目次
糖尿病ときのこに関する基礎知識
弊社の商品開発チームの医師監修
Q. 糖尿病にきのこが良いのはなぜですか?
A. きのこは糖の吸収を穏やかにする食物繊維が豊富で、低糖質、低カロリー、インスリン分泌活性効果があるからです。
きのこと糖尿病の関係性とは
糖尿病で食事療法を行う場合、その大きな目的は良好な血糖コントロールを実現することです。糖尿病では、膵臓からのインスリン分泌がスムーズに行われなくなるため、血糖値を正常値まで下げることができなくなります。
また、インスリン抵抗性によって「肝臓」や「筋肉」が上手くブドウ糖を吸収できなくなり、血糖値が高い状態が続いてしまうのです。
食後の急激な血糖値上昇を予防するためには、食物繊維が豊富な食事を摂取することが大切だといわれています。
食物繊維が多く含まれる食品には、野菜、海藻をはじめ「きのこ類」があげられます。
なかでも、きのこは低糖質・低カロリー・高食物繊維の食べ物なので、糖尿病の食事療法においても重要なポジションを確立しているのです。
主なきのこの糖質量(100gあたり)は、まいたけ・ブナピーが2.7g、しめじが3.0g、エリンギは3.8gとなっており、かなり糖質が少ないのがわかるでしょう。
さらに、きのこには脂質や糖質の代謝を促進してくれる「ビタミンB群」が豊富なため、糖尿病患者の脂肪蓄積を防止し、肥満予防にも効果的です。
また、きのこから抽出される物質には、インスリンの分泌を活性化する成分が含まれていることも明らかになっています。特に、ぶなしめじ、ブナピー、ヤマブタケ、アガリクスでは高いインスリン分泌活性効果が認められました。
きのこは、糖の吸収を穏やかにする食物繊維が豊富、糖質が低い、低カロリー、ビタミンB群が多く含まれる、インスリン分泌活性効果があるといった理由から、糖尿病治療の食事療法では積極的に摂取することが推奨されているのです。
きのこが糖尿病患者のインスリン分泌を促進する?
前述した通り、きのこから抽出された成分には強力なインスリン分泌促進活性作用があることが発表されています。
これは、きのこ生産量・売上ともに、日本国内でトップクラスの実績をもつ「ホクト株式会社」の研究によるもので、特にブナシメジ、ヤマブシタケ、アガリクスなどにおいて高い効果を認めたといいます。
糖尿病になるとインスリン分泌が上手く機能しなくなってしまうため、血糖値が下がりにくくなります。そのため、糖尿病患者の場合には「経口血糖降下薬」や「インスリン注射」などの薬物療法を用いて、強制的に血糖値を下げる必要があるのです。
一般的な食品では、食物繊維などに糖の吸収を穏やかにする作用はあるものの、直接インスリン分泌を促す成分が含有されたものは、存在しないとされてきました。
しかし、ホクト株式会社の発表によって「きのこ」のインスリン分泌促進作用が明らかとなり、糖尿病食事療法においても積極的に取り入れる患者さんが急増する事態となったのです。
だからといって、きのこだけで糖尿病を治療できると勘違いしてはいけません。
適切な食事療法と運動療法、そして必要に応じた薬物療法を同時に行いながら、日々の血糖コントロールに励む必要があります。
糖尿病患者でもキノコ類ならたくさん食べても大丈夫?
食物繊維が豊富で低糖質・低カロリー、そしてインスリン分泌促進作用まであるというキノコ類は糖尿病患者の心強い味方です。お腹いっぱいになるまで食べても、カロリーオーバーをしたり、糖質の過剰摂取につながる心配はほとんどありません。
しかし、キノコに含まれている食物繊維は、食べ過ぎるとお腹の調子を乱してしまうことがあるので注意しましょう。
キノコ類には、「水溶性食物繊維」と「不溶性食物繊維」と呼ばれる2種類の食物繊維が含まれています。
水溶性食物繊維は、腸内でゲル状になって糖の吸収を抑えたり、余分なコレステロールの排出を促す働きがあるため、糖尿病患者にとっては魅力的な成分のひとつでしょう。
不溶性食物繊維には、腸を刺激して「ぜん動運動」を促進しながら、腸内に蓄積した老廃物を排出する作用があります。
適度に摂取している分には全く問題ないのですが、これらの食物繊維を多く摂り過ぎてしまうと、腸の動きが活発になりすぎて、下痢を起こすことも少なくありません。
また、お腹がデリケートな方の場合には、水溶性食物繊維が変化した「ゲル状の物質」が腸内細菌のバランスを崩し、腹痛が出ることもあるため気をつけましょう。
逆に、不溶性食物繊維が腸内の水分を吸収することによって、便秘になってしまうケースも珍しくありません。特に、日頃から便秘体質の女性は注意が必要です。
便秘を予防するには、きのこを食べる際に多めの水分を一緒に摂取するのがおすすめです。
このように、きのこを食べ過ぎると下痢や便秘などの症状が出ることもありますが、糖尿病治療をしている方には積極的に食べて欲しい食品のひとつです。
日本糖尿病学会が発表している「食物繊維の1日あたりの摂取目安量」は、20~25gとなっています。しめじの食物繊維量は1パックで3.3g、しいたけは1個で0.5g程度なので、よほど偏った食事をしない限りは、過剰摂取を心配する必要はないでしょう。
えのき氷が糖尿病に効くって本当?
えのきは、年中お手頃な価格で手に入るメジャーなきのこですが、食物繊維はもちろんのこと、ビタミンB群やミネラルを多く含む栄養満点な食品としても注目されています。
さらに「えのきには糖尿病を予防・改善する効果があることが判明した」というので見逃せません。
これは、東京農業大学と「きのこ生産日本一の市」である長野県中野市のJA中野市が共同で行った研究結果によるもので、えのき茸を使って作られる「えのき氷」を2か月以上摂取した場合には、糖尿病の予防・改善効果が認められたといいます。
気になる「えのき氷」の作り方は、とても簡単です。えのきをミキサーでペースト状にしてから煮出して、製氷皿などで小分けにして凍らせるだけなので、家庭でも手軽に取り入れることができるのは嬉しいですね。
また、えのきにはキノコキトサンが豊富に含まれており、脂肪を包み込んで排出したり、脂質をコーティングして腸壁から吸収されないように働いてくれるのです。また、えのきに含まれている「エノキタケリノール酸」は、糖尿病患者が気になる内臓脂肪を減少させる効果も期待できるといいます。
通常のえのきにも、もちろん糖尿病改善効果のある成分や、脂肪の排出を促す成分は含有されています。しかし、これらの働きをもつ成分は、お互いが強く結びついた「食物繊維」の中に隠れているのです。
そこで、一旦冷凍して細胞同士の結びつきを壊すことによって、糖尿病や肥満防止に効果的な成分を効率よく摂取できるようになる、というメカニズムだといわれています。
舞茸は糖尿病患者の血糖値急上昇・肥満を防ぐキノコ
舞茸(まいたけ)は、糖尿病患者が良好な血糖コントロール・肥満予防をするうえで見逃せないパワーを持っています。
舞茸に含まれる「マイタケαグルカン」と呼ばれる成分は、インスリン抵抗性やインスリン分泌機能を改善し、血糖値上昇を抑える効果があると考えられています。
また、舞茸に多く含有されている「βグルカン」や「キノコキトサン」などの食物繊維は、小腸で糖が吸収されるのを抑制し、血糖値の上昇を抑えたり脂質代謝の改善作用もあるといわれているのです。
糖尿病の食事療法では、炭水化物摂取による血糖値の急上昇に注意しなければなりませんが、舞茸の「n-ヘキサン抽出物」という成分は、炭水化物に反応する消化酵素の働きを阻害します。その結果、糖の消化・吸収が穏やかになり、食後血糖値が急上昇しにくくなるといった報告もあるほどです。
舞茸が持つ力を最大限に引き出すためには、食事の5分程度前にゆっくり噛んで食べることが大切です。
最初に食べることによって、舞茸に含まれているさまざまな種類の食物繊維が、あとから入ってくる脂質や糖質の吸収を抑制してくれます。
糖尿病で食事療法を行っている方は、ぜひ食事の前に舞茸を取り入れてみてください。
糖尿病におすすめのキノコ料理は?
えのきや舞茸、しめじなどのキノコは、どんな料理にも合わせやすいのが特徴です。
糖尿病の方は、高血圧予防のために減塩を指導されたり、肥満防止のために油を控えるよういわれることも少なくありません。
キノコには、グルタミン酸やグアニン酸と呼ばれる「旨味成分」がたっぷり含まれているのが大きな特徴です。葉物野菜と一緒にお浸しにすればキノコの旨味成分が野菜にも馴染むので、薄味調理でも美味しく食べることができます。
また、ミルクスープやトマトスープ、味噌汁にプラスするのも良いでしょう。
特に、炊き込みご飯を作る際にはキノコをたくさん入れると、お米自体の摂取量を減らしつつも満足感のある食べごたえになります。炊き込みご飯には、しめじやエリンギがよく合うので、ぜひ試してみてください。
食前にキノコを摂る場合は、野菜と一緒に「スチームケース」などで蒸し野菜にするのがおすすめです。スチームケースをひとつ持っていれば、適当に切った野菜ときのこを乗せてからレンジで加熱するだけで、食前用の温野菜が完成します。
手の込んだ料理を作ろうと思うと面倒になって、野菜やキノコの摂取量が減少してしまうものです。適度に「手抜き」をしながら、糖尿病の食事療法を行っていきましょう。
糖尿病では「えのき」に注意ってどういうこと?
ここまで、糖尿病の食事療法といった観点からキノコの栄養や作用についてお話してきました。しめじや舞茸、えのきなどのキノコが「良好な血糖コントロール」に欠かせない食品だということは理解していただけたかと思います。
しかし、「糖尿病ではえのきに注意しよう」といったフレーズを耳にしたことがある方も多いでしょう。これは、糖尿病患者がキノコの「えのき」を食べてはいけない、という意味ではありません。
糖尿病の「えのき」とは、壊疽(えそ)、脳梗塞、虚血性心疾患(狭心症)の頭文字をとったものです。糖尿病患者さんが覚えやすいように、こう呼ばれています。
糖尿病になると、血糖値が高い状態が続くことによって血管壁が慢性的なダメージを受けます。そのせいで動脈硬化を起こしやすくなり、これらの疾患が発症するといわれているのです。
糖尿病患者の場合には、足に炎症が起きたり傷ができることで「糖尿病足病変」を起こすことも珍しくありません。初期の段階で正しい治療を行わずに放置していると、壊疽まで進行して下肢切断となるケースもあります。
また、脳梗塞は高血糖によって血流が悪くなり、脳の血管が詰まりやすくなることが原因だといわれています。狭心症などの虚血性心疾患も、糖尿病による高血糖で血管壁が損傷したり、詰まりやすくなるのが主な原因です。
糖尿病の「えのき(壊疽・脳梗塞・虚血性心疾患)」を予防するためには、食事療法と運動療法、そして薬物療法をあわせて良好な血糖コントロールを心がけるしかありません。
肥満を改善することや、高血圧の予防、禁煙、コレステロールを下げるなど、医師から指導された内容をもとに糖尿病治療を行っていくことが大切です。
糖尿病の三大合併症「しめじ」とは?
糖尿病の「えのき」については先ほど詳しくお話をしましたが、糖尿病の三大合併症である「神経障害」「網膜症(目)」「腎症」は、これらの頭文字をとって「しめじ」と呼ばれています。
糖尿病三大合併症の「しめじ」は、細小血管合併症とも呼ばれ、糖尿病の高血糖で細い血管がダメージを受けることによって発症します。
個人差はありますが、多くの場合には神経障害から始まり、網膜症、そして重度になると腎臓にまで影響が出てくるといわれており、早期発見・早期治療が重要です。
しめじの「し」にあたる糖尿病神経障害では、足の先がしびれたり感覚が鈍くなったりします。指先や足裏から始まることが多いので、少しでも異変を感じた場合には迷わず、かかりつけの医師に報告・相談しましょう。
「もしも神経障害だったら怖い」と正直に症状を話さない患者さんも、実際に存在します。しかし、放置していると重篤な状態まで悪化させてしまうことも少なくありません。
糖尿病合併症は、早期に治療をすれば健常な人と同じような生活が送れるので、ためらわずに報告するようにしてください。
また、糖尿病網膜症(目)の場合には、眼科で診察してもらわないと気付かないことがほとんどです。
網膜はカメラに例えるとフィルム部分のことで、視力を司る重要な場所です。毛細血管瘤と呼ばれる小さなコブのようなものができ、進行すると眼底出血を起こします。
しかし、眼底出血が始まってもすぐに視力への影響があるわけではないため、初期の段階では自覚症状がなく、見逃しがちになってしまうのです。
糖尿病と診断されたら、年に1回は眼科で検査をしてもらうように心がけましょう。
しめじの「じ」である、糖尿病腎症を早期に発見するためには、尿検査が必要となります。腎症を発症すると「尿たんぱく」が出てきますが、自覚症状はほとんどありません。
食欲減退や倦怠感、尿が出ないなどの症状は、腎不全になって人工透析を受けるほど進行しないと感じることはないというので注意が必要です。
尿検査で「微量アルブミン尿」を調べてもらえば、初期段階で糖尿病腎症を見つけられます。初期の腎症は、血圧と血糖のコントロールをしっかり行えば正常値に戻ることが多いため、やはり早期治療が重要となってきます。
まとめ
糖尿病治療中の患者さんは、「摂取カロリーが気になってお腹いっぱい食べられない」と苦しむ方が多いものです。しかし、きのこは低カロリーで低糖質な食品のため、たっぷり食べても肥満の心配がありません。それどころか、きのこに含まれる食物繊維は小腸で糖が消化・吸収されるのを抑制して、食後の血糖値上昇を緩やかにする働きがあります。
旨味成分が豊富な「きのこ」は、薄味でも満足感があるので、減塩や脂質カットにも貢献してくれるでしょう。食前に摂取すると、血糖コントロールにも良い効果が期待できるため、毎日の食前野菜と一緒に食べるのがおすすめです。
毎日の食生活にきのこを上手に取り入れて、糖尿病の「えのき」といわれる壊疽、脳梗塞、虚血性心疾患や、「しめじ」と呼ばれる神経障害、網膜症、腎症などの合併症を予防していきましょう。