テーマ:糖尿病

インスリン注射は糖尿病末期の治療法か?

糖尿病とインスリン注射に関する基礎知識

弊社の商品開発チームの医師監修
Q. インスリン注射は糖尿病末期の治療法ですか?
A. いいえ、そうではありません。インスリン注射を早い段階で始めることで、多くのメリットを得られます。

インスリンとは?

人間の体は血液中のブドウ糖をエネルギーにして動いています。ブドウ糖は、ごはんやパン、イモ類などの炭水化物やお菓子などの糖分に含まれています。私たちの脳や筋肉、内臓が動いて生命が維持できるのも、食事からとったブドウ糖が血液中に溶け込んで全身に運ばれ、エネルギーとして働いているからなのです。

インスリンとは血糖値を下げる働きのある唯一のホルモンで、膵臓のランゲルハンス島という組織にあるβ細胞で作られます。食事によって血糖値が上がるとすぐに膵臓から分泌されます。インスリンの働きにより血糖は細胞内にとり込まれます。とり込まれた血糖はエネルギーとして利用されたり、たくわえられたり、またはタンパク質の合成、細胞の増殖を促します。

またインスリンの分泌には、食後の血糖値の上昇に反応して一時的に分泌 される「追加分泌」と、1日中一定の割合で少しずつ分泌される「基礎分泌」の2つがあり、インスリンが増加した血糖を速やかに処理することで、血糖値は一定に保たれているのです。

 

【インスリンの役割】

  • ブドウ糖(血糖)を全身の臓器細胞にとり込ませる
  • エネルギーが切れないように、ブドウ糖を貯蔵することのできる物質「グリコーゲン」に変えて肝臓や筋肉に貯蔵する
  • 貯蔵されたグリコーゲンが分解されるのを抑制する
  • 肝臓で貯蔵されず余ったブドウ糖を中性脂肪として脂肪細胞の中へ取り込む

インスリンの量が少なかったり、働きが悪くなったりすると血糖値の高い状態が続きます。これが、いわゆる糖尿病です。血糖値が高いまま放っておくと、しだいに全身の血管が傷つけられ、さまざまな障害をもたらします。
そのため、自分の膵臓から必要なインスリンを十分に出せない場合は、インスリン注射薬で外から補う必要があります。

インスリン注射薬の種類

インスリン注射で使用されるインスリン製剤は、インスリンそのものを外から補う注射薬です。インスリン製剤は、その作用に応じて大きく6つの種類に分けられます。

インスリン製剤の種類 注射のタイミング 補うインスリン分泌の種類 効果発現時間 作用持続時間 特徴
超速効型インスリン製剤 食事の直前 追加分泌 10~20分 3~5時間 注射後すぐに効き始め、作用は最短
速効型インスリン製剤 食事の約30分前 追加分泌 30分~1時間 5~8時間 注射後30分程で効き始め、超速効型と比べゆっくりと作用
中間型インスリン製剤 食事に関わらず1日のうちに決めた時間 基礎分泌 30分~3時間 18~24時間 注射後ゆっくりと効き始め、ほぼ1日中効果が持続
持効型溶解インスリン製剤 食事に関わらず1日のうちに決めた時間 基礎分泌 1~2時間 ほぼ1日 中間型よりも長く作用し、ほぼ1日中効果が持続
混合型インスリン製剤 指定された食事の前(直前もしくは30分前) 追加分泌
基礎分泌
追加分泌
10分~1時間
基礎分泌 30分~3時間
追加分泌
3~8時間
基礎分泌
18~24時間
超速効型/速効型と中間型インスリン製剤の混合製剤
配合溶解インスリン製剤 指定された食事の直前 追加分泌
基礎分泌
追加分泌
10~20分
基礎分泌 1~2時間
追加分泌
3~5時間
基礎分泌 ほぼ1日
超速効型と持効型溶解インスリン製剤の配合製剤

 

インスリン注射が必要な人とは?

血糖値は常に一定の割合でインスリンが分泌される基礎分泌と、食後の血糖上昇などに対して一時的に分泌される追加分泌によってコントロールされています。1型糖尿病の場合はどちらのインスリン分泌もなくなってしまうため、インスリン注射が必須となります。

2型糖尿病では、食事・運動療法や飲み薬での血糖値コントロールがうまくいかない場合、膵臓の負担を軽くし、残っているインスリン分泌力を長く保つためにインスリン注射による血糖値コントロールが行われます。

インスリン注射は絶対に必要な場合と行った方が望ましい場合とに分けられます。

【インスリン注射が必ず必要な場合】

  • インスリンの分泌がほとんどなく、生きていくためにインスリンの補充が必須となる場合
    (1型糖尿病)
  • 高血糖が理由で昏睡状態になっているとき(糖尿病ケトアシドーシス、高浸透圧高血糖症候群、乳酸アシドーシス)
  • 重度の肝臓障害、腎臓障害を合併しているとき
  • 重度の感染症や外傷がある、中等度以上の外科手術を行うとき
  • 糖尿病合併妊婦、また妊娠糖尿病の方で食事療法だけでは血糖コントロールが不十分な場合

【インスリン注射が望ましい場合】

  • インスリンが十分に出ず、血糖値を良い範囲に保つために、インスリンが必要となる場合
  • 経口薬だけでは血糖を良い範囲にコントロールすることが難しいとき
  • やせ型で栄養状態が低下している場合
  • 糖尿病以外の病気で、血糖値が上がる治療薬を使用している場合
  • 緩徐進行1型糖尿病の場合

インスリン療法の種類

インスリン療法におけるインスリン製剤の投与方法は患者さんの年齢、血糖コントロールの目標値、インスリンの分泌機能、さらに、インスリン療法への理解、ライフスタイルなどを総合的に加味して、最も適した投与方法が決定されます。

強化インスリン療法

【強化インスリン療法】
インスリン注射が必要と判断された場合にまず選択される治療法です。医師によりあらかじめ決められた投与量の範囲内で運動量、食事内容に応じてインスリン量を調整しながら血糖コントロールを図ります。
血糖自己測定を用いた血糖管理と自己注射が必要になります。また、低血糖になった際の対応方法を知り、実際に実行できることが重要です。
強化インスリン療法を用いて健康な人のインスリン分泌を再現することで、インスリンを分泌する働きの回復や、さらなる分泌機能の低下を予防することができます。
強化インスリン療法には、インスリン頻回注射と持続皮下インスリン注入(CSII)療法があります。

インスリン頻回注射

インスリン基礎分泌を中間型もしくは持効型溶解インスリン製剤を用いて1日1~2回、インスリン追加分泌を超速効型もしくは速効型インスリン製剤を用いて1日3回、計1日3~5回注射する方法です。原則として1日4回注射を打ち、あわせて1日1~7回程度の血糖自己測定も行います。
強化インスリン療法では、基本的にインスリン頻回注射が選択されます。

持続皮下インスリン注入療法(CSII:シーエスアイアイ)

持続皮下インスリン注入療法(CSII)は体の外に携帯型インスリン注入ポンプを取り付けて、腹部の皮下に留置した針・チューブから超速効型または速効型インスリンを持続的に注入する治療法です。
一般的にインスリン頻回注射では血糖コントロールが難しい場合や、低血糖が多い場合、血糖コントロールをよりよくしたい場合、あるいは生活の自由度を高めたい場合などに
有効とされます。特に小児・思春期の1型糖尿病、手術や妊娠中などで厳格な血糖コントロールが必要な方などが対象となります。

その他のインスリン療法

▪2型糖尿病など、インスリンの基礎分泌がある程度保たれ食後の血糖値が高い方
→食前に速効型や超速効型インスリンのみを用いる場合がある。

▪経口薬のみで血糖コントロールが難しい方
→基礎分泌を持効型や中間型で補い、追加分泌には経口薬(SU薬)を用いる場合もある。

▪頻回の注射が難しい、強化インスリン療法が使えない方
→混合型または中間型インスリンのみを用いる場合がある。

このように、個々の糖尿病の状態とライフスタイルに応じ、さまざまな注射方法が用いられます。

インスリン注射の方法

インスリン注射器にはあらかじめインスリン製剤が装着されているプレフィルドタイプや、カートリッジタイプ、バイアルタイプがあり、個々の用途に合った注射器を使用します。
技術の進歩により最近では、痛みも少なくとても簡単に注射できるようになっています。

射部位としてはお尻・おなか・上腕・太ももの外側が適していますが、自己注射ではおなかや太ももが注射しやすいでしょう。注射部位によってインスリンの吸収のスピードは変わってくるため注射部位は変えず、針をさす場所を毎回2~3cmほどずらしていきます。同じ場所に注射し続けると皮膚が硬くなり、インスリンがうまく吸収されなくなるためです。
吸収のスピードは、おなか→上腕→お尻→太ももの順となります。
原則として、今日はお尻とおなか、明日は腕といったように注射部位を毎回変えることはしません。

また、以下の3点を覚えておきましょう。

  1. 使用するインスリン製剤の名前
  2. 使用するインスリンの種類(超速効型・速効型・中間型・時効型・混合型など)
  3. 注射回数と注射時刻

1日の血糖値をコントロールするため、注射するインスリンの単位や回数は人さまざまであり、その人の血糖値の変動にあわせて治療計画が立てられます。そのため、インスリン療法において、自己注射をする場合は血糖値を測定し、自分の血糖値の動きを把握しておくことが有効です。現在、簡易型の血糖値測定器により自宅で簡単に血糖値を測定することができます。

インスリン治療を行っている人において、血糖値の自己測定は保険適応となっており、血糖値測定に必要な機械や電極・針の費用なども含まれています。自分で血糖値測定を行い、日常の血糖値の変動の特徴を知ることで、より良い血糖コントロールが可能となります。

インスリン製剤の選択をはじめ、一人ひとりにあった自己注射の方法を主治医や看護師が指導してくれるので、わからないことがあれば遠慮なく相談してみましょう。

インスリン注射と余命

インスリン注射=糖尿病が重症で先が短い、インスリン注射=一生ものでやめられない、などといった認識を持っている方が多くいらっしゃいますが、実はこれらは全く誤った認識です。
昔の糖尿病の治療では、病気がかなり進行してからインスリン注射を行っていたので、そういう治療を見てきた人たちは、「インスリン注射を始めたらあと数年で目が見えなくなり、やがて人工透析になってしまう」といったイメージがあるのかもしれません。

また、「インスリン注射を始めると、自分の膵臓が怠けて、インスリンを作らなくなり、癖になるのでやらない方がいい」と思われている方もいらっしゃいます。
しかしインスリンは、膵臓が血糖値を感知して、膵臓の細胞が血糖値に応じて出しています。つまりインスリン注射を打つということは、自分の膵臓を休ませるということを意味します。休ませてあげることで、自分の膵臓のインスリンは残るのです。

2型糖尿病で、食後血糖値が350mg/dl以上、空腹時血糖値が250mg/dl以上くらいの血糖値であれば、インスリン注射から始めた方が早く血糖値も下がり、インスリンもやめることができます。
適切な時期にインスリン注射を始めることで、血糖コントロールが改善し、膵臓も疲労状態から回復し、徐々にインスリンの分泌量が増えてきます。自分のインスリン分泌が回復し、インスリン注射をやめる方も多くいます。

つまり、インスリン注射を始めるということは「余命が少なく」、「やめられない」といった「糖尿病末期の治療法」ではなく、適切な血糖コントロールをより長く実現し、合併症を予防するための1つの治療法にすぎないのです。

膵臓の機能回復、より良い血糖コントロール、合併症の予防のためにも早めのインスリン治療が効果的です。

インスリン注射の費用

糖尿病治療は患者さんの症状や生活タイルに応じて、その内容はさまざまです。そのため治療にかかる費用も、薬の種類や量・インスリン注射の種類や回数・通院する医療機関や通院回数・合併症の状況や程度などによって大きくことなります。
ここでは主に、一般的な治療法におけるインスリン注射にかかる費用をみていきます。

ケースA: 受診と経口薬(1日1種類)+インスリン注射(1日4回)+血糖自己測定(月60回以上)

ケースB:受診と経口薬(1日1種類)+GLP-1受容体作動薬(1日1回)+血糖自己測定(月60回以上)

ケースC:受診と経口薬(1日1種類)+インスリン注射(1日4回)+GLP-1受容体作動薬(1日1回)血糖自己測定(月60回以上)

ケースD:持続皮下インスリン注射(CSII)+血糖測定(月120回以上)

【診察】

内訳 ケースA ケースB ケースC ケースD
外来診療料 730 730 730 730
在宅自己注射指導管理料 7,500
(月28回以上)
7,500
(月28回以上)
7,500
(月28回以上)
12,300
(複雑な場合)
血糖自己測定器加算 8,300
(月60回以上)
8,300
(月60回以上)
8,300
(月60回以上)
14,900
(月120回以上)
間歇(かんけつ)注入シリンジポンプ加算 25,000
(プログラム付きシリンジポンプ)
処方箋料 680 680 680 680
検査料など 5,790 5,790 5,790 5,790
合計(10割) 23,000 23,000 23,000 23,000
合計(3割負担) 6,900 6,900 6,900 17,820

【薬】

内訳 ケースA ケースB ケースC ケースD
調剤基本料1 410 410 410 410
服薬情報等提供料2 200 200 200 200
内服薬調剤料 780 780 780
注射薬調剤料 260 260 260 260
薬剤服用歴管理指導料1 410 410 410
薬剤料 ケースA ケースB ケースC ケースD
ジャヌビア50mg
1錠/日 30日分
3,800
アマリールOD錠0.5mg
1錠/日 30日分
300
メトグルコ錠250mg
6錠/日 30日分
1780
ビクトーザ皮下注18mg 3ml 20,490(2キット) 10,240(1キット)
ヒューマログ注ミリオンペン 300単位 2,940(2本)
トレシーバ注フレックスタッチ 300単位 5,000(2本)
ランタス注ソロスター
300単位
3,870(2本)
ヒューマログ注 100単位/ml(10mlバイアル)
ナノスパニードルⅡ 2,520(2箱) 1,260(1箱) 2,520(2箱) 5,840

(2瓶)

合計(10割) 16,400 24,110 20,470 6,710
合計(3割負担) 4,920 7,230 6,140 2,010
診察料+薬代 ケースA ケースB ケースC ケースD
月額合計(10割) 39,400円 11,820円 43,470円 66,110円
月額合計(3割負担) 11,820円 14,130円 13,040円 19,830円

これらはあくまでも例であり、患者さんの治療内容により費用は千差万別です。
基本的に飲み薬だけの場合は比較的安価で済みますが、インスリン注射を始めると薬代(インスリン製剤)や在宅自己注射指導管理料が算定されます。また、自己血糖測定を開始した場合は血糖自己測定指導加算なども算定されます。
さらにインスリンポンプを使用する場合は、自己注射管理指導管理料に加え、機械の貸与や使用する消耗品に対する費用としてシリンジポンプ加算・自己血糖測定器加算が算定され、治療費用は増加します。

一般的に症状が進行するほど、治療内容も複雑になり薬代も増加する傾向にあります。早い段階で治療を始め、糖尿病の進行を防ぐことが費用を抑える最も有効な手段といえるでしょう。

まとめ

インスリンとは血糖値を下げる働きのある唯一のホルモンで、インスリンの働きにより血糖は細胞内にとり込まれます。とり込まれた血糖はエネルギーとして利用されたり、たくわえられたり、またはタンパク質の合成、細胞の増殖を促します。

糖尿病とはこのインスリンの量が少なかったり、働きが悪くなり血糖値の高い状態が続いたりしていることをいいます。血糖値が高いまま放っておくと、しだいに全身の血管を傷つけ、さまざまな障害、いわゆる合併症をもたらします。そのため、自分の膵臓から必要なインスリンを十分に出せない場合は、インスリン注射薬で外から補う必要があります。

インスリン療法は健康な人のインスリン分泌パターンを再現することを理想とし、「足りないインスリン量を、足りない時間帯に、的確に補充する」必要があります。患者さん一人ひとりの血糖とインスリン分泌の状態にあわせて1、2種類のインスリンを1日1~4回注射し、血糖コントロールの良い状態を作っていきます。患者さんの症状や生活スタイルに応じて、インスリン療法の内容はことなるため、かかる費用もそれに応じて変わってきます。

インスリン注射は糖尿病末期の治療法で一生続けなければならないというイメージを持たれがちですが、全くそうではありません。膵臓にダメージが少ない早い段階でインスリン注射を始めることで、血糖値がすぐに改善したり、飲み薬を減らしたりすることができるなどの多くのメリットがあります。また、膵臓の機能が回復しやすいため、インスリン注射をやめることも十分可能です。

膵臓の機能が低下する前にできるだけ早くインスリン治療を開始して、合併症の予防、より良い血糖コントロールをめざしましょう。

この記事の監修ドクター
自然療法医 ヴェロニカ・スコッツ先生
アメリカ、カナダ、ブラジルの3カ国で認定された国際免許を取得している自然療法専門医。
スコッツ先生のプロフィール
https://gluco-help.com/media/lose-weight-diabetes27/

 

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