目次
糖尿病と空腹感に関する基礎知識
弊社の商品開発チームの医師監修
Q. 糖尿病だと空腹感はなぜ起こるのですか?
A. 低血糖が原因で起こる空腹感や、尿糖排出のために起こるものがあります。
糖尿病と空腹感の関係は?
糖尿病はあまり自覚症状がない病気ですが、自覚症状として挙げられるものは、尿糖が出はじめる、皮膚が乾燥してかゆくなる、疲労感、傷が治りにくい、手足に刺すような痛みがあったり感覚がなかったりするなどです。その中に「空腹を感じる」というものがあります。
空腹に限らず、これらの症状を感じることが多くなってきた場合には、糖尿病がある程度進行しているといえます。場合によっては、これが糖尿病を発見するきっかけになることもあります。
では、空腹感は糖尿病とどのように関係しているのでしょうか?空腹は健康な人でも、人なら誰でも感じるものです。糖尿病の場合に空腹を感じると、どんな問題があるのでしょうか。
人が感じる空腹と満腹は、実は血液中にある遊離脂肪酸とブドウ糖の濃度が関係しています。食事をすることによりこの2つの濃度が変化して、満腹中枢と摂食中枢に影響を与えることで、空腹と満腹を感じているのです。では、詳しいメカニズムはどうなっているのかみていきましょう。
空腹と満腹を感じるメカニズム
人が空腹を感じるときは、日常的な活動で体内のエネルギーが消費され、血糖値が低下しているときです。この状態のときは、エネルギー不足を補うために、体に蓄えている脂肪や筋肉のたんぱく質を分解し、エネルギーに変えようとします。
このうち、脂肪を分解するときに発生するのが「遊離脂肪酸」といわれるものです。遊離脂肪酸が血液中に増えてくると、その情報が摂食中枢に送られ、摂食中枢はエネルギーの摂取すなわち食事が必要なことを教えます。これが空腹感となって人は食事をしたくなるのです。
満腹次に満腹を感じる仕組みですが、ほぼ逆のことが起こります。人が食事するとエネルギーになりますが、その際に分解されたブドウ糖により、血液中のブドウ糖の濃度が高くなり、同時に血糖値も高くなります。そして、その情報が満腹中枢に送られると、満腹中枢はエネルギーの摂取はもう必要ないという情報を体に返し、満腹を感じることになります。
ちなみに血糖値の上昇は消化がはじまってからですので、食事を開始してすぐに上がるわけでありません。そのため、満腹を感じる前に大量に食べてしまう早食いの人などは、太りやすくなってしまいます。糖尿病の人が、食事療法でゆっくり食べるように指導を受けるのはこういう理由があります。
糖尿病患者が常に満腹ではないのはなぜ?
先ほどの話では、血糖値が高いと満腹を感じ、血糖値が下がると空腹を感じるということでした。そこで疑問なのは、常に血糖値が高い糖尿病患者は、常に満腹状態なのではないかということです。
血糖値は確かに満腹感や空腹感に関係していますが、厳密にはそれだけで決まるわけではありません。ポイントは胃に何もない状態かどうかということです。胃は拡張と収縮をする臓器で、その状態によって満腹中枢と摂食中枢のどちらに影響を与えるかが変わります。
しばらく何も食べていない状態だと、胃が飢餓収縮(きがしゅうしゅく)して、摂食中枢に情報が伝えられ、空腹を感じます。逆に食事をした後は胃が拡張しますので、その刺激が迷走神経を伝って満腹中枢に届き、満腹になるというわけです。
また、糖尿病患者のように長い間高血糖状態が続いている場合、満腹感と空腹感の境界が曖昧になってきて正常に機能しなくなることもあります。あるいは基準の血糖値が高いというのを体が記憶してしまい、その値より下がれば摂食中枢が刺激されるということもあります。とにかく、高血糖だからといって常に満腹だったり、空腹を感じないということはありません。
糖尿病での空腹感の原因は?
通常、人が感じる空腹と糖尿病による空腹感は、区別は難しいもののある程度の原因の違いはあります。空腹感と満腹感は血糖値が関係していますので、大まかにいえばそれらが原因となっています。
頻尿と尿糖の排出によるもの
高血糖になると、血液中に多くのブドウ糖が混ざっている状態になりますので、体は過剰な糖を尿から排出しようとします。その際に多くのエネルギーが失われることになり、それが強い空腹感となる原因になります。
人によっては体重が減って、どんどんやせていくこともあります。ただし、血液中の糖の量や体のはたらきは個人差がありますので、人によってはそこまで空腹を感じないという人もいるでしょう。頻尿で尿糖が多い人にみられる現象です。
低血糖によるもの
高血糖は血糖値が正常値よりも高くなることをいいますが、逆に低くなることを低血糖といいます。低血糖状態になると、発汗、疲労、脱力感、思考力の低下などさまざまな症状があらわれます。空腹感もそのひとつに含まれていますので、糖尿病を患っていて空腹を感じた場合は低血糖になっている可能性もあります。
低血糖になる原因は、インスリン注射が効きすぎている場合や、普段から偏った食生活により糖を過剰摂取しているため、インスリンの分泌量が増え、空腹のときに低血糖が起こるというものです。
インスリン製剤やスルホニル尿素薬などの、低血糖を起こす可能性のある薬を使用している場合、空腹感が低血糖のサインになることがあります。頻繁に低血糖を起こしていると心血管リスクが高くなることが知られているため、危険です。空腹を感じることが多いようであれば、低血糖を疑い担当医師に相談することも視野に入れていきましょう。
ただの空腹感の可能性も
空腹は健康な人も感じるものですので、それが糖尿病に起因するものなのか、正常な空腹感なのかは判断するのが難しいものです。糖尿病がそこまで進行していないうちは、ただの空腹感である可能性もありますので、特に混乱してしまうでしょう。
もしかして糖尿病が悪化してしまったのではないかと焦ってしまうかもしれません。残念ながらこれを区別する方法はありませんが、普段から薬物療法、運動療法、食事療法を実践していれば、自分の血糖値を把握できているはずですので、異常があればわかります。それでも不安な場合は担当医師に相談してみましょう。
空腹を感じても我慢するべき?
糖尿病にとって肥満は大敵ですし、お腹が空いたからといって間食をしないほうがいいのではないか、あるいは血糖値が上がるからなるべく食べないほうがいいのではないか、という考えが浮かぶことがあるかもしれません。空腹時の我慢は、糖尿病にとって良いものなのでしょうか?
空腹感は前述のとおり、体のエネルギーが不足しているというサインになります。糖尿病ではなく血糖値が正常な人でも、空腹状態のときに血糖値が下がりすぎると、一時的に低血糖になることもあります。
空腹を感じているのに何も摂取しない状態だと、以下のようにさまざまな障害が起こりはじめます。
- めまい
- イライラ
- 思考能力の低下
- 手の震え
- 動悸
- 冷や汗
- 脱力感
人によっては一時的な低血糖状態、低血糖に近い状態になることもあるため、症状がひどい場合は飴を舐めるなどの対処をしたほうがいいでしょう。
必ずしも我慢をするのがいけないというわけではありません。確かに食事をすることは太る原因になりますので、我慢をすることで肥満予防やダイエットになります。空腹を感じるということは、脂肪をエネルギーに変えはじめた証拠になります。
ただ、前述のように低血糖の症状が出る場合もあるため、一概にいいとはいえません。そのため、空腹を感じにくい食事方法を実践することで緩和するのがよいでしょう。
普段から空腹を感じるときの対処方法
空腹を感じるたびに、それがなくなるまで何かを食べ続けたのでは、体重増加の原因になり糖尿病を悪化させるばかりです。それを防ぐためには、空腹を感じたときにどういう対応をしたらいいのか、あるいは空腹を感じにくくするための方法を知っておくことが重要です。そこで、空腹感をコントロールする方法を紹介していきたいと思います。
1回の食事量を減らして食事の回数を増やす
空腹を感じるのは、食事から食事までの感覚が長いのが問題ですので、回数を増やして空腹を感じにくくするという方法です。これは分食といわれる方法ですが、ダイエットにも効果があるといわれています。1日3食を1日5食に増やし回数を増やした分はその分、量を減らして、カロリーや糖質の摂取量を調整します。
分食が空腹感に対してどのようにいいのでしょうか。そもそも糖尿病の食事療法のひとつに、この分食という方法があります。朝食を抜いた場合など、次の食事までに時間をあけるほど、次の食事での血糖値の上昇が急激になります。
逆にいうと、食事から食事までの時間を短くすると、血糖値の上昇をゆるやかにすることができるということになり、1日の食事の回数を増やすと血糖値もそれだけゆるやかになるということです。また、食事をすることもエネルギーを使う行為ですので、食事回数を増やすとそれだけ消費エネルギーが増えてダイエット効果があるといわれています。
噛む回数を増やしゆっくり食べる
これも糖尿病の食事療法の基本になっていることですが、一口の量を少なくし、噛む回数を増やすことで空腹感を緩和することができます。よく噛むと満腹感を得やすいことはよく知られています。これは、時間をかけて噛むことで満腹中枢を刺激し、食欲を抑えるホルモンが分泌されるためです。
しかも、噛むこと自体もカロリーを消費しますので、それだけやせることができます。ある研究では、よく噛んだグループは早食いの人に比べて、2倍のカロリーを消費していたという結果が出ています。これにより空腹を感じにくくなり、満腹を感じやすくなることで食べ過ぎを防ぐことができます。
またそれだけではなく、ゆっくり食べることは血糖値の上昇をゆるやかにする効果があります。このように、よく噛むことは、糖尿病の患者にとってはとてもメリットのあることなのです。
間食をするときは食べるものを選ぶこと
間食するのは絶対に悪いという訳ではありません。ですが、もし間食をするのであればできるだけ太りにくいものや、ダイエットを手助けしてくれるようなものを選ぶと安心です。ケーキやチョコレートといった砂糖が入ったものは避け、エネルギーの代謝をよくするビタミンB群や、血糖値の上昇をゆるやかにしてくれてさらに空腹感を満たしてくれる、食物繊維を摂るのがおすすめです。
具体的には、牛乳やヨーグルトなどの乳製品、ドライフルーツや果物、ビタミンB群を含む雑穀米おにぎりなどがありますので、好みや生活スタイルに合わせて選びましょう。そして、間食をした分はその後の食事の量を減らすなどして、調節できるともっと良いでしょう。
低血糖状態を過去に経験している人は、恐怖心から間食をして血糖値が下がりすぎるのを防ぐという人もいます。確かに低血糖が会社や電車の中などの場所で起こってしまうと、他人に迷惑をかけたり、恐い思いをしたことがトラウマになってしまうかもしれません。
ですが、低血糖は対処方法を知っていれば、それほど怖くない症状です。担当医師に低血糖の対処法をしっかり聞いて、実際に起こったときも報告し、インスリンの量などを確認してもらいましょう。間食をすると血糖値が下がるのを防ぐことはできますが、毎回間食をしていたのでは、太る原因になりますので、逆効果です。
まとめ
糖尿病にとって空腹感は病気の進行をあらわす目安になることもありますが、それが病気からくるものなのかどうか判断するのは困難です。そのため、空腹を感じることが多いと、糖尿病になってしまったのではないか、あるいは糖尿病が悪化してしまったのではないかと不安を覚えてしまうかもしれません。
間食については、糖尿病にとってはよくない肥満やダイエットのことを考えると、できればしないほうがいいですが、急に全部やめても長続きしません。また、毎日毎日空腹を耐え続けることは難しいですし、反動で食事の量が増えてしまうこともあり本末転倒です。
少しずつ量を減らしていけば体が馴染んできて、自然と間食の量も減っていくでしょう。ただし、いくら空腹だからといって寝る前の食事は厳禁です。
糖尿病はさまざまな合併症を引き起こしますし、いろいろなことに気をつけなければならず、とても大変な病気です。ですが、食事療法をしっかり実践することであらゆることに対し改善傾向が出てきます。悪い習慣の積み重ねで起こる病気ですので、治すときも毎日の積み重ねが大事になります。焦らずにコツコツと続けていきましょう。