目次
糖尿病と朝食に関する基礎知識
弊社の商品開発チームの医師監修
Q. 糖尿病の人が朝食抜きにするとどんなデメリットがありますか?
A. 朝食を抜くと、インスリン分泌が正常に行われなくなり、昼食・夕食後の血糖値が上昇しやすくなります。また、肥満や脂質異常症、動脈硬化、心筋梗塞などのリスクも高まるといわれているため注意が必要です。
糖尿病と朝食の関係とは
糖尿病で食事療法を行っている患者さんは、基本的に1日3食を規則正しく食べることが推奨されています。しかし、本やネットなどにはさまざまな情報が溢れており、「朝食を抜いたら肥満が解消されて糖尿病がよくなった」「糖尿病でカロリーコントロールをするなら朝食を抜くと簡単」などといった、真偽がわからない話も目にすることがあるかもしれません。
糖尿病を治療している患者さんはもちろんのこと、糖尿病を発症していない健康な方でも、朝食はしっかりと食べるべきです。同じカロリーや量の食事を摂取しても、食べる時間帯によってエネルギー代謝に与える影響は異なります。代謝が活発に行われるのは、朝食時です。
ペンシルベニア大学で行われた研究では、朝食を抜く頻度が高い人の場合、糖尿病や肥満のリスクが高まるといった報告もされているほどです。また、朝食を抜いて「夜型」の食生活を続けていると、体重が増加しやすくなり、血糖や脂質の代謝に悪影響を及ぼすといいます。
糖尿病の人は、朝食で多くのエネルギーを摂取することを心がけましょう。昼食は平均的な量を摂り、夕食は少な目に調整するとインスリンの必要量が減るため、良好な血糖コントロールにつながるといわれています。
パンや白米などの炭水化物(糖質)は、糖尿病の血糖コントロールを乱しやすい高GI食品のひとつですが、夕食で摂取するのと朝食で食べるのとでは、グルコース反応がまったく異なるのです。
また、朝食を適切に食べることは、糖尿病合併症である動脈硬化、心筋梗塞、脂質異常症などの病気の予防にもつながります。実際に、朝食を抜く習慣がある人では、心筋梗塞、狭心症などのリスクが高まることが判明しています。
さらに、韓国で実施された研究では、朝食を食べない人は「脂質異常症」の発症リスクが1.42倍にも上昇すると報告されているのです。
脂質異常症は、糖尿病患者さんの肥満や動脈硬化をはじめ、心筋梗塞や脳梗塞といった命に関わる病気の発症にも大きく関わっています。糖尿病を治療している人はあらゆる合併症に注意が必要です。少しでもリスクを低下させるためにも、健康的な朝食をしっかりと摂るように心がけましょう。
糖尿病の人が朝食抜きにすると血糖値に影響するのはなぜ?
前述した通り、糖尿病治療中の患者さんは、朝食抜きの食生活によって血糖コントロールが乱れる恐れがあるため注意が必要です。朝食を抜いて昼食まで空腹でいると、昼食のみならず夕食後の血糖値も上昇しやすくなるという研究結果が発表されています。
では、朝食を抜くとなぜ血糖コントロールが悪くなるのでしょうか。
本来であれば、インスリンを分泌する膵臓のβ細胞は「食事を摂取したら血糖値を下げるべき」という機能を持っています。しかし、朝食を抜くなどして空腹時間が長くなることによって、インスリンを分泌する機能を一時的に忘れてしまうのです。
そのため、朝食を抜いた後の昼食や夕食時には、β細胞がインスリンを分泌する働きを思い出すまでに時間がかかり、結果として血糖値の上昇を招くといいます。
さらに、グルコース代謝の低下、血中の遊離脂肪酸の増加により、インスリンの働きが悪くなることも大きく関わっていると考えられています。
仕事や家事などで「朝は忙しくて食事をゆっくりとっている時間がない」「朝食を用意するくらいなら、少しでも多く寝ていたい」といった人も多いでしょう。しかし、朝食は「1日のうちでもっとも大切な食事」といわれています。
朝食を食べない習慣が続くと、膵臓のβ細胞にも大きなダメージを与えてしまい、糖尿病患者さんの食後高血糖を悪化させることも少なくありません。
朝食の準備がどうしても負担に感じる場合には、前日の夕飯をアレンジしたレシピや調理法がおすすめです。寝る前にある程度用意しておいて、朝はレンジで温めるだけの食事なら、忙しい人でも継続しやすいでしょう。
自分に合った工夫をしながら、「朝食はしっかり食べる」といった習慣をつけるようにしてください。
朝食抜きで摂取カロリーを減らしても糖尿病は改善しない
糖尿病の食事療法では、肥満や内臓脂肪の蓄積を予防するためにも1日あたりの摂取カロリーをしっかり守る必要があります。しかし、昼食や夕食を外で食べる習慣がある人は、トータルのカロリー摂取量をオーバーしがちです。
「1日3食を摂っていると体重がなかなか減らない」といった理由から、朝食を抜いてカロリーコントロールをしようとする患者さんも多いでしょう。
ところが、朝食抜きで摂取カロリーを減らしても糖尿病は改善しません。前述した通り、朝食を食べないことによってインスリン分泌機能が低下したり、膵臓のβ細胞にダメージが与えられたりする恐れがあるため、逆に糖尿病を悪化させてしまうのです。
さらに、朝食を抜くと体内の代謝機能がスムーズに働かなくなり、脂肪燃焼やカロリー消費の効率が悪くなることも明らかとなっています。これにより、昼食や夕食で摂取したカロリーや脂質を溜め込みやすい体質になってしまい、肥満や内臓脂肪を助長させる結果になるというのです。
これは、日本の名古屋大学で行われた研究で発表されたもので、朝食を抜くと肝臓の「時計遺伝子」や脂質代謝や体温のリズムに異常が起こり、肥満や内臓脂肪、心疾患をはじめ、糖尿病自体を悪化させることが判明したといいます。
昼食や夕食の摂取カロリーが多いからといって、朝食を抜いてカロリーコントロールをしても「糖尿病や内臓脂肪が改善されるわけではない」ということを、糖尿病患者さんはしっかりと覚えておきましょう。
朝食は、肝臓の時計遺伝子をはじめとする「体内リズム」を正常化する効果もあります。毎朝の食事を規則正しく食べることで代謝のリズムも整い、高血糖、肥満、メタボリックシンドローム、心疾患などの予防にもつながるため、軽視してはいけません。
特に、「いつも夕食が遅い時間だから朝は食べない」「夕食に高カロリーのものを食べたから、朝食を抜いて調整する」といった患者さんの場合には、食生活以外にも糖尿病を悪化させる要因を数多く持っている可能性が否定できません。
飲酒・喫煙習慣、運動不足、睡眠不足、仕事や人間関係におけるストレスの蓄積などは、血糖コントロールを乱す原因のひとつになります。
肥満や内臓脂肪を改善することはもちろんですが、重篤な糖尿病合併症を予防するためにも、心にある程度の余裕を持ちながら、規則正しく朝食をとる習慣を心がけるようにしましょう。
また、夕食から就寝までには、最低でも2時間以上の間隔をあけることが推奨されています。夜遅くに帰宅して、食べたらすぐに寝るといったような生活習慣は、夜間血糖値にも悪い影響を与えてしまうため注意してください。
朝食に牛乳を飲むと糖尿病患者の血糖値が下がる?
牛乳は、動物性たんぱく質を手軽に摂れる食品(飲料)として、小さなお子様からお年寄りまで親しまれていますが、糖尿病患者さんの血糖コントロールにも役立つといった研究結果が明らかとなっています。
特に、朝食時に牛乳を飲むと、1日を通して良好な血糖コントロールが行えるといいます。
この研究は、カナダのトロント大学とゲルフ大学が共同で行ったもので、科学誌「Journal of Dairy Science」にも掲載されました。朝食時に牛乳を飲むグループと、水を飲むグループに分けて調査され、牛乳を飲んだグループでは食後血糖値の上昇がおさえられたといいます。
これは、牛乳に含まれるたんぱく質の一種「カゼイン」と「乳清タンパク(ホエイプロテイン)」が、炭水化物の吸収を遅らせるためです。
さらに、ホエイプロテインには膵臓からのインスリン分泌を刺激する「GLP-1」と呼ばれる消化管ホルモンの産生を高める効果があることもわかっているため、朝食時には牛乳を積極的に飲むべきでしょう。
また、牛乳を飲むと朝食時だけでなく昼食、夕食後の血糖値上昇も抑制します。これは、「セカンドミール効果」と呼ばれており、1日の最初の食事(ファーストミール)で食物繊維やたんぱく質を多く含む食品を摂取すると、2回目の食事(セカンドミール)を摂った後の血糖値にも影響を及ぼす現象です。
セカンドミール効果は、血糖値の上昇予防だけでなく、食欲を抑える効果も期待されています。糖尿病を治療している人は血糖コントロールのみならず、食べ過ぎによる肥満や内臓脂肪の蓄積にも注意しなければなりません。
朝食にコップ1杯の牛乳を加えることで、良好な血糖コントロールと肥満改善を目指してください。
糖尿病治療中の朝食におすすめのパン
糖尿病を治療中の患者さんは、炭水化物(糖質)の摂取量に注意すべきです。しかし、「朝食は手軽にパンで済ませたい」と考えている方も多いでしょう。
そんな人には、食物繊維を多く含んだ全粒粉入りパン、小麦ふすまパン、ライ麦パンなどがおすすめです。
食物繊維は、糖質の吸収を穏やかにする作用があり、食後血糖値の急激な上昇をおさえることで知られています。一般的な食パンでは、精製された小麦粉が使用されているため、100gあたりの食物繊維量が2.3g程度ですが、全粒粉入りパンでは7.4g、小麦ふすまパンでは4g、ライ麦パンでは5.6gも含まれているのです。
最近では「糖質オフ」として販売されているパンも増えてきました。パン専門店はもちろんのこと、通常のスーパーでも手軽に購入することができるため、糖尿病患者さんの朝食にもぜひ活用してみてください。
また、朝食時のパンには、マーガリンやジャム、はちみつを塗って食べている人も少なくないでしょう。しかし、マーガリンにはトランス脂肪酸が多く含まれており、悪玉LDLコレステロールを増加させたり、善玉HDLコレステロールを減少させたりするといわれています。これにより、動脈硬化や心筋梗塞、脳血管障害などが起こりやすくなるため、糖尿病患者さんはできるだけ控えた方がよいでしょう。
果物を砂糖で煮て作られるジャムには、多くの糖質が含まれおり食後血糖値を上昇させやすくなります。さらに、一見健康に良さそうなイメージがある「はちみつ」も、糖質がすみやかに吸収される性質があるため、注意が必要です。
糖尿病患者さんが朝食でパンを食べる際には、ピーナッツバターが最適です。ピーナッツバターに含まれている「マグネシウム」が、膵臓から分泌されるインスリンの作用を高めて食後血糖値の急上昇を抑制してくれるといわれています。
ピーナッツバターを選ぶ際には、砂糖不使用でピーナッツ含有率が90%以上のものが良いでしょう。
糖尿病の朝食でバナナを食べるのは良いの?悪いの?
糖尿病の治療をしていると、糖質が多く含まれている食品はできるだけ避けるべきとされています。しかし、手軽にエネルギー補給ができる「バナナ」を朝食で摂るのはよいのか、それとも悪いのか気になっている方も多いでしょう。
バナナは確かに糖質が高い果物です。しかし、バナナ1本の糖質は21.4gで、白米をお茶碗1杯(150g)の糖質量55.2gと比較すると半分以下しかありません。
また、ビタミンB群、ビタミンC、カリウム、マグネシウムなどのミネラル、食物繊維を豊富に含んでおり、非常に栄養価が高い食品です。
カリウムは血糖値を下げる効果があるとされ、マグネシウムは膵臓のインスリン分泌を促す働きがあります。そのため、バナナは糖尿病患者さんの朝食に適しているといえるでしょう。甘味もあるため、満足感を得られやすいのも嬉しいポイントです。
ただし、身体に良いからといって何本も食べてしまうとカロリーオーバーになってしまいます。手軽に食べられる分、食べ過ぎには注意が必要です。糖尿病治療を行っている人の場合、バナナは1日1本までが適量とされています。
糖尿病の簡単朝食レシピや献立の探し方
糖尿病の食事療法を行っていると、「毎日の献立を考えるのが面倒」「できるだけ簡単な朝食レシピを知りたい」と感じる方も多いでしょう。
そんな方には、日本最大の料理レシピサイトである「クックパッド」がおすすめです。クックパッドの検索窓に、「糖尿病 朝食」と打ち込んで検索するだけで、低糖質、糖質制限、糖質オフのレシピや献立が356種類もヒットします。
もちろん、冷蔵庫にある食材から検索することも可能です。例えば、豆腐を使った朝食を作りたい場合には「糖尿病 朝食 豆腐」と入力すれば、さまざまな献立例をチェックすることができます。もちろん、朝食メニューにこだわらず「簡単糖質制限食」などでも、役立つレシピがたくさん見つかるでしょう。
また、糖尿病の教育入院を実施している医療機関の「病院食」を参考にするのも良いでしょう。病院によっては、朝食、昼食、夕食の献立をレシピつきで公開してくれているところもあります。医師や栄養士が監修のもと、入院患者さんに出している献立なので、安心して参考にできるはずです。
コンビニ朝食でも糖尿病の血糖値管理はできるのか?
自宅で朝食を摂らず、通学や出勤前にコンビニで朝食を購入している方も少なくないでしょう。
一昔前までは、「コンビニ食は健康に悪い」「栄養が偏っている」といわれてきました。しかし、最近のコンビニ弁当やおかず、サラダ、サンドイッチなどは、バリエーションが豊富なので、選び方によっては糖尿病治療中の患者さんでもバランスの良い食事療法を継続することができます。
ただし、コンビニ食の定番ともいえる「おにぎり」や「菓子パン」などは、炭水化物量とカロリーが非常に多いので避けてください。
野菜サラダ、たまごサンド、プレーンヨーグルト、豆乳の組み合わせはバランスよく栄養素を摂取できるためおすすめです。お弁当を選ぶ場合には、パッケージに表示されたカロリーをチェックして、できるだけ多数のおかずが入っているものをチョイスしましょう。
野菜不足や果物不足をジュースで補おうとする方も多いですが、フルーツジュースや野菜ジュースには多くの糖質が含まれています。特に、濃縮100%フルーツジュースは糖の吸収が早いため、血糖値を急激に上昇させる恐れがあります。
野菜不足を解消したい場合にはサラダを選び、果物を摂りたい場合にはカットフルーツなどをプラスするようにしてください。
まとめ
糖尿病を治療している患者さんに限らず、私たち人間が健康的な生活を送るためには、毎日の朝食がとても大切な役割を果たしてくれます。
朝食は、体内時計や代謝機能の調整をはじめ、脂質異常症、心筋梗塞、動脈硬化などの糖尿病合併症を予防する効果もあるといわれているため、欠かすことができません。
忙しくて余裕がなくなってしまうこともあるかもしれませんが、できるだけ毎日適切な朝食を摂り、良好な血糖コントロールを保ちながら健やかな日々を過ごしていきましょう。