目次
糖尿病とお酒に関する基礎知識
弊社の商品開発チームの医師監修
Q. 糖尿病だとアルコールは飲んではいけないのでしょうか?
A. 飲まない方が良いです。ただし、医師の判断により適量であれば認められる場合があります。その際は、糖尿病でも飲んでよいお酒を選ぶことが重要です。
お酒は毒?アルコールがもたらす糖尿病への害とは?
糖尿病と診断されると、甘いジュースなどの飲み物はもちろんのこと、医師から禁酒や減酒をすすめられることは珍しくありません。
糖尿病患者は膵臓からのインスリン分泌が正常に行われないため、糖分たっぷりの飲み物を控えるようにいわれるのは、なんとなく理解できる方が多いでしょう。
しかし、糖尿病治療中の方がお酒を禁止されるのはどうしてなのでしょうか。
お酒は適量であれば良薬ともいわれていますが、糖尿病患者にとっては害になることも多いのです。
その大きな理由としてあげられるのが、お酒に含まれるアルコール自体が高カロリーであることです。アルコールに含まれるカロリーは、1gあたり7kcalといわれています。カロリーが高いことで知られている「脂肪」は1gあたり9kcalなのですが、案外知られていません。
糖尿病治療においては、食事療法によって1日の摂取カロリーをコントロールしていく必要がありますが、アルコールのカロリーまでしっかり管理できている患者さんは少ないものです。また、お酒を飲んで酩酊状態になると、誰でも気が大きくなるため「飲み過ぎ」を招く原因となってしまいます。
アルコール自体には、血糖値を上げる作用はないといわれていますが、アルコールを摂取すると肝臓がグリコーゲンからブドウ糖へ分解する作用が働くため、一時的に血糖値が上がります。
さらに飲みすぎると、今度は肝臓がアルコール代謝に追われてブドウ糖放出をストップし始めるのです。血液中の糖が不足すると、低血糖が起こりやすくなるため注意しなければいけません。
特に、血糖降下薬やインスリン注射で糖尿病治療を行っている場合には、著しく血糖値が下がり「重度の低血糖発作」に陥るケースは珍しくありません。
寝ている間に血糖値がぐんぐん下がり出すと、そのまま命を落とすこともあるほどです。
最初は、「お酒をたくさん飲んだ方が高血糖を抑えられて調子がいい」と勘違いする人もいます。しかし、これはお酒が血糖コントロールを乱し、低血糖の恐ろしい兆候が出ているだけなので注意しましょう。
また、アルコールには食欲を増進させる働きがあります。食事量や栄養バランスに気を配っている人でも、お酒を飲んだときには塩分、脂質、カロリーの高いつまみや料理を食べ過ぎてしまう傾向が見られるのも事実です。
その結果、中性脂肪が高くなったり肥満を招くことに繋がるので、糖尿病患者は原則禁酒が推奨されています。
糖尿病の自覚症状がないからといってお酒を飲むのは危険
糖尿病は、本来であれば食事療法や運動療法、薬物療法によって悪化を予防できるといわれている病気です。しかし、糖尿病が初期のうちには自覚症状がほとんどありません。これが糖尿病の罠なのです。
初期の糖尿病患者は、自分の身体に大きな異変を感じていないため「お酒が好きだからやめられない」「楽しみを我慢してまで長生きしたくない」「ストレス解消になるから」など、さまざまな理由をつけて、飲酒をやめようとしません。
しかし、アルコールには前述した通り、カロリーの過剰摂取、低血糖の危険性、中性脂肪の増加など、糖尿病患者にとって多くのマイナス要素があることには変わりないのです。
アルコール摂取を続けることで検査の数値がだんだん悪くなり、医師から「インスリン注射での糖尿病治療を開始しましょう」といわれてから、やっと反省する方も多いものです。しかし、一度インスリン治療を始めてしまうと元の生活には戻れません。
また、糖尿病で怖いのは、数値や症状が悪化して発症する「糖尿病合併症」です。
中でも糖尿病三大合併症と呼ばれているのは、糖尿病網膜症、糖尿病神経障害、糖尿病腎症となっています。
過度な飲酒を続けたり、食事管理をおろそかにしたり、運動療法を面倒に感じて真面目に取り組まなかった場合には糖尿病が水面下で進行して、恐ろしい合併症を発症するのです。
糖尿病網膜症で視力を失った患者さんや、糖尿病腎症で人工透析を受ける生活を送ることになった患者さんは「初期状態のときに、もっと気をつけていればよかった」と口を揃えて話します。
糖尿病の自覚症状がないからといって自己判断で過剰飲酒するのは、自ら「健康寿命」を縮める行為といっても過言ではありません。
まだ大きな症状で悩まされていないうちに、できる限りの悪化予防をしていきましょう。
糖尿病にビールは良くないといわれている理由
ビールには、アルコールの他に多くの糖質が含まれています。メーカーや種類によって含まれる糖質量は異なりますが、大体の目安として100mlあたり3~4gの糖質が入っていると考えていただいてよいでしょう。
350ml缶を1本飲んだ場合には、およそ11~14gの糖質を摂取する計算になります。
これに対して、蒸留酒である焼酎、ブランデー、ウイスキーなどの糖質量は0gです。ビールは、糖尿病を治療するうえで制限するべきカロリーと糖質ばかりが含まれているので、「糖尿病には良くない」といわれているのです。
糖尿病治療においては、糖質制限が重要です。1日の食事量や糖質量をしっかり管理しながら、バランス良くさまざまな栄養素を摂取する必要があります。
しかし、ビールには多くの糖質が含まれているにも関わらず、その他の栄養素がほとんど入っていません。
ビールは「エンプティカロリー」ともいわれますが、これはカロリーがエンプティ(空)なのではなく、栄養素が無いカロリーという意味なので間違えないようにしましょう。
ハイボールなら糖尿病でも飲めるって聞いたけど本当?
ハイボールは、蒸留酒であるウイスキーを炭酸で割る飲み物なので、糖質がほとんど含まれていません。そのため、糖尿病患者が飲むお酒としては適しているといえるでしょう。
しかし、いくら糖質ゼロでもアルコール飲料であることには変わらないのです。
前述した通り、アルコールは1gあたり7kcalと非常に高カロリーなため、過剰摂取は禁物です。
糖尿病合併症がなく、食事療法や運動療法によって経過が良好な方は、医師から「適量のお酒は飲んでも構わない」と指導されることもあるかもしれません。
その場合には、純エタノール換算で1日あたり20g以下のハイボールなら飲酒が可能です。
もちろん週に3回は休肝日を設けて、肝臓に負担をかけないようにハイボールを楽しむようにしましょう。
糖尿病でも飲めるお酒(アルコール)の種類は?
糖尿病と診断されている方でも、食事療法や運動療法で症状が落ち着いている患者さんや、合併症の心配がないと医師が判断した場合には、適量のアルコール摂取を認められるケースがあります。
そんなとき、「糖尿病でも飲めるお酒はどんなものがあるのだろう」と迷ってしまう方も少なくないでしょう。
糖尿病でも飲めるお酒として代表的なのは、焼酎など糖質の少ない蒸留酒です。
その他には、ジン、ブランデー、ウォッカ、ウイスキーなどの「スピリッツ類」がおすすめです。
ただし、割りものには注意しましょう。オレンジジュースなどの果汁や、甘いカクテルなどを使用したお酒は一気に糖質が上がってしまうため、糖尿病には良くありません。
また、ワインを選ぶ際には白ワインより赤ワインの方が、糖質が少な目となっています。甘口はブドウの糖質が多く含まれていますので、辛口をチョイスするように心がけてください。
逆に、糖尿病患者が避けたいお酒は、ビール、日本酒、果実酒(梅酒など)、甘いカクテル(カシスオレンジなど)、果汁を使用したサワーです。
これらは多くの砂糖や糖質を含んでいるので、血糖コントロールの乱れに直結します。
赤ワインが糖尿病患者の血糖値を改善するって真実?
ワインには、ポリフェノールとエタノールが豊富なことで有名です。特に赤ワインには、白ワインと比較して約7倍のポリフェノールと、4~13倍ものレスベラトロールが含まれています。
ポリフェノールは、高い抗酸化作用と脂質の改善効果が期待されており、レスベラトロールも同様です。さらに、ワインに含まれているエタノールには血糖値改善効果の作用があるとされています。
実際に赤ワインの持つ血糖値改善効果を確かめるべく、イスラエルにある「ネゲブ・ベン・グリオン大学」のヤフタク・ゲプナー博士が率いるチームが研究を行いました。
224名の糖尿病患者を対象として、白ワイン群、赤ワイン群、ミネラルウォーター郡にグループ分けを行い、毎日150mlを飲んでもらう実験をしたのです。
2年間の追跡調査を行った結果、赤ワイン群と白ワイン群では空腹時血糖値とヘモグロビンA1cが低下し、インスリン抵抗性の改善まで認められたといいます。
さらに驚くべきなのは、赤ワイン群だけに「HDLコレステロール」の改善を確認したことです。HDLコレステロールが低下することは、糖尿病患者の多くが悩まされる動脈硬化の予防にもつながります。
これらの研究結果によって、赤ワインは糖尿病治療において有用な選択肢のひとつとなると考えられているのです。
糖尿病ならノンアルコールビールや糖質ゼロ飲料を活用しよう
糖尿病患者がお酒を楽しむ際には、糖質量に注意しなければなりません。
前述した通り、ビールや日本酒、果実酒、甘いカクテルには多くの糖質や砂糖が含まれているので、糖尿病治療を行っている方は避けるのが良いでしょう。
しかし、「ビールが大好きだから、どうしても飲みたい」といった患者さんも多いかもしれません。その場合には、糖質ゼロのビールやノンアルコールビールを選ぶのもひとつの手段です。
最近では、糖質ゼロ飲料がさまざまなメーカーから販売されています。ビールの味わいや「のどごし」はそのままに、美味しさを楽しめる発泡酒・第三のビールも増えている状況です。
カロリー制限や糖質制限を行うべき糖尿病患者にとっては、喜ばしいことかもしれませんね。
ただし、「糖質ゼロ」や「糖質オフ」と書かれているからといって、全く含まれていないわけではありません。
健康増進法による基準では、100mlあたりの糖質量が0.5g未満の場合には「糖質ゼロ」と表記できてしまうため、大量摂取をするのは問題になってきます。
もし不安な点がある場合には必ず医師に相談のうえ、糖質ゼロのビールを取り入れるようにしてください。
また、「医師に禁酒するよう言われたが、急にお酒をやめるのは難しい」といったときには、ノンアルコール飲料を選ぶのもおすすめです。
禁酒や減酒には強い意志が必要となりますが、できるだけストレスを感じないようにしながら、飲酒量を少しずつ減らせるように努力してみましょう。
糖尿病患者に良いお酒のつまみと悪いつまみは?
糖尿病を治療している方は、お酒のおつまみも食事療法の一環に組み込んで考える必要があります。一般的に良いとされている「つまみ」は、低糖質な野菜を蒸したものなどですが、1日の摂取カロリーと栄養素を元に決めることが原則です。
空腹時にアルコールを摂取してしまうと低血糖を起こしやすくなるため、本来なら夕食と一緒にお酒を飲むのが推奨されます。
また、居酒屋などのメニューで多く見られる、からあげ、ポテトフライなどの揚げ物は、カロリーはもちろんのこと脂質や糖質が多いので絶対に避けましょう。
特に、お酒が入ると気が緩んでついつい食べ過ぎてしまうものですが、「一度くらい大丈夫だろう」という甘い考えの積み重ねで、重篤な糖尿病合併症を引き起こすことも珍しくありません。
糖尿病の悪化を予防したいなら飲酒は適量を守ること
糖尿病を悪化させたくないのであれば、本来は禁酒するのがベストです。特に、重度の糖尿病や合併症を併発している方は原則禁酒となっています。
しかし、「どうしても飲みたい」「我慢するとストレスがたまる」という場合には、医師との相談のうえ適量を守って飲酒しましょう。
お酒で摂取するカロリーは160kcalまでなら良いといわれていますが、糖尿病の状態や医師の判断によって許容量は異なります。決して自己判断で飲酒しないように注意してください。
飲酒を許される条件はいくつかありますが、第一に「血糖コントロールが安定している」という部分が重視されます。他には、高血圧や動脈硬化が軽度、合併症がない、体重の管理ができているなど、細かくチェックされる項目があります。
そして、糖尿病治療において重要視されているのが「自制心がある」という精神的な面です。食事療法や運動療法を面倒に感じる方も少なくありませんが、強い意志を持って糖尿病治療に取り組めることが、悪化防止や合併症予防につながっていくでしょう。
アルコールの過剰摂取は、糖尿病でなくても身体に害を及ぼします。肝臓病をはじめ、膵臓病、胃疾患、高血圧、痛風の原因になることは医学的にも明らかです。
週に最低でも1~2回の禁酒日・休肝日を設定し、内臓を休ませる時間も作ってあげるようにしましょう。
糖尿病ならアルコール以外の飲み物にも注意して治療を行おう
お酒に含まれるアルコールは、経口血糖降下剤やインスリン注射を行っている方の場合、低血糖を引き起こす原因となることは前述しました。また、カロリー・糖質の過剰摂取につながる恐れもあるため、飲酒量には十分気をつけましょう。
そして、糖尿病患者が治療を行うときには、アルコール以外の飲み物にも注意する必要があります。特に、甘いジュースなどの清涼飲料水や、ブドウ糖が多く含まれた炭酸飲料は血糖値を大きく上昇させてしまうため、できるだけ避けてください。
ブドウ糖が含まれた飲み物は、低血糖発作を起こした際の応急処置としても使われるほど「血糖上昇作用」があります。
糖尿病治療を行っている場合には、基本的に水かお茶で水分補給を行うようにしましょう。
まとめ
糖尿病と診断された場合には、「原則禁酒」といわれています。しかし実際のところ、糖尿病になってもお酒を飲みたい、やめられないといった方は多いものです。
特に、糖尿病治療ではさまざまな制限がかかることもあり、精神的なストレス・不安を抱える患者も少なくありません。
しかし、その精神的不安を少しでも解消するためにお酒に走って自制心がきかなくなると、血糖コントロールの乱れや合併症の発症、高血圧によって糖尿病が必ず悪化します。
糖尿病合併症によって、視力を失う、足を切断する、人工透析を受けるなどの厳しい現実を目の当たりにしてから後悔しても、正直もう手遅れなのです。
アルコールを摂取するときには、医師から指示された適量を守り、1日の摂取カロリーや糖質をオーバーしないよう注意しながら楽しみましょう。
この記事の監修ドクター
自然療法医 ヴェロニカ・スコッツ先生
アメリカ、カナダ、ブラジルの3カ国で認定された国際免許を取得している自然療法専門医。