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糖尿病網膜剥離が発症する理由と手術について

糖尿病と網膜剥離に関する基礎知識

弊社の商品開発チームの医師監修
Q. 糖尿病になると網膜剥離で失明するって本当ですか?
A. 糖尿病合併症のひとつである「糖尿病網膜症」を悪化させると、網膜剥離になる恐れが高まります。しかし、早期発見・早期治療を行えば失明を予防することも可能です。定期的な眼科検診を受けるようにしましょう。

この記事の監修ドクター
自然療法医 ヴェロニカ・スコッツ先生
アメリカ、カナダ、ブラジルの3カ国で認定された国際免許を取得している自然療法専門医。
スコッツ先生のプロフィール
https://gluco-help.com/media/lose-weight-diabetes27/

糖尿病網膜剥離とは

糖尿病を治療している患者さんが恐れる合併症のひとつとして、糖尿病網膜症があります。血糖コントロールが悪いと、動脈硬化や細い血管にトラブルが起きる「細小血管症」などの合併症が現れてきますが、そのまま血糖コントロールを改善しないと目の血管にも同様の血管障害が起こります。これが網膜症です。

糖尿病の網膜剥離は突然起こるものではなく、この網膜症が悪化したときに「さらなる合併症」として発生することがほとんどです。

網膜剥離は、眼球の内側にある「網膜」と呼ばれる膜が剥がれて、視力が低下していく病気です。最悪の場合には、失明してしまうことも少なくありません。
しかし、早期発見・治療を行えば、糖尿病網膜症からの網膜剥離発症、失明を食い止めることも十分に可能です。
糖尿病網膜症と網膜剥離についての正しい知識を身につけて、定期的な眼科健診を受けるように心がけましょう。

糖尿病網膜剥離を発症する理由は何?

糖尿病患者さんに網膜剥離が発症する理由は、前述した通り「糖尿病網膜症」の進行にあります。高血糖によって糖尿病網膜症が悪化すると、網膜にある細小血管(毛細血管)が徐々にもろくなっていきます。
この状態で適切な治療や血糖コントロールを行わないでいると、もろくなった毛細血管が詰まってしまい、酸素が行き届かなくなってしまうのです。そこで、不足した酸素を別の方法で補うために、網膜から硝子体にむかって「新生血管」と呼ばれる特殊な血管が増殖して伸びてきます。

これは「増殖網膜症」といい、糖尿病網膜症がかなり進行した状態です。新生血管は非常に破れやすいため、ちょっとした拍子に損傷して硝子体出血を起こしたり、新生血管付近に繊維状の膜ができてしまったりします。それが網膜を引っ張って裂け目(網膜裂孔)を作ることで、網膜剥離が起こるといわれているのです。

網膜は、カメラのフィルムに似た働きをしており、目の中に入ってきた光情報を脳へ伝達し、視覚として認識させます。しかし、網膜剥離によって眼底から網膜が剥がれてくると、色や光を正常に感じることができなくなってしまいます。
網膜の中心部である黄斑部分まで剥がれた場合には、急激な視力低下や失明に至ることも珍しくありません。

糖尿病で網膜剥離を起こす際にはどんな症状がある?

糖尿病治療中の人が網膜剥離を起こすときには、まず糖尿病網膜症の発症があります。しかし、網膜症の初期段階ではわかりやすい自覚症状がありません。
糖尿病網膜症は、糖尿病と診断されてから約10年程度で発症することが多いといわれており、眼科での定期的な検査が必要です。
しっかりと検査を受けている患者さんでは早期発見から治療を開始できますが、「特に異変がないから大丈夫だろう」と油断していると、自覚症状が出た頃には手遅れになっていることも珍しくありません。

網膜剥離の前段階として、網膜症がある程度進行すると「飛蚊症」と呼ばれる症状が出てきます。これは、視界の中に小さな蚊が飛んでいるように見えるものです。さらに、眼底出血が起きてしまった場合には、煙のモヤがかかったようになったり、黒いカーテンがかかったような見え方になったりすることもあります。

しかし、この段階で網膜剥離の予防・治療を適切に行えば、まだ間に合います。「失明したらどうしよう」「怖いことをいわれたらどうしよう」と、眼科へ行くのを躊躇してしまう患者さんは非常に多いものですが、失明してから後悔しても二度と視力が戻ることはありません。少しでも「おかしいな」と感じることがあれば、必ず医師の診察と眼底精密検査を受けるようにしてください。

また、眼底出血や網膜剥離、網膜裂孔が起きた際には、強い痛みを感じるイメージがありますが、実際にはほとんど痛みを感じないといいます。そのため、患者さんが自分自身に起こっている「緊急事態」に気付くのが遅くなりがちなのです。

網膜症の進行や、網膜剥離が起きているときには多くの人に「視力低下」の自覚症状が出ます。老眼や近視、乱視などがある患者さんは、視力の低下に対しての危機感が薄い傾向がありますが、糖尿病と診断されている場合にはそのまま放置していると失明の恐れもあるため、絶対に軽視してはいけません。

糖尿病網膜剥離になると失明は免れない?

糖尿病の三大合併症には、下肢切断の恐れがある「神経障害」、人工透析を開始する必要が出てくる「腎症」、そして最悪の場合には失明する「網膜症」があります。
どの合併症も、糖尿病患者さんにとっては恐ろしいものです。特に、糖尿病網膜症から網膜剥離を起こして失明する人は毎年多く存在します。

糖尿病治療を行っている人のうち、糖尿病網膜症や網膜剥離を発症して失明、もしくはその恐れがあるとされている患者さんは20%程度だといわれており、決して少ない数字ではありません。5人に1人は、その危険性があるという計算です。
ただし、糖尿病になったからといって必ずしも失明するわけでなく、網膜症や網膜剥離が現れても早期治療をスタートすれば、その進行を抑えることも可能です。
「網膜症になったら失明する」「網膜剥離を起こしたら視力を失う」と思っている患者さんも少なくありませんが、早めに発見できれば打つ手はたくさんあります。

それでも、糖尿病による目の病気で失明する患者さんはゼロになりません。この大きな理由は、発見が遅れることだといわれています。
前述した通り、糖尿病網膜症や網膜剥離の初期段階ではほとんど自覚症状がありません。そのため、視力低下や視界異常、飛蚊症などの症状が出た頃には、もう手遅れになっているケースも少なくないのです。

糖尿病になると、血糖値やヘモグロビンA1cの数値には敏感になる人が多いですが、目の健康についてはおろそかにしてしまう患者さんが結構います。「内科への通院をしているから大丈夫」と油断せず、定期的に眼科へ通う習慣をつけましょう。

また、眼科にかかる際には、糖尿病治療の経験が豊富な先生や病院を選ぶようにしてください。看板に「眼科」と書いてあっても、糖尿病の治療に詳しい医師と、そうでない医師が存在します。
万が一、糖尿病網膜症や網膜剥離が発見された場合には、適切な治療を行ってもらえるかどうかで、その後の病状が大きく左右されるのも事実です。
近所の眼科を受診する際には、ホームページなどで診療内容をしっかりと確認しておくと良いでしょう。糖尿病網膜症の治療やレーザー手術を得意としている眼科では、糖尿病専用ページが設けられていることがほとんどです。

糖尿病の網膜剥離は手術で治るの?

糖尿病で網膜剥離になった場合は、その進行具合によって「レーザー光凝固法」または「硝子体手術」と呼ばれるオペで治療を行います。
ただし、一旦低下してしまった視力は、手術を行っても元には戻りません。そのため、網膜剥離を完治させるのではなく、「これ以上の進行を防ぐための予防手術」と位置付けられているのです。
視力回復が目的ではなく、失明を食い止めることが一番の狙いだといえるでしょう。

網膜剥離が末期になる前であれば、「レーザー光凝固法」が用いられます。
これは、糖尿病網膜症によって発生した新生血管を焼きつぶすことで眼底出血を予防したり、新生血管が新たに作られたりしないよう処置するものです。また、網膜にできた裂け目をレーザー光によって焼きつけ、網膜とその周辺にある組織をくっつける効果があります。
一度できた裂け目を放置していると、そこから網膜の剥離がどんどん進行してしまうため、レーザー光凝固法による手術は、網膜剥離の悪化予防には非常に有効なのです。

また、網膜剥離がかなり進行した状態で見つかった場合には、硝子体手術が行われます。
新生血管から流れ出た血液を除去し、出血箇所を特定して凝固しながら、剥がれた網膜を元に戻す手術ですが、非常に難しいことで知られています。
網膜剥離がここまで悪化していると、硝子体手術を施しても再び進行する恐れもあり、大幅な視力低下や、失明に至る可能性も否定できません。

もちろん、硝子体手術を行う際には、網膜剥離の再発を予防するためのレーザー処置も同時に施しますが、相当進行している状態だと手術自体の成功率も60%以下となってしまいます。
早期治療の場合は、術後の視力も0.5前後をキープできるといわれていますが、重度の網膜剥離を起こしている患者さんでは、0.1以下になってしまう確率が高まり、「日常生活をギリギリ行える程度」にとどまるといわれているのです。

糖尿病網膜症から「網膜剥離」を起こしたときには、少しでも早い段階で治療を行うことが大切です。繰り返しになりますが、網膜症や網膜剥離の初期では大きな自覚症状がありません。
糖尿病と診断されたら、定期的な精密眼底検査を受けるように心がけましょう。

糖尿病網膜剥離の手術後はすぐに社会復帰できる?

糖尿病網膜剥離の手術を受けた後は、激しい運動や目の酷使を控えるように心がけ、安静に過ごしましょう。レーザー光凝固法での手術を受けた患者さんは、入院の必要はなく日帰りが可能です。
硝子体手術などの場合には、状態や経過によって異なりますが約10日間前後の入院を要します。術後にもすぐに社会復帰できるわけではありません。そのため、仕事をしている人は長期休暇をとる必要があります。

網膜剥離の手術後には、眼球自体を動かしても大きな影響はないとされていますが、網膜や眼底の状態がしっかりと落ち着くまでには1~3か月程度が必要です。
管理職や事務など、デスク・パソコン作業が中心の方は術後1か月経過すれば仕事に復帰できます。ただし、車の運転や体力勝負の仕事をされている場合には、術後2か月程度経過しなければ復帰できません。

術後には普段の生活のなかでも、車の運転や重いものを持ち上げたり運んだりすることは避けてください。糖尿病の治療を行っている患者さんは、運動療法のために筋力トレーニングを取り入れている方も多いかもしれませんが、網膜剥離の手術後には軽いウォーキング程度にとどめておきましょう。

網膜剥離の術後は、散瞳した状態が続きます。散瞳とは、目の瞳孔が開いた状態のままになることです。そのため、通常の光でもまぶしく感じたり、ピントを合わせにくくなって近くと遠くを交互に見ることが困難となったりするケースがあります。
また、レーザー手術をすることによって、これまでと見え方が変わる場合もあるので、事故や怪我などには十分注意しながら通常の生活に戻るようにしてください。

糖尿病網膜剥離の進行を防ぐ薬が開発されたって本当?

糖尿病患者さんが網膜症を悪化させて「網膜剥離」を起こしてしまった場合には、前述した「レーザー光凝固法」や「硝子体手術」によって進行を食い止める必要があります。薬物療法では進行抑制効果が見込めず、外科手術を行わなければならなかったのです。

しかし近年、群馬大学の研究チームが、網膜剥離を進行させている「真犯人」をつき止めることに世界で初めて成功しました。そして、「TRPV4阻害薬」という薬を用いれば、網膜剥離の悪化を止められることがわかったのです。
ただし、この「TRPV4阻害薬」は研究・実験段階なので、実際の医療ではまだ使用されていません。

群馬大学大学院医学系研究科の柴崎貢志准教授と、同研究科眼科学分野の松本英孝講師の研究チームによると、網膜剥離を悪化させている原因は「ミュラーグリア」と呼ばれる細胞にあるといいます。

ミュラーグリア細胞は、網膜内に溜まった老廃物の排出作用や、栄養の運搬に関わっており、決して悪い細胞ではありません。
しかし、糖尿病や高血糖が引き金となって「網膜剥離」を発症すると、ミュラーグリア細胞に備わっている「TRPV4」というセンサーが誤作動を起こして暴走しはじめるのです。
すると、ミュラーグリア細胞が膨張し「マクロファージ」と呼ばれる炎症性細胞を網膜付近へ集めてしまいます。
集まったマクロファージは、視細胞を次々と破壊して網膜剥離を進行させるといいます。

このため、ミュラーグリア細胞のTRPV4センサーの暴走を阻害することができれば、網膜剥離の悪化・進行を止められると判明したのです。
実際、網膜剥離の手術を待っている間にも、患者さんの視力はどんどん低下していきます。TRPV阻害薬が医療現場で使われるようになれば、糖尿病網膜剥離で失明する人も減少するに違いありません。近い将来、新薬として登場することを期待します。

糖尿病網膜剥離の予防方法

糖尿病網膜剥離を予防するためには、まず「糖尿病網膜症」の発症を防ぐ必要があります。前述した通り、糖尿病網膜症の初期段階では、わかりやすい自覚症状がありません。
「特に異常を感じないから」「視界に問題が起きていないから」と油断していると、気付いたときには網膜症や網膜剥離が進行し、手遅れの状態になっていることも珍しくないのです。
そのため、糖尿病と診断された患者さんは、定期的な眼科検診を受けるようにしてください。眼底精密検査を行わない限り、初期の網膜症や網膜剥離は見つけられないということを、しっかりと覚えておきましょう。

また、食事療法や運動療法による「良好な血糖コントロール」は、糖尿病網膜症・網膜剥離の予防に直結します。バランスの良い食生活を心がけ、適度な運動を取り入れながら、肥満や内臓脂肪にも注意しましょう。
糖尿病網膜症を悪化させる要因として、肥満からくる高血圧や脂質異常症などが関わっていることも実際に指摘されています。

まとめ

糖尿病患者さんが失明する原因には、糖尿病網膜症や網膜剥離があげられますが、これらの合併症は患者さん自身の生活習慣を見直せば、予防できるといわれています。
また、早期発見・早期治療によって、失明を免れることも十分可能です。

糖尿病の網膜剥離は、「ある日突然失明する」というものではりません。視力低下を引き起こす前にも、いくつかの段階を経ています。
初期の網膜症や網膜剥離には自覚症状がほとんどありませんが、眼科で精密検査を受ければきちんと見つけることができる病気です。糖尿病治療の通院と同時に、定期的な眼科検診も心がけましょう。

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