる 尿pH7.6以上(アルカリ性) |
尿のにおい | 甘いにおい | アンモニア臭 |
主な合併症 | 膀胱炎、腎盂腎炎、風邪、水虫、歯周病 | 腎盂腎炎 |
治療方法 | インスリンの働きを良くする薬を飲む、インスリンを注射する | 抗生剤を飲む、水をたくさん飲んで尿を出す |
※1インスリンとは、細胞のエネルギーになる糖を血液から細胞に取り込むために必要なホルモンです。
※2糖尿病以外でも尿から糖が検出されることはあるため、尿から糖が検出されただけで糖尿病という訳ではありません。糖尿病の診断は、血液検査と症状によって行われます。
※3ケトン体は、エネルギーである糖が体の中で利用できなくなったときに脂肪が分解されて作られる物質です。糖尿病では、血液の中にはたくさんの糖がありますが、その糖をうまく利用できないために脂肪が使われ、ケトン体が増え、尿に排出されます。
※4尿沈渣とは、通常は尿には含まれない細胞(赤血球、白血球、上皮細胞)が尿の中にあるかどうかを調べる検査です。
このように、糖尿病と膀胱炎は全く別の病気ですが、糖尿病になると膀胱炎にもなりやすいため、病院では、糖尿病が見つかれば膀胱炎にはなっていないか、膀胱炎が見つかれば糖尿病が隠れていないかを確認することがあります。
なぜ、糖尿病になると膀胱炎になりやすいのか
糖尿病の患者は、膀胱炎を始めとしたさまざまな感染症にかかりやすいといわれています。なぜ、糖尿病の患者が感染症にかかりやすいのか、はっきりとしたことは分かっていませんが、糖尿病の患者は血行が悪くなりやすいことや高血糖である(血液に含まれる糖の割合が高い)ことによって、白血球など細菌をやっつける役割を持った細胞の正常な働きを邪魔してしまうためと考えられています。
また、糖尿病による神経障害では、自律神経も障害されるため、内臓の機能や血圧の調節がうまく利かなくなります。すると、膀胱が収縮する力が低下して膀胱内に尿が残る(残尿)ようになったり、そもそもおしっこがしたいという感覚(尿意)がなくなってしまったりします。さらに、血圧が低くなりすぎるとおしっこが出にくくなり、血圧が高すぎると腎臓に負担がかかることでおしっこを作る量が減ってしまい、尿意を感じにくくなります。
このように、糖尿病により自律神経が障害されると膀胱内におしっこが溜まる時間が長くなるため、細菌が繁殖しやすくなり、膀胱炎にかかりやすくなると考えられます。
特に長年、糖尿病を患っていて神経障害や腎障害などの重い合併症がある場合や人工透析をしている場合には、免疫力も低下している可能性が高く、より感染症にかかりやすいと考えられています。また、感染症にかかると重症化しやすいため、予防が何よりも大切です。
膀胱炎になりやすい人
糖尿病にかかっている人は膀胱炎になりやすいのですが、それ以外にも以下に当てはまる場合には、より膀胱炎になりやすいと考えられます。
- 風邪をひいているとき
- 女性(おしっこの出口と肛門が近いため)
- 前立腺肥大、尿路結石、尿路の腫瘍など泌尿器系の疾患がある高齢の男性
- 性活動が盛んな年齢の人
- 過労、睡眠不足など免疫力が落ちているとき
膀胱炎を放置すると・・・
膀胱炎の治療を行わないと腎盂腎炎などのより重篤な病気になったり、何度も膀胱炎を繰り返す慢性膀胱炎になったりします。
腎盂腎炎について
腎盂腎炎とは、大腸菌などがおしっこの出口から侵入し、膀胱のさらに先の腎臓にまで感染した状態です。この腎盂腎炎を繰り返すと腎臓の機能が落ちてしまいます。
腎盂腎炎になると、寒気を伴う高熱(39~40C)が出ます。また、感染している腎臓が炎症するため、腰の少し上を握りこぶしで軽くたたくと痛みがあります。ただし、糖尿病にかかっていると痛みを感じにくくなるため、痛みがないからといって油断はできません。また、高齢者の場合には、高熱が出ないこともありますので注意が必要です。
腎盂腎炎になっているにも関わらず治療をしないままにしておくと、最悪の場合には血液中に菌が回り(敗血症)、死に至ることもあります。特に糖尿病のような基礎疾患を持っている方は感染症にかかりやすく、治りにくいという特徴があるため、病院でしっかりと治療しましょう。
敗血症にまではいたらなくても、腎盂腎炎の治療が不十分ですと、慢性腎盂腎炎になることがあります。慢性腎盂腎炎になるとさらに治りにくくなり、腎臓やその周りに膿がたまったり、細菌が原因で尿路結石ができたりすることがあります。慢性腎盂腎炎になる前にしっかりと治療することが必要です。
慢性膀胱炎について
慢性膀胱炎とは、膀胱に菌が繁殖しているにも関わらず、おしっこの時に痛みを感じたり、おしっこが近くなったりといった膀胱炎の症状が出にくい病気です。『慢性』とは常に、長くという意味です。つまり、常に膀胱炎になっているにも関わらず、症状が出にくいために膀胱炎である事を自覚しにくいといえます。特に糖尿病にかかっている人は、もともと症状を感じにくいため注意が必要です。
症状が出にくいとはいえ、慢性膀胱炎の状態が悪くなった時には膀胱炎らしい症状が出ることがあります。ここで抗生剤などの治療薬を飲むといったんは膀胱炎の症状が治まるのですが、しばらくすると、また膀胱炎の症状が出ます。このように、何度も膀胱炎を繰り返す(実際には、常に膀胱炎なのに症状を自覚できるのが時々なので、繰り返しているように感じる)場合には、慢性膀胱炎を疑う必要があります。
慢性膀胱炎では、単に抗生剤を飲むだけでは良くならないことが多いといわれています。その理由の一つは、通常の膀胱炎と慢性膀胱炎では、原因となる菌が違うためです。もう一つの理由は、慢性膀胱炎が糖尿病や尿路結石など他の病気によって膀胱内におしっこが残ってしまうことが原因と考えられているからです。膀胱にたまったおしっこをすべて出し切ることができなければ、いつまでも膀胱内に菌が居続けることになり、完治させることが難しくなります。このため、慢性膀胱炎では、それぞれの原因に合った治療方法を継続することが必要です。
予防方法~ 糖尿病の人が膀胱炎にならないために
糖尿病の人が膀胱炎にならないために最も重要なことは、血糖値のコントロールです。なぜなら、血糖値が高くなると、白血球などの免疫に関わる細胞の働きが悪くなり、膀胱炎などの感染症にかかりやすくなってしまうためです。このため、自分の血糖値を把握し、目標とする血糖値におさまるよう自己管理することが大切です。
また、膀胱炎にかかりやすいときは、免疫力が落ちている可能性があるため、風邪もひきやすいと考えられます。自分の体調をよく観察し、風邪っぽいような場合には無理をしないなど、体調の変化に早く気がつき、対応することが膀胱炎の予防にもつながります。
これらに加えて、膀胱炎そのものの予防対策をすることが有効です。
膀胱炎の予防対策
- 水分を多くとり、おしっこの量を増やす
- おしっこを我慢しない
- 過労、冷えに注意する
- 排便後は前から後ろへ一方向に拭く
- 温水洗浄トイレを利用し、陰部を清潔に保つ
- 生理用ナプキンや下着を清潔に保つ
- 性交渉の後はおしっこをする
- 便秘を防ぐ
治療方法~ 糖尿病の人が膀胱炎になってしまったら
血糖コントロールの重要性
糖尿病の人が膀胱炎になってしまった場合にも、やはり最も大切なことは血糖値のコントロールです。なぜなら、血糖値のコントロールがうまくいかないことで膀胱炎などの感染症にかかりやすく、治りにくくなるだけでなく、膀胱炎などの感染症にかかると血糖値が乱れやすくなるため、糖尿病も悪くなってしまい、悪循環になるからです。このため、糖尿病の人が膀胱炎になってしまった場合には、糖尿病の治療(血糖値のコントロール)と膀胱炎の治療を同時に行うことが必要です。
膀胱炎になったときの糖尿病コントロール
糖尿病の方が感染症などで体調を崩したときのことを『シックデイ』といいます。シックデイでは、いつも以上に血糖値のコントロールに気をつけないと、糖尿病が悪化してしまいます。
シックデイの一般的な対処方法は以下のとおりです。ただし、個別に注意が必要なこともありますので、医師に相談することをおすすめします。
- インスリンを注射している場合には、たとえ食事ができなくても注射を続ける
- 血糖または尿糖を毎食前と就寝前に自分で調べる
- 尿中からケトン体が検出された場合には、医師に連絡する
- 1日に1.5~2.0Lの水分を取る(水、お茶、スポーツドリンク、ジュースなど何でもよい)
- 吐き気がある場合には、少しずつ頻繁に水分を取る
- 吐き気がない場合には、おかゆ、おじや、うどんなど消化に良いものを食べる
- 安静にする
膀胱炎に対する検査と治療
上記の方法で血糖値をコントロールしつつ、膀胱炎の治療を行います。膀胱炎の検査と治療は、糖尿病を持っていない方と同じ方法で行われます。
病院で行われる検査は、尿検査です。紙コップに中間尿(おしっこの出はじめを捨ててから取った尿)を取り、その尿を顕微鏡で観察し、白血球や細菌の数を調べます。この検査で多くの白血球や細菌が見つかれば、膀胱炎と診断されます。
また、顕微鏡で見つかった菌がどのような種類の菌かを特定するために尿を培養します。さらに、特定された細菌にどのような薬が効くかを調べる検査も行われます。
このようにして膀胱炎の原因となっている菌が分かれば、その菌によく効く抗生剤を使って治療します。通常、抗生剤は飲み薬が出されます。
抗生剤を2~3日飲むと症状はよくなりますが、ここで薬を飲むのをやめてしまうと、完全に膀胱から菌がいなくなる前に薬をやめてしまうことになるため、膀胱炎が治りにくくなったり、再発したりすることがあります。抗生剤は医師から出された分を飲み切るようにしましょう。
また、尿の培養検査には時間がかかるため、検査結果が出る前に、多くの菌に効く抗生剤が出されることもあります。もし、出された抗生剤で効く菌ではなかった場合には抗生剤が変わることもありますので、医師の指示に従いましょう。
また、抗生剤を飲み切って症状がよくなっても、膀胱内の細菌が完全にいなくなったとは限りません。抗生剤を飲み終わったら、もう一度、病院で尿検査をし、完全に治っていることを確認すると安心です。
糖尿病の人がかかりやすい感染症
糖尿病になるとかかりやすい感染症にはどのようなものがあるのでしょうか。膀胱炎の他、以下のような感染症になるリスクがあります。
感染症の種類 | 代表的な病気 | どのような病気か |
尿路感染症 | 膀胱炎、腎盂腎炎 | 陰部から尿道を通って細菌が体内に入る |
呼吸器感染症 | 風邪、肺炎 | ウイルスや細菌が口から入って感染する |
胆道感染症 | 胆のう炎、胆管炎 | 小腸から大腸菌などが胆道に感染する |
皮膚の感染症 | 水虫、白癬、蜂窩織炎、カンジタ症 | 皮膚に菌が繁殖する |
口腔内の感染症 | 歯周病 | 細菌が歯茎に感染する |
猫の糖尿病と膀胱炎
猫は糖尿病になりやすい?
猫猫の糖尿病は人間の2型糖尿病と似ているといわれ、食べ過ぎや運動不足などの影響が大きいと考えられています。しかし、多くの猫はペットフードを食べており、自由に活動できる環境で飼われているため、人間に比べれば食事は管理され、運動も不足しにくいはずなのに、なぜか糖尿病になりやすい動物です。残念ながら、現段階でははっきりとした猫の糖尿病の原因は分かっていませんが、肥満が糖尿病のリスクを上げることは間違いないため、食事と運動不足には注意が必要です。
猫は膀胱炎にもなりやすい?
猫がかかりやすい病気の上位にランキングされるのが膀胱炎です。猫は砂漠に生息していたため、あまり水を飲みません。このため、おしっこが濃縮しやすく、膀胱炎になりやすいと考えられています。
また、猫はストレスにも弱いため、ペットホテルや引っ越しなど環境の変化によっておしっこが出にくくなることがあります。さらに、猫はきれい好きであるため、トイレが汚れているとおしっこを我慢してしまうこともあります。このような環境により、おしっこが膀胱内にたまっている時間が長くなると膀胱炎になりやすくなります。
糖尿病の猫は、さらに膀胱炎になりやすい?
膀胱炎は感染症であるため、糖尿病の猫では糖尿病ではない猫に比べて、さらに膀胱炎になりやすいと考えられます。猫も人間も糖尿病の場合には、膀胱炎にならないよう注意が必要です。
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まとめ
糖尿病の人は、膀胱炎を始めとした感染症にかかりやすいといわれています。
膀胱炎は、しっかり治さないと腎盂腎炎のようなより重篤な病気になったり、何度も膀胱炎を繰り返す慢性膀胱炎になったりしてしまいます。
特に糖尿病の人では、血糖値のコントロールが悪いと膀胱炎にかかりやすく、膀胱炎にかかることで、さらに血糖値のコントロールがしにくくなるという悪循環に陥ることがあります。このため、普段から血糖値のコントロールと膀胱炎の予防対策をすることが最も大切です。
万が一、糖尿病の人が膀胱炎になってしまったら、血糖値のコントロールと膀胱炎の治療を同時に行う必要があります。医療機関では、糖尿病のシックデイへの対処と膀胱炎に対する抗生剤で治療します。しかし、抗生剤を使いたくない場合や抗生剤で治療を受けたにも関わらず、何度も膀胱炎を繰り返してしまう場合には、サプリメントを利用して自分で治すこともできますので、試してみてはいかがでしょうか。